【離婚原因の意味・法的位置付け】
1 離婚の種類と『離婚原因』
2 諸外国の制度との比較
3 離婚原因の法律的な位置付け
4 条文上の離婚原因
5 『悪意の遺棄』の解釈
6 婚姻を継続しがたい重大な事由
7 現実的な離婚原因の内容|概要
8 『婚姻無効・取消』による婚姻解消|概要
9 婿養子の解消は離婚と離縁(概要)
1 離婚の種類と『離婚原因』
離婚の法律用語に『離婚原因』というものがあります。
大雑把に言えば,仲が悪くなった事情,というイメージです。
本記事では,離婚原因の法律的な意味・位置付けを説明します。
法的な『離婚原因』は離婚の種類によって扱いが違います。
まずはこの大前提を整理します。
<離婚の種類と『離婚原因』>
あ 合意による離婚
夫婦の合意があれば成立する
『離婚原因』は不要である
『協議離婚』と呼ぶ
※民法763条
い 裁判所による離婚
裁判所の判断により離婚が認められる
判決による離婚である
『離婚原因』が必要である
当事者が離婚を拒否していても離婚が成立する
※民法770条
2 諸外国の制度との比較
協議離婚では離婚原因の判断は不要です。
当たり前のように思いますが,諸外国では違うこともあります。
参考としてこれについてまとめておきます。
<諸外国の制度との比較>
あ 協議離婚がない法体系
『合意だけでの離婚』の制度がない国・エリアもある
→合意に加えて家庭裁判所の許可が必要というルール
『婚姻関係の維持を強制・拘束する』方向性と言える
い 世界的な緩和傾向
法律婚を公的に要請することについて
→価値観の多様化を制約・侵害することにつながる
→世界的には,離婚の制限・規制が緩和される流れにある
結婚制度のプライベートという性格が弱い国・エリアもあるのです。
つまり,離婚することを『社会が拒否する』ことルールもあるのです。
3 離婚原因の法律的な位置付け
日本の制度の説明に戻ります。
『離婚原因』の法律的な扱い・位置付けを整理します。
<離婚原因の法律的な位置付け>
あ 協議離婚では不要である
当事者2名の意思が一致している
→第三者(国家)は干渉しないべきである
→協議離婚では『離婚原因』は不要である
い 離婚を認める判決で必要となる
当事者の意思に反してまで裁判所が離婚を強制実現する
→一定の『強い必要性』が必要である
→『離婚原因』が必要である
う 実際の離婚訴訟と離婚原因
実際の離婚訴訟において
『離婚原因』がなくても結果的に離婚成立となるケースが多い
詳しくはこちら|離婚訴訟の実質的な争いは『条件』,離婚請求棄却判決後は『別居+婚費地獄』
4 条文上の離婚原因
判決による離婚を実現するには『離婚原因』が必要です(前記)。
以下『離婚原因』についての条文の規定や基礎的な解釈を説明します。
民法の条文では5つの離婚原因が規定されています。
まずは条文の規定をまとめます。
<条文上の離婚原因>
ア 配偶者に不貞な行為があったとき
イ 配偶者から悪意で遺棄されたとき(後記※1)
ウ 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
エ 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき
オ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
※民法770条1項1〜5号
5 『悪意の遺棄』の解釈
離婚原因の1つに『悪意の遺棄』があります。
ちょっと難しい用語です。
裁判例による基本的な解釈をまとめます。
<『悪意の遺棄』の解釈(※1)>
遺棄の結果として『害悪』の発生を意図or許容する意思がある
『害悪』=積極的に婚姻共同生活を廃絶すること
※新潟地裁昭和36年4月24日
6 婚姻を継続しがたい重大な事由
離婚原因の1つに『婚姻を継続し難い重大な事由』があります。
これに該当するかどうかは,仲が悪い状況の評価次第と言えます。
実務でも,この離婚原因の判断が争点となることがとても多いです。
基本的な解釈論・傾向をまとめます。
<婚姻を継続しがたい重大な事由>
あ 前提事情
具体的離婚原因に該当しない
※民法770条1項1〜4号
い 判断の傾向
具体的離婚原因以外の事情について
『破綻』に至っているかどうかを実質的に判断する
とても広い範囲の事情が判断対象となる
『破綻』を認めるには高いレベルの事情が要求される
要するに,そう簡単には離婚原因は認められない
う 「破綻」の解釈(参考)
7 現実的な離婚原因の内容|概要
以上は,条文にある『離婚原因』の説明でした。
実際に離婚原因として主張されるものは大体決まっています。
実務的な離婚原因の種類や判断の傾向は別に説明しています。
詳しくはこちら|3大離婚原因の全体と『性格の不一致』の誤解
8 『婚姻無効・取消』による婚姻解消|概要
『婚姻の無効・取消』という制度があります。
例えば,婚姻に『詐欺・強迫』があったら婚姻の取消ができます。
婚姻が解消される点では離婚と婚姻無効・取消は同じです。
しかし前提となる事情が異なります。
『離婚原因』と『無効・取消の事由』のことです。
『こんな性格と分かっていたら結婚しなかった』という事情は『無効・取消』とはなりません。
形式的・明確な事情が対象となっています。
重婚や再婚禁止期間に違反しているケースが典型例です。
『婚姻届に別人を記載したミス』などの形式的事情も婚姻無効になります。
詳しくはこちら|婚姻の実質的意思が婚姻届提出の時まで維持していないと無効になる
9 婿養子の解消は離婚と離縁(概要)
結婚するとともに,夫と妻の両親が養子縁組をするケースがあります。
いわゆる婿養子と呼ばれる関係です。
この場合には,関係解消も一般的に2つが同時に行われます。
離婚・離縁のことです。離婚原因は離縁についても準用されているのです。
この2つの関係については別に説明しています。
詳しくはこちら|『婿養子』|離婚をしたら『離縁』も認められるが例外もある
本記事では,離婚原因の意味や法的位置づけを説明しました。
実際には,個別的事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に夫婦や男女関係の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださるお勧めします。
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