『ブラック企業』という用語に異議あり〜法規違反or価値観の相違,を峻別しよう〜
1 『ブラック企業』なるものの分析,分類
2 ひとくくりに『ブラック』と言うことの違和感の正体
3 実は大部分の『ブラック』は違法である
4 違和感の根幹
5 具体的状況の改善,解決方法の類型化
6 関連コンテンツ,法律の条文
1 『ブラック企業』なるものの分析,分類
『ブラック』,『ブラック企業』とかいう言葉をよく聞きます。
私は非常に違和感を感じます。
人によって定義が違うというのが原因です。
職場環境の改善,解決方法を探求する場合に役立つと思い,まとめました。
最初に,違和感を3つに分析,分類したものを示します。
内容はその次に説明します。
<『ブラック』と言われるものを分類してみた>
↓法規違反の有無 | →言い換えると | 国家の介入の可否 | 価値観での解決 | 協議,需給,自由市場での調整 |
法規違反である | 『価値観』以前の問題 | ◯ | ☓(違和感1) | ☓ |
法規違反ではない | 純粋な『価値観の相違』 | ☓(違和感3) | ◯(違和感2) | ◯(違和感3) |
2 ひとくくりに『ブラック』と言うことの違和感の正体
(1)違和感1
『法規違反』を価値観の問題にレベルダウンしてしまう
<違和感1を生じる主張の具体例>
有給休暇が事実上圧力かけられて取れないからブラックだ。
残業しても残業代が払われないからブラックだ。
単に違法なだけです。
『ブラック』と言うと,価値観に基づく選択肢の1つ,会社のスタイル設定の1つ,という印象を受けます。
つまり,違法にするかどうかの選択権があるようなニュアンスを受けるのです。
(2)違和感2
『価値観の相違』は相対的なはずなのに絶対評価で語る
『価値観の相違』については,個人の見解を表明し,世論形成の一環とすることは好ましいことです。
しかし,『自分が正しい,相手が間違っている』という論調が強いです。
具体例で示します。
<違和感2を生じる主張の具体例>
有給休暇を取れるけど,労働基準法の最低限の2倍に設定してくれない。
給料をしばらく上げてくれない。
休暇でリフレッシュした方が作業効率が上がる。
給料を上げるとモチベーションが上がる。
結局,生産性が上がる。
同業他社の水準未満だ。
うちの会社もそうするべきだ。
(3)違和感3
『価値観の相違』,に国家(第三者)の介入を期待する
これも具体例で示したほうが分かりやすいです。
<違和感3を生じる主張の具体例>
労働基準監督署に苦情を言って,↓の内容の指導をしてもらいたい。
・有給休暇の日数を2倍に変更する
・給料を上げる
3 実は大部分の『ブラック』は違法である
以上のような見解に対して,次のような批判というか発想があるかもしれません。
<違法/適法で峻別することへの批判の例>
違法とは言えないけど,ひどいんです!
『違法じゃないから良いんだ』,とか言うのは非常識です!
でも安心してください。
一般にひどい,非常識というようなものは先回りして法規制が設定してありますから。
労働,土地賃貸借,結婚制度については強度な拘束力が今も生きています。
別項目;借地,雇用,結婚;共通点=「期間限定」の流行り
立法論としては時代変化に遅れてるという見解も強く,最高裁が違憲と判断することもあります。
立法論,つまり,現行法の不合理な規定,については,ボリュームを要するのでまた別にまとめたいと思います。
話を戻します。
労働法の分野に関しては,労働者が厚く保護されています。
労働時間,残業時間,残業代,有給休暇,育児休暇,解雇規制などなど。
4 違和感の根幹
(1)拘束/不可侵の領域を明確化するべき
従業員は,入社(就職)の際,いろいろな会社も同時に検討しているのが通常です。
当然,各社がいろいろな労働条件を設定しています。
設定内容を求職者に説明しています。
入社する段階で,会社には労働条件明示義務があります(労働基準法15条)。
通常は労働契約書調印という形で履行されることが多いです。
この段階で,契約当事者=会社,従業員(求職者)ともに,相手の条件,能力,発展の見込み,を審査,検討,判断しています。
その結果として,一定の条件を双方で約束しているのです。
なお約束内容としては,労働条件として示されたもの+法規による条件,です。
当事者双方は,この特定された条件を前提に,事業活動,人生を設計しているのです。
多少大げさですが,理念としてはこのような位置付けです。
特定された条件以外の部分は,相互の『不可侵領域』です。
(2)不可侵部分については,協議が好ましい
ただ,相互に提案,協議することは好ましいです。
さらに,適正な範囲,方法による批判→世論形成→需給による解消も良いというか好ましいです。
(3)価値観には経営方針,経営状態が密接に関連する
価値観と表現しましたが,具体的には,経営方針とも言えます。
また,経営状態という客観的な要因も直接影響することもあります。
5 具体的状況の改善,解決方法の類型化
職場環境に問題があった場合の改善,解決方法をまとめます。
(1)合意,法規は順守されるべき
合意,法規違反があった場合は,社内で協議,解決するのが原則です。
これができない場合のために,強力かつ使いやすい助っ人がたくさん用意されています。
状況に応じて相談すると良いでしょう。
<労働法違反の是正に関与する機関など>
・労働基準監督署
・裁判所
・弁護士
(2)合意,法規以外の事項については,価値観の相違に過ぎない
<前提の重要事項>
・どちらが正しいというものはない
・需給,自由市場による調整の対象事項である
これを理解した上で,具体的な改善方法を取ります。
<合意,法規以外の事項についての改善手段>
・会社側に提案,協議する
・その協議結果によって,従業員が『他の勤務先を選ぶ』かどうかを判断する
従業員の提案を,会社側が『良いアイデアだ』と思い採用することもあります。
一方『利益を維持できない』,『利益は出るが,他の事業や根本的方針と整合しない』などの理由で採用しないこともありましょう。
『他の勤務先を選ぶ』つまり,転職できるかどうかは転職市場が決めます。
個人としての能力が優れているか,代替の多寡→差別化という需給,市場価値の問題となります。
市場価値を出すためにも,個々の業務に熱意を持って取り組む,というのが本来あるべき姿です。
結果として,生産性アップ→会社の業績アップ→収益アップ→給与アップ,となります。
会社を経由して自由市場の原理が作用した状態です。
(3)まとめ
『ブラック』な事象については,内容が『法規違反か価値観の相違なのか』を意識すると良いと思います。
前向き,建設的な議論にするためにも,重要な考え方の枠組みでしょう。
6 関連コンテンツ,法律の条文
(1)関連コンテンツ
『ブラック』関連は別にも論じています。
コラム;便乗ブラック;適法なビジネスも低賃金+繁忙=ブラックなのか!?
コラム;ブラック企業,の事例を見ると単なる違法しかないの
価値観の相違と法規=国家の介入の境界については,別のテーマでも表面化します。
関連するコンテンツを示しておきます。
別項目;「価値観の強要」を避ける裁判所の本心は「恋愛の自由」
詳しくはこちら|3大離婚原因の全体と『性格の不一致』の誤解
(2)条文
[労働基準法]
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
○2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
○3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。