【離婚の際の財産分与に関する課税の全体像】
1 離婚の際の財産分与に関する課税の全体像
離婚を成立させた時には、財産分与として財産の清算をします。
詳しくはこちら|財産分与の基本(3つの分類・典型的な対立の要因)
財産分与は話し合いや訴訟・審判で決まることになりますが、ようやく終わった後で、思わぬ高額の課税に驚く、ということも起きています。
本記事では、財産分与(離婚)に関するいろいろな課税について説明します。
2 財産分与に関する課税のまとめ
最初に、関係する税金について、結論だけをまとめておきます。
ごく通常の財産分与である、夫婦でつくった財産を分けるというもの(清算的財産分与)については、実質的な財産(利益)の移転ではないので、課税されない方向性です。
ただし、不動産や株式の譲渡所得税だけは、課税されるので要注意です。なお、譲渡所得税はもともと値上がり益(キャピタルゲイン)に対する課税です。過去に購入した金額(取得価格)よりも値上がりしている場合にだけ、その値上がり分が課税対象となります。
なお、不動産登記の手数料である登録免許税は、財産分与だからといって特別扱いはありません。一般的な不動産取引(売買)と同じようにかかります。
<財産分与に関する課税のまとめ>
あ 贈与税
原則として課税なし
ただし、内容が過剰(過当)である場合には課税されることもある
い 一般の所得税
課税なし
う 譲渡所得税
課税あり
(取得した金額よりも値上がりしている場合)
え 不動産取得税
財産の清算(清算的財産分与)→課税なし
慰謝料・将来の扶養の目的(慰謝料的・扶養的財産分与)→課税あり
お 不動産登記の登録免許税
課税あり
3 贈与税→原則課税なし
(清算的)財産分与は、もともと実質的な夫婦の共有財産を形式的にどちらかの名義にする、つまり財産の動きは形式にとどまります。そこで、この実質に着目して、贈与(無償での利益の移動)ではないという見方をします。つまり、贈与税は課税されません。
ただし、仮に、「離婚の財産分与」の名を借りて、実質的に財産を移動させるというケースであれば、この実質に着目して贈与として扱われる、つまり贈与税が課税されます。具体的には、本来の財産分与として相当の金額(評価額)を大きくオーバーして財産を移動させたようなケースや、そもそも夫婦は中が良く、離婚するという意図はないのに、債権者からの差押を回避するために形式的に離婚届を役所に出した、というようなケースです。
なお、離婚する意図はない場合には、離婚届が役所に受理されても法的には離婚は成立していないことになります。
詳しくはこちら|離婚意思の内容(形式的意思)と離婚意思が必要な時点(離婚届の作成・提出時)
さらに、そのようなケースでは債権者によって財産分与が取り消される、ということもあります。
詳しくはこちら|財産分与と詐害行為取消権(詐害性の判断基準と取消の範囲・対象)
贈与税→原則課税なし
9-8 婚姻の取消し又は離婚による財産の分与によって取得した財産(民法第768条((財産分与))、第771条((協議上の離婚の規定の準用))及び第749条((離婚の規定の準用))参照)については、贈与により取得した財産とはならないのであるから留意する。
ただし、その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合における当該過当である部分又は離婚を手段として贈与税若しくは相続税のほ脱を図ると認められる場合における当該離婚により取得した財産の価額は、贈与によって取得した財産となるのであるから留意する。(昭57直資2-177、平17課資2-4改正)
※相続税基本通達9−8
4 一般の所得税→課税なし
ところで、給与収入や役員報酬については、一般的な所得税がかかります。
この点、財産分与で金銭や不動産などの財産をもらったとしても、労働や業務の対価という性質とは大きく異なります。そこで、一般の所得税が課税されるということはありません。
5 譲渡所得税→課税あり
(1)譲渡所得税に関する判例と通達
不動産や株式を譲渡した場合、値上がり分(キャピタルゲイン)について譲渡所得税が課税されます。
詳しくはこちら|不動産譲渡所得税の基本|譲渡所得額・取得費・譲渡費用の内容・税率
財産分与は、前述のように実質的には利益の移動がないので、譲渡所得税もかからないように誤解しがちです。しかし、譲渡所得税がかかるのタイミングは便宜的に決まっているのです。つまり、含み益について清算(納税)するタイミングは実質的な利益の移動とは連動していません。
結果的に、最高裁判例としても、財産分与のタイミングで譲渡所得税を課税することになっています。
詳しくはこちら|財産分与に譲渡所得税が課税される(判例・通達)
(2)譲渡所得税のポイント
財産分与によって譲渡所得税が課税されるといっても、それは購入金額(取得価格)よりも値上がりしている場合だけ、その値上がり分について課税される、というものです。取得時点よりも値下がりしている場合には結局、課税ゼロです。また、課税される場合に、一定の特例もあります。ただ、状況によってはとても大きな金額の課税となることもあります。注意が必要です。
譲渡所得税のポイント
あ 譲渡益の算定
財産分与時の評価額−(取得価格+取得費用)
い 課税される者
譲渡した側(わたした方)
う 軽減措置(特例)
居住用不動産については、状況によって、一定額を控除できる特例や権限税率の適用もある
(3)将来の譲渡所得税に配慮した工夫
なお、不動産や株式の分与を受けた側(受け取った側)は、将来その財産を売却する時に値上がりしていれば譲渡所得税が課税されます。将来売却する時には、取得時点つまり財産分与の時点での取得価格を使うことになります。そこで、財産分与の合意をする場合には、書面上で評価額を明記しておくとベターです。
将来の譲渡所得税に配慮した工夫
あ 評価額の明確化
離婚協議書に評価額を記載しておく方法がある
い メリット
ア 当事者の理解
当事者が、調印時や事後的に理解や確認をしやすくなる
イ 税務との関係
財産を受け取った側が将来売却する時に、この評価額を取得費として扱えることがある
ただし、税務上の評価額がこれに決まるとは限らない
6 不動産取得税→清算的は課税なし・慰謝料的と扶養的は課税あり
不動産について所有権が移動した場合には、受け取った側に不動産取得税が課税されます。
この点、前述のように、清算的財産分与は実質的な利益の移動はないといえます。そこで、不動産取得税は課税されません。
しかし財産分与には、実質的な夫婦共有財産の清算というもの以外のものもあります。それは慰謝料や将来の扶養の目的で財産を渡すというものです。慰謝料的財産分与、扶養的財産分与”と呼んでいます。
詳しくはこちら|財産分与の基本(3つの分類・典型的な対立の要因)
慰謝料的、扶養的財産分与は、実質的な利益の移動といえます。そこで、不動産取得税は課税されます。
なお、不動産取得税が課税される場合でも、受け取った側が居住する不動産であれば軽減措置が使えることもあります。
不動産取得税→清算的は課税なし・慰謝料的と扶養的は課税あり
あ 清算的財産分与→不動産取得税否定
すなわち、不動産の取得が婚姻中の財産関係を清算する趣旨の財産分与による場合には、それが夫婦いずれに属するか明らかでないため夫婦の共有に属するものと推定される財産(民法七六二条二項)についてなされたものである限り、形式的に財産権の移転が行なわれることはあつても、当然の所有権の帰属を確認する趣旨にすぎず、これによつて実質的に財産権の移転が生じるものではないと解するのが相当であるから、地方税法七三条の二、一項所定の課税原因には該らないというべきである。
い 慰謝料的・扶養的財産分与
ア 不動産取得税肯定
これに対し、不動産の取得が離婚に対する慰藉または将来の扶養を目的とする財産分与による場合には、これによつて実質的にその不動産所有権の移転が生じるものと解するのが相当であるから、前記課税原因に該当するといつて妨げない。
イ 慰謝料的・扶養的財産分与にあたるものの例
そして、夫婦の一方が、婚姻前から所有し、または婚姻中自己の名で取得した財産を財産分与に供したときは、特段の事情がない限り、離婚に対する慰藉または将来の扶養を目的としたものと認めるのが相当である。
※東京地判昭和45年9月22日
7 不動産登記の登録免許税→課税あり
不動産登記の登録免許税は、非常に形式的なもので、登記をする、ということの対価(手数料)です。財産分与だからといって特別扱いはありません。通常の売買と同じように納付が必要となります。
不動産登記の登録免許税→課税あり
あ 課税対象
財産分与として不動産の所有権移転登記を申請する場合
→登録免許税が課税される
い 納税方法
登記申請書に収入印紙を貼付する
う 課税額算定
固定資産税評価額×2%
8 慰謝料・養育費に関する課税(参考)
以上で説明したのは、財産分与についての課税です。ところで、離婚の際には、財産分与以外に、慰謝料や養育費を取り決める(支払う)ことがあります。これらは、性質上、課税されることはないのが原則です。ただし、特殊な事情がある場合、例外的に課税されることもあります。
詳しくはこちら|離婚などの慰謝料への課税(基本的に非課税・例外あり)
詳しくはこちら|養育費(扶養)に関する贈与税・所得税(原則として非課税・一括払いに注意)
本記事では、財産分与に関する課税について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に財産分与などの離婚に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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