【司法権の定義・範囲・限界|具体的な争訟|部分社会の法理・統治行為論】
1 司法権の定義|基本
2 司法権の解釈論|『具体的な争訟』
3 『具体的な争訟』に該当しない類型|例
4 司法権に該当するが『対象外』|司法権の限界
5 性質による『司法権の対象外』
1 司法権の定義|基本
裁判所で扱う案件(事件)については『司法』という国家の作用の性質に基づく一定の制限があります。
まず,『司法権』の定義についての解釈を示します。
<『司法権』の定義|基本>
具体的な争訟につき,法を適用し,宣言することによって,これを裁定する国家の作用をいう。
※日本国憲法76条1項
※裁判所法3条1項
これは根本的な定義です。
解釈として具体化したものを次に説明します。
2 司法権の解釈論|『具体的な争訟』
司法権の対象についての解釈論の基本を整理します。
<司法権の解釈論|『具体的な争訟』>
あ 基本的事項
司法権の対象は『具体的な争訟』である
い 『具体的な争訟』|解釈
次のいずれにも該当するものである
ア 当事者間の具体的な法律関係ないし権利義務の存否に関する争いであるイ 法律を適用することにより終局的に解決できる
『具体的な争訟』についての審理・判断が,裁判の対象とされているのです。
3 『具体的な争訟』に該当しない類型|例
『具体的な争訟』の解釈論は大雑把なものです(前記)。
次に,具体的な例をいくつかまとめます。
<『具体的な争訟』に該当しない類型|例>
あ 抽象的な法令の効力
例;ある法律の規定が違憲であること自体の判断を求めて提訴すること
い 学問上・技術上の判断の当否
例;学術論文の内容,再現性の有無それ自体の審査を求めて提訴すること
う 宗教上の教義に関する判断を争う場合
4 司法権に該当するが『対象外』|司法権の限界
『具体的な争訟』に該当すれば必ず『裁判』というサービスを利用できるとは限りません。
法学において『司法権の限界』と呼ばれるものです。
『司法権の限界』により裁判所の審理,判断の対象外とされるものを整理しておきます。
<司法権に該当するが『対象外』|司法権の限界>
あ 憲法に明文の規定のあるもの
ア 議員の資格争訟の裁判;55条イ 裁判官の弾劾裁判;64条
い 国際法によって定められたもの
ア 外交使節の治外法権イ 条約による裁判権制限
う 性質による解釈論
事柄の性質上裁判所の審査に適しないとされるもの(後記)
5 性質による『司法権の対象外』
上記の『性質による解釈論』の内容についてまとめます。
<性質による『司法権の対象外』>
あ 国会や各議院の自律権に属する行為
ア 議院の定足数や議決の有無等の議事手続;56条イ 国会議員の懲罰;58条2項
い 行政機関や国会の自由裁量に属する行為
う 統治行為
ア 衆議院解散の効力;苫米地事件
※最高裁昭和35年6月8日
イ 日米安保条約の合憲性判断;砂川事件
例外付きの変則的統治行為論とされている
※最高裁昭和34年12月16日
え 団体の内部事項に関する行為|部分社会の法理
ア 地方議会の議員懲罰イ 大学の単位認定,論文審査
詳しくはこちら|大学の単位認定,論文審査についての司法審査の可否;部分社会の法理
ウ 宗教団体,弁護士会,労働組合,政党の内部紛争
<参考情報>
<→憲法訴訟に関連する用語等の解説>
平成12年5月 衆議院憲法調査会事務局