【男女交際や性行為に関する刑罰(売春防止法・児童ポルノ法・青少年育成条例・強姦罪)】

1 男女交際・性行為に関する刑事的違法・刑罰のまとめ
2 売春防止法|『売春・買春』は曖昧→プレゼントもリスクあり
3 児童ポルノ法の規制|『性交類似行為』『対価』の認定が曖昧なこともある
4 青少年育成条例|『結婚しないと犯罪』|明確性の原則違反の疑惑
5 刑法の『強姦罪』|女性が13歳未満→一律に適用される
6 『年齢』については『よく分からなかった』だけでは逃れられない

1 男女交際・性行為に関する刑事的違法・刑罰のまとめ

男女交際に伴うプレゼントが『刑事的違法』となることがあります。
典型例は『売春』(売春防止法)です。
これは分かりやすいし,誰も疑問に持たない『違法性』です。
しかし,一般の方があまり認識しない『違法』もあります。

ところで「違法」の中には慰謝料請求などの『民事的』なものもあります。
男女交際の民事的な「違法」については別に説明しています。
別項目;男女交際における『民事的違法』;公序良俗違反,不法原因給付,慰謝料
ここでは,刑罰などの違法,つまり「刑事的違法」について説明します。

最初に,男女交際,性行為に関する「刑事的違法」の概要を示します。

<男女交際・性行為に関する刑事的違法・刑罰のまとめ>

法規 売春防止法;後記『2』 児童ポルノ法;後記『3』 青少年育成条例;後記『4』 刑法;強姦罪;後記『5』
相手の年齢 制限なし 18歳未満 18歳未満 13歳未満
行為 性交 性交+性交類似行為+α 性交+性交類似行為 性交
『不特定』
対価
男女別 なし なし なし 被害者=女性のみ
適用除外 なし なし 『みだらではない』 なし
罰則1;懲役 なし 5年以下 2年以下 3年以上;有期
罰則2;罰金 なし 300万円未満 100万円以下 なし

この表は簡略的にまとめたものです。
個々の内容については以下説明します。

2 売春防止法|『売春・買春』は曖昧→プレゼントもリスクあり

(1)売春防止法による規制内容

売春防止法により『売春』,『買春』が違法とされています。

<売春防止法による規制>

あ 法律上禁止されていること=違法行為

ア 売春(い)をすることイ その相手方となること 一般的に,『買春』と呼ぶこともある
※売春防止法3条

い 『売春』の定義

『売春』とは,『ア・イ』の両方に該当する行為である
ア 対償を受け,または受ける約束があるイ 不特定の相手方と性交する ※売春防止法2条

う 罰則

売春,買春のいずれも罰則の規定はない
詳しくはこちら|売春(違法)の判断基準(妾・二号・援助交際との区別・連続妾契約事件)

(2)売春防止法の適用の具体例

<『売春』『買春』の典型的な種類>

あ いわゆる商売としての売春客としての買春

『売春』,『買春』に該当する=『刑事的違法』
ただし,罰則対象外とされている

い 『専属の有料彼女契約』,『専属の愛人契約』

『売春』,『買春』に該当しない
ただし,裁判所などの第三者に,違う認定がなされる一定のリスクがある

う 想定外に該当する類型

《具体例》
ア 彼女Aが,彼Bとは別の彼(交際相手)Cがいる BやCが並行交際について知っている場合も知らない場合も含みます。
イ BやCが,ことあるごとにAにプレゼントを渡しているウ ある程度の頻度で,Aはその交際相手が変わる状態にある 少なくとも外形的には,『対価のやりとり』+『性交の相手の特定性が弱い』ということになる
『対価の約束』+『不特定の者と性交する』に該当する→『売春』と認定されるリスクがある

(3)売春防止法によるイレギュラー態様に対する罰則規定

単純な男女交際性行為を超えるビジネス的行為は罰則があります。
ここではテーマから外れるので規定をまとめるだけにしておきます。

<売春防止法の処罰対象>

・勧誘等(5条)
・周旋等(6条)
・困惑等による売春(7条)
・対価の収受(8条)
・前貸しその他の利益供与(9条)
・売春をさせる契約(10条)
・場所の提供(11条)
・管理売春(12条)
・資金提供(13条)

3 児童ポルノ法の規制|『性交類似行為』『対価』の認定が曖昧なこともある

男女交際,性行為の当事者の年齢によっては児童ポルノ法により処罰対象となります。
当事者の一方が『18歳未満』の場合です。
一定の要件に該当すると『刑事上違法』+『罰則』の対象となるのです。
要件は多少複雑です。
正確性のため,論理演算子を用いて説明します。
論理演算子

<児童ポルノ法による規制>

あ 法律上禁止されていること=違法行為

次の『メイン行為』and『付随的要件』による「刑事的違法」となります。
(あ)メイン行為
・性交
or
・性交類似行為
or
・自己の性的好奇心を満たす目的 and (児童の(性器or肛門or乳首)を触り or 児童に自己の(性器or肛門or乳首)を触らせる)
(い)付随的要件
相手が『児童』+『対価の供与or約束』+『不特定の者との(上記「あ」の行為)』
(う)『児童』の定義
※児童ポルノ法2条1項
18歳未満の者

い 罰則

※児童ポルノ法4条
5年以下の懲役または300万円以下の罰金(法定刑)

う 例外

『18歳未満』の方は罰則の対象とされていない
ただし『違法』であることは変わりはない
※児童ポルノ法3条,4条

4 青少年育成条例|『結婚しないと犯罪』|明確性の原則違反の疑惑

男女交際に関する規制として青少年育成条例もあります。18歳未満の者との性交渉を規制しています。
規制対象の『みだらな性交・淫行』という言葉の解釈が大きな問題となっています。大雑把に言えば,婚約やこれに準ずる真摯な関係であれば『みだら』ではない,という判断になります。この規定や解釈の概要をまとめます。

<青少年育成の『みだらな性交』規制(概要)>

あ 規制内容

性交渉をした者の一方が18歳未満である場合
→他方の者は『みだらな性交』の規制対象となる
=青少年育成条例違反に該当する
※東京都青少年育成条例18条の6

い 違反への罰則

法定刑
→懲役2年以下or罰金100万円以下
※東京都青少年育成条例24条の3

う 該当しない典型例

性交渉の当事者が次のいずれかに該当する場合
→『みだら』には該当しない
ア 婚約中イ 婚約に準ずる真摯な交際関係 ※最高裁昭和60年10月23日;福岡県青少年育成保護条例事件
詳しくはこちら|青少年育成条例の『みだらな性交』の解釈と明確性の原則違反

5 刑法の『強姦罪』|女性が13歳未満→一律に適用される

思考実験として最後まで思考を進めます。
『女性』が13歳未満,の場合は別の規定が適用されます。
『13歳未満の女子』との性交については,一律『強姦罪』が成立します(刑法177条)。
これは,『結婚目的』とか,お互い納得している合意があるなどの主観的な要素は一切関係ありません。
なお,合意がない,というケースはテーマから外れるので除外します。

ところで,『強姦罪』以外の上記の法規類については,『男女関係なし』です。
18歳未満の男性と18歳以上の女性の性交については児童ポルノ法の適用対象となります。
しかし,刑法の『強姦罪』だけは性別が固定となっています。

6 『年齢』については『よく分からなかった』だけでは逃れられない

児童ポルノ法,青少年育成条例などでは,当事者の『年齢』が基準となっています。
『18歳未満or18歳以上』というハッキリとした基準です。
実際には『相手の年齢が分からない』ということが多く生じます。
この場合,法律上は『故意がない→犯罪が成立しない』というのが理論的な原則です。
しかし,『故意』の判定はこのように単純ではありません。

<『18歳未満という認識』と犯罪成立の判定>

あ 確定的故意

『18歳未満に間違いない』という認識のことです。

い 未必的故意

大雑把に言えば,『18歳未満かもしれない』という認識のことです。

『18歳未満かもしれない』については,これをどのように判定するのか,が重要です。
逆に言えば『18歳以上だと信じた』と言えるかどうか,ということです。

<年齢についての判断として不十分な例>

あ 本人の説明

例;18歳以上だと本人が言ったので信じた

い 本人提示の『証拠』

例;免許証(身分証明書)を見せてもらったら18歳以上と分かった
→しかし実は『姉(や友達)の免許証』だった

『18歳未満かもしれない』という認識は,いくつかの要素を総合判断します。

<年齢についての認識の判断の要素|例>

あ 体型
い 顔
う 話題

本人が言う『自分の職業・日常』などです。

結局,類型化はできても,最終判断のブレは大きいのです。

<年齢についての認識×言い逃れ封印>

あ 対象となる犯罪

ア 買春の斡旋勧誘イ 児童ポルノ所持・提供

い 封印規定

『年齢を知らない』ことによる責任回避
→認められない
※児童ポルノ法9条

う 対象外

『児童買春』についてはこの条文は適用されていない
現実的には『年齢を知らない』だけでは責任回避はできない(前記)

本記事では,男女交際や性行為に関するいろいろな刑罰(犯罪)について説明しました。
実際には,細かい事情の主張や立証によって結果が違ってきます。
実際に男女交際に関する法的問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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