【不動産を信託受益権化した売買によるコスト削減】
1 不動産を信託受益権化して売却とすると節税になる
2 不動産を信託受益権化した場合の登録免許税
3 不動産を信託受益権化した場合の不動産取得税
4 不動産の信託受益権化→売買は,当事者の理解を得るのが困難
1 不動産を信託受益権化して売却とすると節税になる
不動産を譲渡する時には大きな税金がかかります。
この点,転売の場合は全体について節約する方法はあります。
詳しくはこちら|従来方式と新方式の中間省略登記の方法の節約効果と適法性
ここでは転売ではない,一般的な売買を前提に,節税の方法を説明します。
信託を活用した,節税などの効果を得る方法です。
原理自体は単純です。
なお,ファンドなどの大規模なケースで利用されることが多いですが,個人レベルでも活用可能です。
<不動産の信託受益権化→売却のスキーム>
・不動産を信託契約等により信託財産とする
・受益権を売買の対象物とする
<信託受益権売買のメリット>
・登録免許税が安い
・不動産取得税がゼロ
<課税関係のまとめ>
登記申請の内容 | 登録免許税(所有権移転) | 登録免許税(信託) | 不動産取得税 |
信託設定 | 非課税(所有権移転)(※1) | 0.4%or0.3%(※2) | 非課税(※3) |
受益権売買 | 登記不要(※4) | 1000円(※5) | 非課税(※6) |
2 不動産を信託受益権化した場合の登録免許税
不動産登記申請の際,登録免許税が必要とされます。
(1)信託設定時
・所有権移転登記(上記※1)
非課税(登録免許税法7条1項1号)
・信託設定登記(上記※2)
対象不動産の固定資産税評価額の0.4%(登録免許税法別表1・1・(10)・イ)
ただし,土地の所有権の信託については,特例により0.3%(当面はH27.3.31まで)(租税特別措置法72条)
(2)移転(=受益権売買)時(上記※4,※5)
もともと,受益者は,原則として,登記事項(信託目録記載事項)となります(不登法97条1項1号,2項)。
仮に信託契約等において,受益者の定めのないという場合は,このとおりの内容が登記事項となります(信託法258条,不登法97条1項6号)。
ところで,受益権売買の時には受益者が変更になります。
不動産の所有者は受託者から変わりません。
変更するのは所有者ではなく,登記事項の1つである受託者(の氏名,住所)だけとなります。
受益者の変更に伴う信託目録記載変更の登記が必要なのです。
この変更登記の登録免許税は,不動産1個につき1000円です(登録免許税法別表1・1・(14))。
3 不動産を信託受益権化した場合の不動産取得税
(1)信託設定時(※3)
信託による所有権移転は形式的なものです。
そこで,法律上,非課税とされています(地方税法73条の7第3号)。
(2)移転(=受益権売買)時(※6)
受益権は不動産ではありません。
不動産の取得には該当しないので,不動産取得税の課税対象ではありません。
4 不動産の信託受益権化→売買は,当事者の理解を得るのが困難
不動産を受益権かして売買する,ということはコスト面で有利です。
しかし,デメリット,ハードルもあります。
(1)当事者の理解を得るハードルが高い
一般的に不動産の売買においては,契約の瑕疵などの不確実な要素が僅かであっても排除します。
逆に,不安,不確定な要素が多少でもあったら契約しない,という傾向が強いです。
不動産登記上所有者となれない時点で入手は敬遠する方が多いでしょう。
(2)信託のためのコストがかかる
信託により,受託者に所有権を移転させる必要があります。
第三者に依頼すると,一定の管理コストがかかるのが通常です。
法人を設立する,という方法も少なくありません。
この場合も数十万円程度は要することになります。
(3)詐害信託として詐害行為取消の対象となるリスク
信託という方法自体が,類型的に,外見上詐害的という状態になりやすいです。
そこで,債権者から詐害行為取消を主張される,あるいは,詐害的と認定されるリスクは存在します。
詳しくはこちら|詐害信託の取消権の強化(主観要件・取消対象・自己信託の特例)
もちろん,詐害性が認められるような場合は,通常の所有権移転方式の売買でも同じとも言えます。
ただ,類型的に,詐害的と思われたり,認定されるリスクが通常方式よりは高い,ということもまた事実です。
メリットも大きいのですが,一定のハードルもあるのです。
本記事では,不動産を利用する権限を信託受益権とすることによる節税などのメリットを紹介しました。
実際には,個別的な細かい事情によって最適な方法は異なります。
実際に不動産を信託受益権とする方法を検討されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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