【遺言執行者の権限|預金払戻・遺言無効確認訴訟・登記抹消請求訴訟】
1 特定遺贈の場合、遺言執行者は第三者に預金証書の返還を請求できない
預金の証書や貸金庫の内容物について、遺言執行者がどのように扱うか、問題となるケースがあります。
以下、相続開始後、遺言執行者が就任していることを前提として説明します。
事例設定
預金の証書は、被相続人の生前に、被相続人が第三者に預けたままとなっている
第三者(証書占有者)に対して証書の引渡(返還)請求をしたい
この場合、正確に分析すると、次の2つの権利があります。
当該事例について権利関係の整理
・第三者に対する預金証書(寄託物)の返還請求権
この場合、受遺者は確定的に預金返還請求権(債権)を承継します。
同時に第三者への寄託物返還請求権も承継したと考えられます。
そこで、受遺者から第三者に証書の返還請求を行うことができます。
ここで、証書の返還請求は、遺言内容の実現、には該当しません。
遺言内容は、被相続人が有していた預金債権や寄託物返還請求権を受遺者や相続人に承継させること、です。
寄託物の返還を受けるということは遺言内容、相続による承継、には該当しないのです。
そこで、遺言執行者が第三者に対して証書の返還請求を行うことは否定されています。
※大審院昭和15年12月20日
2 預金が遺贈された場合、遺言執行者が金融機関に『債権譲渡通知』を行う必要がある
(1)預金の特定遺贈|遺言執行者の権限
一般的な債権の特定遺贈については、債権譲渡としての対抗要件(通知や承諾)が必要です(最判昭和49年4月26日)。
詳しくはこちら|債権譲渡の対抗要件(民法467条の通知・承諾)の解釈(判例・学説)
預金(債権)についてもこれがあてはまります。
結局、譲渡人に相当する遺言執行者が通知を行うことになります。
預金(債権)の遺贈における遺言執行者の権限
(2)預金の特定遺贈|受遺者からは遺言執行者に『譲渡通知』を請求する
預金の『特定遺贈』を受けた受遺者はそのままでは預金の払戻しを受けられません。
前述の『遺言執行者のアクション』を行うように請求することになります。
預金の特定遺贈を受けた受遺者のアクション
3 預金の包括遺贈では遺言執行者に払戻権限がある
包括遺贈がなされている場合、一般的に、遺産分割が必要です。
また遺贈は相続そのものではないです。
債権が割合に応じて確定的に承継、移転する、ということは該当しません。
これが遺産分割方法の指定(=相続の範囲内)との違いです。
以上により、遺産分割の手続が完了するまでの一定期間について、遺言執行者が遺産の管理を行うことになります。
そこで、遺言執行者の権限として預金を管理するということが含まれます。
具体的には、預金の払戻を受ける権限も認められます。
※東京地裁平成14年2月22日
※さいたま地裁熊谷支部平成13年6月20日
4 預金の『遺産分割方法の指定』では遺言執行者の払戻権限は両説ある
相続人の範囲内で、遺言によって預金の承継先が指定されていることもあります。
遺産分割方法の指定と言われる方法です。
この場合は、相続開始とともに、債権については確定的に指定された相続人が承継します。
そこで、債権の承継、帰属、は完了、確定します。
そのため、原則的に、遺言執行者による承継させる業務は該当しません。
結局、遺言執行者が払戻を受ける権限は否定されることになります。
一方、これを肯定する判例もあります。
遺産分割方法の指定→遺言執行者による預金払戻権限
『最高裁平成3年4月19日』も類似論点だが、これは『登記申請』についての判断である
参考情報
5 預金の『包括遺贈/遺産分割方法の指定』の違いの理由
包括遺贈と遺産分割方法の指定では、承継される状態が異なります。
この違いが遺言執行者の権限となるかどうか、に影響を与えているのです。
遺言内容
債権が相続開始と同時に分割承継となるか
包括遺贈
☓
遺産分割方法の指定
◯
6 遺言に『遺言執行者の権限』を明記しておけば解釈の争いを回避できる
以上は、あくまでも遺言の中に遺言執行者の権限について記載がない場合の解釈です。
遺言の中に遺言執行者の権限が記載されている場合、原則的にこの記載が優先です。
望ましい方法です。
遺言において遺言執行者の権限を設定する条項例
7 貸金庫の内容物|遺言執行者が開扉→確認する
被相続人が貸金庫に財産を保管しているケースもよくあります。
この場合、一般的には遺言執行者に開扉請求権があります。
そして、内容物を確認する、という職務を行うことになります。
貸金庫の法的な扱いについては別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|貸金庫契約|法的性質・内容物の差押・遺言執行者の開閉権
8 遺言無効確認訴訟→被告は遺言執行者
遺言無効確認訴訟×被告
あ 前提事情
相続人の一部が『遺言は無効である』と主張している
→遺言が無効であるとすれば『遺言執行者の選任』も無効となる
しかし、遺言執行者を無視するのは非現実的である
い 被告を誰にするのか
遺言執行者を被告とする
※最高裁昭和31年9月18日
※最高裁昭和51年7月19日
9 遺言無効による登記抹消請求訴訟→被告は登記名義人
遺言無効による登記抹消請求訴訟×被告
あ 前提事情
既に遺言に基いて移転登記がなされている
相続人の一部が『遺言は無効である』と主張している
い 被告を誰にするのか
登記上『第三者が名義人(権利者)』となっている
→『登記名義人』を被告とする
※大審院昭和15年12月20日
本記事では、預貯金や貸金庫に関する遺言執行者の権限について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に相続における預貯金や貸金庫に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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