【不動産賃貸における過去の人の死の告知義務の有無・範囲(心理的瑕疵・わけあり物件)】

1 『人の死』があった不動産の法的問題の種類
2 賃貸借契約前に一定期間内の『過去の人の死』の告知義務がある
3 不動産賃貸|過去の『自殺』×告知義務|肯定事例
4 不動産賃貸|過去の『自殺』×告知義務|否定事例
5 不動産賃貸|過去の『自殺』×損害賠償の判例|範囲=2〜3年
6 『賃貸用』不動産の売買|『自殺』の告知義務|範囲=2〜3年
7 不動産の賃貸|過去の『自然死』を告知する義務
8 『人の死』の後の入居者→説明義務が消滅する;介在者ロンダリング

1 『人の死』があった不動産の法的問題の種類

『人の死』が生じた不動産は,族にワケあり物件と呼ばれます。
このことが法的な問題につながることがあります。
最初に,法的な問題にはいくつかの種類がありますので,全体を整理しておきます。

<『人の死』があった不動産の法的問題の種類>

あ 告知義務

『人の死』があった不動産の賃貸借・売買契約において
→契約締結前に説明・告知する義務が生じることがある

い 入居者による解除・損害賠償請求

購入者や賃借人(入居者)が後から知った場合
→解除や損害賠償請求が認められることがある

う 賃貸人による損害賠償請求

賃貸物件で死亡(自殺)が生じた場合
→賃貸人が損害賠償を請求できることがある
請求の相手=賃借人・その相続人・保証人

本記事では,これらの法的問題のうち,賃貸借における過去の人の死の告知義務について説明します。
他の法的問題は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産賃貸と『人の死』|賃借人の相続人・保証人の損害賠償責任
詳しくはこちら|不動産売買・賃貸×過去の人の死|基本|法的構成・責任・発覚ルート

2 賃貸借契約前に一定期間内の『過去の人の死』の告知義務がある

告知義務は,逆に言えば借りようとする者が知っておくべき情報が対象となります。
常識的に入居する建物において過去に人の死があったことは心理的に嫌悪される事情です。
一方永久に気になる,入居したくないということも不合理です。
不動産の活用として過剰なブレーキとなってしまいます。
告知義務の範囲は,常識的に嫌悪する範囲,ということになります。
以下,具体的に判断された裁判例を中心に説明します。

3 不動産賃貸|過去の『自殺』×告知義務|肯定事例

<店舗・自殺・1年6か月→告知義務あり>

あ 事案概要

ア 物件 店舗(5階建ビルの1階・2階部分)
イ 対象事実 売買契約の1年6か月ほど前
貸主の親族(娘婿)が当該ビルの屋上から道路上へ飛び降り自殺をしていた

い 裁判所の判断

賃貸借の対象部分そのものではない+期間の経過
→告知義務を否定した
※東京地裁平成18年4月7日

<自殺・2年→告知義務なし>

あ 事案

社員寮として賃貸借契約を締結+使用していた
入居者が居室内で自殺した

い 裁判所の判断

事故後2年が経過した時点で『告知義務』はなくなる
※東京地裁平成13年11月29日

4 不動産賃貸|過去の『自殺』×告知義務|否定事例

<自殺・5年→告知義務なし>

あ 事案

ア 物件 賃貸ビル
イ 対象事実 約5年前
ビルの7・8階部分の居室
元所有者の娘が睡眠薬を過剰に摂取→病院に搬送された
約2〜3週間後に病院で死亡した
ウ 付随的事情 新聞報道はなかった
周囲の住民にもほとんど知られていなかった

い 裁判所の評価した事情

死亡場所は本件建物ではない
売買契約時点で約2年が経過していた
裁判の時点では約5年が経過していた
この時点までに入居者でほぼ埋まっていた

う 裁判所の判断(結論)

『瑕疵』としては軽微
→告知義務なし
※東京地裁平成21年6月26日

5 不動産賃貸|過去の『自殺』×損害賠償の判例|範囲=2〜3年

賃貸借の物件で『自殺』が生じた場合の『損害賠償請求』の判例があります。
詳しくはこちら|不動産賃貸と『人の死』|賃借人の相続人・保証人の損害賠償責任
『損害賠償』に関する判断ですが『告知義務の範囲』とつながっています。

<賃貸物件における自殺|損害賠償の判断→告知義務の範囲>

あ 損害賠償に関する判例

概ね自殺後2〜3年間の範囲内で『賃料差額の損害』が認められる

い 告知義務の範囲

実質的な裁判所の判断
→死後2〜3年内と判断されている

6 『賃貸用』不動産の売買|『自殺』の告知義務|範囲=2〜3年

『賃貸用物件』の売買に関する『過去の自殺の告知義務』に関する判例を紹介します。
『賃貸借契約』ではないですが『賃貸借契約に生じる影響』が考慮されています。

<賃貸用マンションの売買|『自殺』→告知義務あり>

あ 物件

賃貸用マンション

い 発生事実

当該物件内で自殺が行われた

う 売買契約

自殺の2年1か月後に物件が売却された
購入者は知らされずに物件を購入した
購入者は後から『過去の自殺』を知った

え 裁判所の判断

『告知義務』があった
→売主の責任を認めた
※東京地裁平成20年4月28日

以上のように『自殺』に関する告知義務は概ね2〜3年程度とされています。

7 不動産の賃貸|過去の『自然死』を告知する義務

自然死から『半年以上』の事例で,告知義務を否定した判例を紹介します。

<居住用・自然死・約半年→告知義務なし>

あ 物件

2階建木造共同住宅の1室

い 対象事実

契約締結より半年以上前に,当該物件の階下の部屋で自然死があった

う 裁判所の判断

告知義務を否定した
※東京地裁平成18年12月6日

このように『自然死』については原則的に告知義務が否定されています。

8 『人の死』の後の入居者→説明義務が消滅する;介在者ロンダリング

自殺が生じた後,このことを告知することになりますが,賃料を下げれば,賃借し入居する人もいます。
その者が退去した後は,告知義務がない,と判断されることもあります。
言わば介在者によって告知義務が消える,というものです。
ロンダリングに似ている現象です。

介在者居住による告知義務消滅の目安>

あ 介在者→『告知義務』の消滅

ア 死亡事故の種類(死因)=自然死や自殺イ 『介在者』の居住 『介在者』が入居→1〜2年居住する
ウ 『払拭』機能 『告知義務』が解消される

い 例外的事情;『特段の事情』

『介在者』が『極短期間で退去』するなど
※東京地裁平成19年8月10日

これについては,個別的事情によって異なることもあります。
また,『嫌悪度』が介在者によって減少(半減)する,と考えると整合的です。
総合的な『告知義務の範囲』の基準・目安は別の記事でまとめています。
詳しくはこちら|不動産売買・賃貸×過去の人の死|告知義務・損害賠償|包括的判断基準

本記事では,過去に人の死があった不動産の賃貸における告知義務について説明しました。
実際には,具体的な状況によって告知義務があるかないかの判断は変わってきます。
実際に人が亡くなった物件の賃貸の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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