【相手がDVや精神疾患で危険な場合は,接触を避ける裁判所の制度がある】
- 家事調停を申し立てる予定です。
当事者(のうち1人)に暴力癖があったり,アルコール依存症や精神病であったりする場合,何らかの対応をしてもらえるのでしょうか。
1 DVなど,接触を避けた方が良い状況も多い
2 調停などでは相手方と会わないようにする
3 申立書に住所の記載を省略できる
4 調査官,医務官が落ち着かせるようなアドバイスをしてくれる
5 証言時についたてで遮へいする方法がある;遮へい措置
6 ビデオリンク方式による証言方法もある
1 DVなど,接触を避けた方が良い状況も多い
親族に関係する案件(家事事件)については,近親者間の特殊な関係があることも多いです。
典型例はDV(家庭内暴力)がある場合の離婚に関する手続です。
従前の経緯,関係によっては,接触自体を回避した方が良いです。
相続に関する手続においても同様の措置が必要な場合もあります。
このような場合に備えて関係する手続において,いくつかの回避措置が用意されています。
なお,家事事件に限定されるものではありません。
2 調停などでは相手方と会わないようにする
一般的に,調停では,相手方と直接面会しない方式が取られています。
待合室も申立人と相手方で,別の部屋となっています。
なお,家事調停において,最初に調停委員から当事者双方に同時に手続の説明をする,という運用もあります。
この運用の場合でも,特殊事情に配慮し,例外的に,個別的に説明を行う,という方法が取られます。
3 申立書に住所の記載を省略できる
例えば,別居後の住所を相手に知らせたくない,という事情があります。
このような場合,申立書などの書面に申立人の住所の記載を省略する扱いが認められています。
<→別項目;家事調停等で「非開示希望」により住所を相手に知らせないことができる>
4 調査官,医務官が落ち着かせるようなアドバイスをしてくれる
家庭裁判所には調査官や医務官がいます。
高ぶっている当事者に対応することに慣れていますし,心理学等の専門知識を持つ方も多いです。
調査官,医務官が次のような協力をしてくれることがあります。
<家裁調査官,医務官が相手方に面会する対応の例>
※家事事件手続法58条,59条,60条,258条
あ 相手方に暴力的な傾向がある場合
事前に家裁調査官が面会し,理解を求める。
い 相手方がアルコール依存症や精神病である場合
調査官が面会するとともに,医務官が立ち会い,専門的知識に基づいて助言をする。
5 証言時についたてで遮へいする方法がある;遮へい措置
当事者が裁判所で証言をする場合があります。
そこで,証言する者と相手方との間に衝立を置くなどの遮へい措置が取られることがあります(民事訴訟法203条の3,210条)。
なお,正式には当事者尋問であり証言と区別されていますが,俗称的に『証言』を用います。
6 ビデオリンク方式による証言方法もある
前記『5』と類似しています。
別室で証言する方式があります。
証人をビデオカメラで撮影し,尋問者は映像を見ながら質問する,という方式です(民事訴訟法204条,210条,民事訴訟規則123条)。
裁判所によっては,この設備が用意されていないため利用できない,ということもあります。
条文
[家事事件手続法]
(家庭裁判所調査官による事実の調査)
第五十八条 家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができる。
2 急迫の事情があるときは、裁判長が、家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができる。
3 家庭裁判所調査官は、事実の調査の結果を書面又は口頭で家庭裁判所に報告するものとする。
4 家庭裁判所調査官は、前項の規定による報告に意見を付することができる。
(家庭裁判所調査官の期日への立会い等)
第五十九条 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、家事審判の手続の期日に家庭裁判所調査官を立ち会わせることができる。
2 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項の規定により立ち会わせた家庭裁判所調査官に意見を述べさせることができる。
3 家庭裁判所は、家事審判事件の処理に関し、事件の関係人の家庭環境その他の環境の調整を行うために必要があると認めるときは、家庭裁判所調査官に社会福祉機関との連絡その他の措置をとらせることができる。
4 急迫の事情があるときは、裁判長が、前項の措置をとらせることができる。
(裁判所技官による診断等)
第六十条 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、医師である裁判所技官に事件の関係人の心身の状況について診断をさせることができる。
2 第五十八条第二項から第四項までの規定は前項の診断について、前条第一項及び第二項の規定は裁判所技官の期日への立会い及び意見の陳述について準用する。
(家事審判の手続の規定の準用等)
第二百五十八条 第四十一条から第四十三条までの規定は家事調停の手続における参加及び排除について、第四十四条の規定は家事調停の手続における受継について、第五十一条から第五十五条までの規定は家事調停の手続の期日について、第五十六条から第六十二条まで及び第六十四条の規定は家事調停の手続における事実の調査及び証拠調べについて、第六十五条の規定は家事調停の手続における子の意思の把握等について、第七十三条、第七十四条、第七十六条(第一項ただし書を除く。)、第七十七条及び第七十九条の規定は家事調停に関する審判について、第八十一条の規定は家事調停に関する審判以外の裁判について準用する。
2 前項において準用する第六十一条第一項の規定により家事調停の手続における事実の調査の嘱託を受けた裁判所は、相当と認めるときは、裁判所書記官に当該嘱託に係る事実の調査をさせることができる。ただし、嘱託を受けた家庭裁判所が家庭裁判所調査官に当該嘱託に係る事実の調査をさせることを相当と認めるときは、この限りでない。
[民事訴訟法]
(遮へいの措置)
第二百三条の三 裁判長は、事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係(証人がこれらの者が行った犯罪により害を被った者であることを含む。次条第二号において同じ。)その他の事情により、証人が当事者本人又はその法定代理人の面前(同条に規定する方法による場合を含む。)において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるときは、その当事者本人又は法定代理人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができる。
2 裁判長は、事案の性質、証人が犯罪により害を被った者であること、証人の年齢、心身の状態又は名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができる。
3 前条第三項の規定は、前二項の規定による裁判長の処置について準用する。
(映像等の送受信による通話の方法による尋問)
第二百四条 裁判所は、次に掲げる場合には、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、証人の尋問をすることができる。
一 証人が遠隔の地に居住するとき。
二 事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係その他の事情により、証人が裁判長及び当事者が証人を尋問するために在席する場所において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、相当と認めるとき。
(証人尋問の規定の準用)
第二百十条 第百九十五条、第二百一条第二項、第二百二条から第二百四条まで及び第二百六条の規定は、当事者本人の尋問について準用する。
[民事訴訟規則]
(映像等の送受信による通話の方法による尋問・法第二百四条)
第百二十三条 法第二百四条(映像等の送受信による通話の方法による尋問)第一号に掲げる場合における同条に規定する方法による尋問は、当事者の意見を聴いて、当事者を受訴裁判所に出頭させ、証人を当該尋問に必要な装置の設置された他の裁判所に出頭させてする。
2 法第二百四条第二号に掲げる場合における同条に規定する方法による尋問は、当事者及び証人の意見を聴いて、当事者を受訴裁判所に出頭させ、証人を受訴裁判所又は当該尋問に必要な装置の設置された他の裁判所に出頭させてする。この場合において、証人を受訴裁判所に出頭させるときは、裁判長及び当事者が証人を尋問するために在席する場所以外の場所にその証人を在席させるものとする。
3 前二項の尋問をする場合には、文書の写しを送信してこれを提示することその他の尋問の実施に必要な処置を行うため、ファクシミリを利用することができる。
4 第一項又は第二項の尋問をしたときは、その旨及び証人が出頭した裁判所(当該裁判所が受訴裁判所である場合を除く。)を調書に記載しなければならない。
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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