【子供による被害→親の監督者責任|否定方向に基準変更|平成27年ネオ判例】

1 サッカーボール→バイク転倒事件|親権者の監督者責任|最高裁ネオ判例
2 親の監視下にない子による損害→監督者責任は肯定傾向だった|ネオ判例以前
3 親の監視下にない子による損害→監督者責任が否定されたレアケース|ネオ判例以前
4 子供を預かった学校などの責任|『子供の判断レベル』で監督者責任の重さが違う
5 ネオ判例|親の監視下にない子による損害→監督者責任を否定する新基準導入
6 ネオ判例→親としての義務・責任が限定された
7 責任負担者なしスポット発生→被害者救済の必要性が残された
8 平成27年ネオ判例→施設管理者の責任が肯定される傾向が強まった
9 平成27年ネオ判例→社会的・マーケット感覚的な影響論

本記事では『親権者の監督者責任』の監督義務について説明します。
監督者責任の基本事項や具体的事例については別記事で説明しています。
詳しくはこちら|子供と親権者の賠償責任;事理弁識能力,監督責任
詳しくはこちら|監督者責任の具体的事例・判例|鬼ごっこ・サッカー・よもぎの矢・火遊び

1 サッカーボール→バイク転倒事件|親権者の監督者責任|最高裁ネオ判例

平成27年4月に,最高裁が従来の『監督者責任』のルールを変えるビッグニュースが飛び出しました。
この事案を元に,監督者責任の内容・判断基準について説明します。
まずはこの判例(ネオ判例)の事案内容を整理します。

<サッカーボール→バイク転倒事件|親権者の監督者責任>

あ 事案

加害者=11歳の少年
加害者が校庭でサッカーの『フリーキック』を行っていた
その途中でボールがそれ,校庭から飛び出し,公道を転がった
公道では,被害者が運転するバイクが走行中であった
被害者は,ボールを避けようとして転倒した
被害者は転倒により負傷し,その後死亡するに至った

外部サイト|最高裁判所|判決文

次に,原審・ネオ判例の結論をまとめておきます。

<裁判所の判断|原審×最高裁ネオ判例>

あ 行為自体の違法性|原審・最高裁共通

サッカーゴールの位置・校庭の門扉・ネットフェンスの状況
→ボールが外部の公道に飛び出す危険性がある状態であった
→違法性あり

い 監督者の監督義務|ネオ判例が覆した
原審 認められた(過失相殺はあり)
最高裁(ネオ判決) 否定された

次に『監督者責任』の内容について説明します。

2 親の監視下にない子による損害→監督者責任は肯定傾向だった|ネオ判例以前

子供が『親の監視下にない』場合には,どこまで親が責任を負うのか,という問題があります。
この点,従来の判例では『親の責任は否定できない』という傾向がとても強かったです。

<親権者・未成年後見人の負う監督者責任|従来の判例

あ 一般的な監視・教育義務

全生活領域にわたって,未成年者が他者を害する行動をとるおそれがないかを監視する
他害行為をしないように指導・教育する

い 監督義務履行の証明

証明責任は親権者側にある
→現実的には極めて困難
※民法712条,714条
※判例多数;後記

3 親の監視下にない子による損害→監督者責任が否定されたレアケース|ネオ判例以前

従来蓄積された判例における監督者責任の判断について整理します。

<法定監督義務者の責任が否定された判例|従来の判例

あ 原則論

ほとんどない

い 特殊事情による例外|代理監督者が有責

保育園などの『代理監督者』の監督下であった場合
※函館地裁昭和46年11月12日
※宇都宮地裁平成5年3月4日

う 例外|事情は不明+明確な理由の記載なし

明確な理由が示されていない+非常に古い判断
→再現可能性は低いと言える
※大判明治33年4月30日

4 子供を預かった学校などの責任|『子供の判断レベル』で監督者責任の重さが違う

学校・保育園など『子供を預かる施設』も子供の行動による損害について法的責任を負います。
監督者責任の一環ですが,正確には『監督代行者責任』と言います。
当然ですが,子供の判断レベルによって監督義務の範囲・程度も異なります。

<子供を預かった組織の監督代行者責任>

あ 保育園

保育園における保育・これに随伴する生活関係全般に及ぶ
当該行為をまったく予期し得ないなどの特別な事情がない限り責任を負う
※和歌山地裁昭和48年8月10日

い 幼稚園・託児所・小学校・中学校

『監督が委託された原因』に応じて限定された生活領域内の責任を負う

う 小学生(特に高学年)・中学生に対する監督

学校内における教育活動・これと密接不可分の関係にある生活関係に限定される
※東京地裁昭和40年9月9日;中学生について
※高松高裁昭和49年11月27日;小学生について

5 ネオ判例|親の監視下にない子による損害→監督者責任を否定する新基準導入

平成27年4月9日の最高裁判決で『監督者責任』の判断に新基準が導入されました。

<監督者責任の『監督義務』の範囲|平成27年NEW判例

あ 一般的な監督義務|従来からの進化なし

直接的な監視下にない『責任能力がない子』の行動に関する監督義務
=『人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう』日頃から指導監督する

い 子の行為が類型的に『危険性なし』の場合

『通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為』によってたまたま損害を生じさせた場合
→監督義務不履行とは言えない

う 例外的に監督者責任が肯定される場合

具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められる場合
※最高裁平成27年4月9日

『監督義務』は,抽象的・一般的なものなのです。
これについてのコメントを紹介します。

<監督者の『監督義務』の抽象性>

あ 『自由範囲』の拡大

未成年者の能力の発達に応じて『自由に任せておく領域』が拡大する

い 『監督・管理』の縮小・抽象化傾向

ア 個々の行動への監督・管理という色彩は薄れて行くイ 『監督義務』は『普段からの教育・しつけの義務』という抽象的なものへ後退するウ 具体的な危険が予測される状況は別である ※『注解判例民法・債権法2』有斐閣p1296

以上の基準は堅苦しいので,もうちょっと噛み砕いて説明します。

6 ネオ判例→親としての義務・責任が限定された

平成27年ネオ判例の結果を『親の立場』から整理します。

(1)親の義務・責任|原則

<平成27年ネオ判例→親としての具体的な義務>

あ 通常のしつけ|内容

危険な行為に及ばないように注意すること

い 通常のしつけで大部分の責任回避ができる

子供の通常の遊戯の範囲内による損害発生
『校庭の日常的な使用方法として通常の行為である』←判例中の文言
→親権者の責任なし

(2)親の義務・責任|例外

平成27年ネオ判例の基準でも『監督者責任』が肯定される場合が残っています。
具体例としてまとめました。

<通常のしつけをしていても監督者責任が生じる例外>

あ 施設のルール違反

『禁止』されている場所・時間帯における遊戯

い 悪質性が高い行為|例

『意図的にボールを道路に向けて蹴った』←判例中の例示
ライターを買って火遊び→火災に発展したケース

う 親の直接の監視下にあった時の子の行為

例;親が見ている時に,サッカーによって事故が生じたケース

7 責任負担者なしスポット発生→被害者救済の必要性が残された

平成27年ネオ判例を元に各立場に生じた影響を整理しました。

<平成27年ネオ判例→『責任負担者なし』スポット発生>

子供 責任能力なし→法的責任なし
親権者 一般的なしつけをしていた→法的責任なし
被害者 法的救済なしの状態

8 平成27年ネオ判例→施設管理者の責任が肯定される傾向が強まった

平成27年ネオ判例は『監督者責任』が審理内容でした。
ただ,現実的・社会的に『施設管理者の責任』にも影響が生じます。

<平成27年ネオ判例→『法的救済』の要請>

あ 親権者の責任を否定したポイント

『校庭の日常的な使用方法として通常の行為である』

い 感覚的な責任論

校庭の管理・設置自体に不備があった
※理論的に『責任保存則』があるわけではない

う 校庭管理者の責任を問うべきだった

管理者である地方自治体(今治市)の責任が肯定された可能性がある

なおこの訴訟では,原告は校庭の管理者である今治市を被告に加えていません。
むしろ今治市は『補助参加』しています。
結果的に今治市は『安全地帯から防御だけはする』という状態になっていました。

<補助参加の制度概要>

あ 当事者ではない

権利・義務にはノータッチ

い 主張・立証できる

独立して『主張・立証』(攻撃防御方法)をすることができる

う 判決→参加的効力

当事者ではないので直接的な『判決の効力』は生じない
『判決の判断による不利益』を争えなくなる効果のみ
※民事訴訟法42条

9 平成27年ネオ判例→社会的・マーケット感覚的な影響論

平成27年ネオ判例から,マーケットメカニズムを含めて影響が波及すると予想されます。

<平成27年監督者責任ネオ判例→将来的・社会的な対策>

あ 個人レベル

保険加入
例;単独の『傷害保険』・自動車保険の特約の付加

い 施設管理者サイド

危険な状況の回避
ア 設備的・物理的対応 ネットなどの『事故防止』の設備設置
イ ルール整備 一定の時間帯・使用態様(競技種目)の『禁止』措置
ウ 保険加入

う 保険会社サイド

ア 個別的セールスのネタ 個人や施設管理者への売り込み
イ 立法→強制保険の利権ゲット 自動車・原発で成功した『法的な保険加入強制』手法

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