【好意同乗(無償同乗)による賠償額減額】
- 友人の自動車に同乗中に事故が起きて怪我をしました。
乗せてもらっていたということで減額されないのでしょうか。 - 「好意同乗」として賠償額が減額される考え方もあります。
しかし,最近は適用されない傾向があります。
1 好意同乗による過失相殺はされない傾向がある
2 好意同乗(無償同乗)で減額される要素
3 好意同乗(無償同乗)による賠償額減額の実例
1 好意同乗による過失相殺はされない傾向がある
昭和の頃は,いわゆる「好意同乗」として,減額される傾向が強かったです。
しかし,近年は,単純に無償で同乗した,という理由で減額される裁判例はあまりありません。
ただし,危険な運転をするドライバーに注意しなかった,など,過失がある場合は,過失相殺(民法722条2項)の類推解釈により,減額されることもあります。
2 好意同乗(無償同乗)で減額される要素
次のような,危険な状態と思われる事情があることを知っていて,特に止めることをしなかった場合,賠償額が減額されることがあります。
減額率について,多くの裁判例を分析すると,平均的に20%で,上下10%程度の中(10%~30%)に収まっていることがほとんどです。
当然,危険の程度がどのくらいであったか,によって具体的減額率は判断されています。
<好意同乗による減額を認める事情(要素)>
あ 運転者の疲労の程度が高かった
徹夜していた,長時間の運転,など
い 運転者が飲酒していた
飲酒後の休憩が不十分,なども含む
う 運転者が運転技術が未熟
無免許,免許取得直後など
え 定員超過
お シートベルト・ヘルメット不着用
か スピードを楽しむ雰囲気に同乗者も加担していた
3 好意同乗(無償同乗)による賠償額減額の実例
危険への関与の程度が一定以上のケースで減額が認められた事例を紹介します。
個別的に,同乗者が危険にどの程度関与していたか,細かく分析・判断されています(後掲裁判例1,裁判例2,裁判例3)。
判例・参考情報
(判例1)
[東京地方裁判所平成14年(ワ)第9273号損害賠償請求事件平成16年5月10日]
争いのない事実及び上記認定された事実を前提とすると,本件事故当時,原告と被告Eは被告バイクを二人乗りし,ともにヘルメットを着用していなかったことが認められる。本来一人乗り用の原付バイクに二人で乗ること自体,運転操作に影響を与える危険なものである。のみならず,本件においては,一方通行の逆走及び二人乗りを発見されたために,警察官からの追跡を逃れようと逃走していたもので,被告バイクが一方通行を逆走し,かつ減速もせずに本件交差点に進入し,本件事故を惹起したのは,本件パトカーから逃走していたからにほかならないが,原告は,単に後部に乗車していたにとどまらず,帽子でナンバープレートを隠すなど,逃走行為にはむしろ積極的に関わっていたものである。被告Eの逃走経路についての供述が信用できないことは,前記2の(2)のとおりであり,原告が逃走経路を指示していたと認めるに足りる証拠はないが,原告は自ら被告バイクの後部に同乗し,本件パトカーからの追跡を招いた上,被告Eとともに逃走行為に及んでいたもので,原告が,同乗することのほか運転の危険性を増幅,助長する行為に及んでいないとしても,被告Eの危険運転を容認していたことは明らかである。
また,原告は,頭蓋骨骨折,外傷性くも膜下出血,硬膜下出血を受傷しており,ヘルメットを着用していれば,これらの傷害の程度が軽く済んだ可能性があるから,ヘルメットの不着用も損害は拡大に寄与していると見ることができる。
これらの事情に鑑みると,同乗者である原告にも,過失ないし帰責性があるものと認められ,公平の見地から,原告に生じた損害の3割を減額すべきである。
(判例2)
[東京地方裁判所平成18年(ワ)第9935号損害賠償請求事件平成19年3月30日]
1 第1認定の事実によれば,亡Aは,Bとともに自ら被告Y1を呼び出して一緒にキャバクラに赴き,同所で約4時間にわたり被告Y1とともに飲酒した(うち被告Y1の飲酒時間は約2時間30分)上で,被告Y1が運転する車両に同乗しているのであるから,自ら交通事故発生の危険性が高い状況を招来し,そのような状況を認識した上で同乗したものと認められる。また,亡Aは,本件事故の際,シートベルトを装着せずに,脳挫傷,頭蓋底骨折,気脳症,外傷性くも膜下出血,顔面骨骨折,頚髄損傷,顔面挫創,左血気胸,左鎖骨骨折,左大腿骨頚部骨折,腹腔内出血,下顎骨折,左下腿骨折の傷害を被り死亡したのであるから,損害の公平の分担の見地から,民法722条2項の類推適用により,好意同乗減額及びシートベルト装着義務違反を併せて25パーセントの損害の減額を行うのが相当である。
(判例3)
[東京高等裁判所平成元年(ネ)第950号、平成元年(ネ)第3128号損害賠償請求控訴・同附帯控訴事件平成2年3月28日]
(三) 以上の事実によれば、本件事故の直接の原因は、小林が、かなりのスピードを出して無謀な追越しを図り、その際ハンドル操作を誤ったことにあるから、本件事故は小林の過失により生じたものというべきである。しかしながら、本件事故当時、排気量一三〇〇ccの小林車の定員(五人)を超える六人が乗車していたものであるから、小林車は、車の安定を欠き、わずかな衝撃でもバランスを失いやすい状態にあったと考えられる上、運転者の小林は、当時一八歳という年齢であり、また、何回か休息を取っていたとはいえ、深夜から早朝にかけて徹夜で、しかも、交替することなく終始一人で車を運転していたものであるから、本件事故当時は、疲労により的確にハンドルを操作する能力が低下していたと考えられるのであって、前記のように小林がハンドル操作を誤ったについては、これらの事情が一因となったものと容易に推認される。更に、本件事故現場において小林車が先行する宮脇車を追い越さなければならない必要性は特に認め難いところ、本件ドライブは、若者だけの深夜ドライブであり、各車のボンネット等にはステッカーが貼られ、また、参加者の中には、ジャンパーの下にさらしを巻き、木刀を携行するなど、暴走族まがいの格好をしていた者もいたことなどにかんがみると、本件ドライブの参加者の間にはスピードを楽しむ雰囲気があり、前記のように小林がかなりのスピードを出して無謀な追越しを図ったについては、このような雰囲気が影響していたものと見るのが自然である。
そして、大成は、右のように、小林車が定員超過の状態にあり、かつ、小林が徹夜ドライブで疲労していた事実を当然に承知していたはずのものであり、また、本件ドライブに主体的に参加することによって、右のようなスピードを楽しむ雰囲気の醸成に多かれ少なかれ関与していたものということができる(なお、前掲〈証拠〉によれば、本件ドライブ出発前に各車のボンネット等にステッカーを貼るに当たっては、大成が中心的役割を果たしたことが認められる。)。
してみると、本件事故により生じた結果を運転者である小林一人の責任に帰せしめることはできないというべきであり、他方、前掲藤山証言によれば、大成は、元来は仕事の都合で本件ドライブに参加することを予定しておらず、出発前にステッカーを貼っているうちにこれに参加することになったものと認められることから、本件ドライブ参加者の中では比較的関与の度合が低いことを考慮に入れても、過失相殺の法理の類推適用ないしは信義則の適用により、被控訴人らにおいて賠償すべき損害額は、前認定の全損害額からその二五パーセントを減じた額とするのが相当である。被控訴人らの抗弁1は、右の限度において理由がある。