【社用車と運行供用者責任;不真正連帯債務,求償】
- バス会社所有のバスが交通事故を起こしました。
この場合,バス会社は人身以外の損害(物損)について賠償責任はないのですか。 - 業務中の事故については,雇用主も連帯して賠償責任を負います。
使用者責任と言われるものです。
従業員個人が負う責任とは不真正連帯債務となります。
相互の”求償”については,従業員保護の解釈がなされます。
1 社用車での事故で会社が連帯責任を負う
2 ドライバー・雇用主の責任は連帯責任となる
1 社用車での事故で会社が連帯責任を負う
従業員が業務中に社用車で交通事故を起こした場合,会社も賠償責任を負います。
当然,運転していた者自身も責任を負います。
(1)運転者は不法行為責任を負う
運転していた者の過失により事故が生じているはずです。
他の者とは独立して,運転者には一般的な賠償責任が生じます(民法709条)。
(2)雇用主も使用者責任を負う
雇用主(使用者)も,従業員の業務中の行為による損害について賠償責任を負います。
これを使用者責任といいます(民法715条)。
そして,使用者責任は,生じた損害すべてが対象です。
<→別項目;従業員の行為により第三者に損害が生じると,雇用主も使用者責任を負う>
この点,『運行供用者責任』では人身事故に限定されています。
責任の種類によって範囲が異なるのです。
(3)従業員と雇用主の責任の整理
↓責任を負う者 | 人身損害 | 物損 |
---|---|---|
従業員 | ◯ | ◯ |
会社(使用者責任) | ◯ | ◯ |
会社(運行供用者責任) | ◯ | ☓ |
2 ドライバー・雇用主の責任は連帯責任となる
業務中の事故については,ドライバー自身も,雇用主も賠償責任を負います。
雇用主の責任は,自動車所有者としての『運行供用者責任』または使用者責任です。
いずれにしても,ドライバーと雇用主の両方が責任を負います。
この2者が負う責任の関係は(不真正)連帯債務とされます。
もちろん,どちらかが賠償した後は,ドライバー・雇用主間で求償の問題が残ります。
保険が適用になれば良いですが,そうでないとやや複雑な問題となります。
<従業員,雇用主の責任の関係の具体例>
あ 雇用主が弁済後,従業員に求償を請求する場面
求償が制限されることが多いです。
い 従業員が弁済後,雇用主に求償する場面
本来,『過失』行為を行ったのは従業員ですから,雇用主への求償というのは成り立ちません。
しかし,報奨責任という考え方で,この逆求償が認められることもあります。
これらは従業員保護という根本的な考え方による解釈です。
条文
[民法]
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。