【警察官の犯罪について不公正な不起訴処分がなされたら準起訴手続ができる】
1 警察官の犯罪については,不公正な不起訴処分があり得る
2 警察官の一定の犯罪の不起訴処分に対して準起訴手続がある
3 準起訴手続は,最終的に裁判所が公訴提起扱いにするかどうかを判断する
1 警察官の犯罪については,不公正な不起訴処分があり得る
警察官等による職権濫用などの犯罪類型があります。
この場合,起訴,不起訴の判断を行う検察官と,類型的に職務上関係があります。
不公正な判断がなされる可能性があります。
典型例は,温情から不起訴処分とする,というものです。
そこで,一定の犯罪類型についての不起訴処分への対応としての手続が用意されています。
『準起訴手続』というものです(刑事訴訟法262条)。
2 警察官の一定の犯罪の不起訴処分に対して準起訴手続がある
準起訴手続の内容を説明します。
対象となる犯罪類型と準起訴手続の審判申立についてまとめます。
<準起訴手続の対象犯罪類型>
・公務員職権濫用罪;刑法193条
・特別公務員職権濫用罪;刑法194条
・特別公務員暴行陵虐罪;刑法195条
・特別公務員職権濫用等致死傷罪;刑法196条
・公安調査官の職権濫用罪(破壊活動防止法45条,無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律42条)
・警察職員の職権濫用罪(無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律43条)
<準起訴手続の審判申立方法>
申立人 対象犯罪類型についての告訴人,告発人 刑事訴訟法262条1項 申立方法 検察官に請求書を提出する 刑事訴訟法262条2項
3 準起訴手続は,最終的に裁判所が公訴提起扱いにするかどうかを判断する
(1)検察官の再検討
準起訴手続は最初に,申立人が検察官に請求書を提出したところから始まります。
検察官が再度検討し,起訴すると決めた場合は,準起訴手続としてはここで終了です(刑事訴訟法264条)。
(2)裁判所の判断
検察官は起訴すると判断しない場合は,裁判所に対して準起訴手続の請求を行います。
裁判所は,起訴すべきかどうかという実質的な判断を行います。
裁判所は,起訴すべきではないと判断した時は請求棄却とします(刑事訴訟法266条1項)。
一方,起訴すべきと判断した時は審判に付することになります(刑事訴訟法266条2項)。
これは公訴提起と同じ状態です(刑事訴訟法267条)。
起訴の判断は検察官が行うという起訴独占主義の特殊な例外です。
<→別項目;起訴するかどうかは検察官に大きな裁量がある;起訴独占主義,起訴弁護主義>
(3)公判の維持,遂行は『指定弁護士』が行う
公判の維持,遂行については,「指定弁護士」が行います。
指定弁護士は,捜査の指揮の嘱託もできます(刑事訴訟法268条2項)。
「指定弁護士」に関するルールは,検察審査会による強制起訴と同じです。
<→別項目;『起訴議決』の後は,起訴→公判遂行を指定弁護士が行う>
(4)準起訴手続の流れ
準起訴手続のフローをまとめておきます。
<準起訴手続のフロー>
※条文は刑事訴訟法です。
検察官の検討
・公訴提起;264条
↓または裁判所に審判の請求
《裁判所の判断》・請求棄却;266条1号
・審判に付する;266条2号
→公訴提起とみなす;267条
公訴維持,遂行者は指定弁護士が行う;268条
捜査の指揮の嘱託可能;268条2項
条文
[刑事訴訟法]
第二百六十二条 刑法第百九十三条 から第百九十六条 まで又は破壊活動防止法 (昭和二十七年法律第二百四十号)第四十五条 若しくは無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律 (平成十一年法律第百四十七号)第四十二条 若しくは第四十三条 の罪について告訴又は告発をした者は、検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、その検察官所属の検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に事件を裁判所の審判に付することを請求することができる。
2 前項の請求は、第二百六十条の通知を受けた日から七日以内に、請求書を公訴を提起しない処分をした検察官に差し出してこれをしなければならない。
第二百六十四条 検察官は、第二百六十二条第一項の請求を理由があるものと認めるときは、公訴を提起しなければならない。
第二百六十六条 裁判所は、第二百六十二条第一項の請求を受けたときは、左の区別に従い、決定をしなければならない。
一 請求が法令上の方式に違反し、若しくは請求権の消滅後にされたものであるとき、又は請求が理由のないときは、請求を棄却する。
二 請求が理由のあるときは、事件を管轄地方裁判所の審判に付する。
第二百六十七条 前条第二号の決定があつたときは、その事件について公訴の提起があつたものとみなす。
第二百六十八条 裁判所は、第二百六十六条第二号の規定により事件がその裁判所の審判に付されたときは、その事件について公訴の維持にあたる者を弁護士の中から指定しなければならない。
2 前項の指定を受けた弁護士は、事件について公訴を維持するため、裁判の確定に至るまで検察官の職務を行う。但し、検察事務官及び司法警察職員に対する捜査の指揮は、検察官に嘱託してこれをしなければならない。
3 前項の規定により検察官の職務を行う弁護士は、これを法令により公務に従事する職員とみなす。
4 裁判所は、第一項の指定を受けた弁護士がその職務を行うに適さないと認めるときその他特別の事情があるときは、何時でもその指定を取り消すことができる。
5 第一項の指定を受けた弁護士には、政令で定める額の手当を給する。
[刑法]
(公務員職権濫用)
第百九十三条 公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、二年以下の懲役又は禁錮に処する。
(特別公務員職権濫用)
第百九十四条 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、六月以上十年以下の懲役又は禁錮に処する。
(特別公務員暴行陵虐)
第百九十五条 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、七年以下の懲役又は禁錮に処する。
2 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、前項と同様とする。
(特別公務員職権濫用等致死傷)
第百九十六条 前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
[破壊活動防止法]
(公安調査官の職権濫用の罪)
第四十五条 公安調査官がその職権を濫用し、人をして義務のないことを行わせ、又は行うべき権利を妨害したときは、三年以下の懲役又は禁こに処する。
[無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律]
(公安調査官の職権濫用の罪)
第四十二条 公安調査官がこの法律に定める職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、三年以下の懲役又は禁錮に処する。
(警察職員の職権濫用の罪)
第四十三条 警察職員がこの法律に定める職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、三年以下の懲役又は禁錮に処する。