【面会交流妨害への履行勧告と間接強制(間接強制金の相場)】
1 子供との面会×履行勧告|手軽な割には効果を生じることもある
2 面会交流妨害×間接強制|ペナルティ的金銭支払命令
3 間接強制金の相場(3〜10万円)
4 間接強制金の決定事例(8万円)
5 間接強制金の決定事例(100万円)
6 間接強制金不払いへの対抗策
7 面会交流/子供の引渡×直接強制|違い
8 子供との接触が望ましくないと判断されると,面会交流が認められない
1 子供との面会×履行勧告|手軽な割には効果を生じることもある
子供との面会を相手=同居親が拒む,というケースが非常に多いです。
この場合の対応方法についてまとめます。
最初に『履行勧告』の制度について紹介します。
<子供との面会×履行勧告>
あ 基本的な制度内容
家庭裁判所が相手方に対し『履行を勧告』する
い 具体的な『勧告』方法
ア 書面で通知するイ 電話をかける
う 強制力
法的な強制力・罰則はない
『促す』だけである
え 利用の位置付け
『強制執行』(後記)と比べて手軽である
最初にとりあえず,トライアルで利用してみる
手軽な割には効果を生じることもある
2 面会交流妨害×間接強制|ペナルティ的金銭支払命令
子供との面会交流について『強制執行』をすることもできます。
強制執行の方法についてまとめます。
<面会交流妨害×間接強制>
あ 面会交流妨害|前提事情
子供と同居する親が別居している親との面会交流をさせない
い 面会交流妨害×直接強制
執行官が同居親のところに行って,子供を抱きかかえて連れ出す
→状況として不合理=できない
う 面会交流妨害×間接強制
面会交流妨害での強制執行としては『間接強制』が一般的である
直接強制に適さないので消去法的な扱いである
※大阪高裁平成14年1月15日
『間接強制』とは一定のペナルティの金銭支払を命じるものです。
詳しくはこちら|強制執行・一般論|直接強制・代替執行・間接強制|間接強制金・金額相場
3 間接強制金の相場(3〜10万円)
子供との面会をさせない場合の『間接強制金』の金額について説明します。
<間接強制金の相場(3〜10万円)>
あ 基本的な考え方
ペナルティとして,相手方にとってプレッシャーとなるように設定する
同居親の経済状況によって金額が変わる
い 間接強制金|相場
『養育費or婚姻費用分担金』相当額,ということが多い
う 間接強制金|具体例
ア 平均的金額
月額3〜10万円程度が多い
イ 特殊事例の場合
同居親の収入が特に高い場合
『養育費・婚姻費用分担金』を超えることもある(後記)
例;月額20万円というケースもある
養育費や婚姻費用の金額の相場については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|養育費・婚姻費用分担金の金額算定の基本(簡易算定表と具体例)
4 間接強制金の決定事例(8万円)
間接強制金として相場内で高めの金額が決定された事例を紹介します。当然,個別的な事情が反映されたものです。
<間接強制金の決定事例(8万円)>
あ 面会交流|内容
父が子供と同居している
家裁の決定により毎月1回の面会交流が決められている
父が母の面会交流を拒否・妨害している
い 『同居親=父』の経済状態
ア 数年前まで
高等学校の教員→年間650万円を超える給与
短期大学の非常勤講師→若干の収入
イ 数年前から
父は法科大学院に通学し始めた
収入がなくなった
自己の貯蓄から生活費をまかなっている
う 婚姻費用分担金の金額
婚姻費用分担金=月額5万円
この内容の審判が確定している
え 裁判所の判断|間接強制金
不履行1回について8万円
※東京高裁平成24年1月12日
5 間接強制金の決定事例(100万円)
個別的な事情によっては,前記の相場を大きく離れた間接強制金が決められます。珍しい事例として100万円と決定された事例を紹介します。
<間接強制金の決定事例(100万円)>
あ 事案
父が長女の親権を得た
父が長女を母に面会させない
=面会交流の妨害をしていた
これ以外の事情(特殊性)について
→公表されていない
い 面会交流妨害の間接強制金
1回あたり100万円とする
※東京家裁平成28年10月4日
う 現実的な成果
これによりようやく面会交流が実現するに至った
え 判断の変更可能性
東京高裁に抗告されている
高裁が異なる判断をする可能性もある
※朝日新聞平成29年1月21日
6 間接強制金不払いへの対抗策
間接強制金を相手方が支払わない,ということも多いです。
この場合の対応について説明します。
<間接強制金不払いへの対抗策>
あ 差押
相手の財産を差し押さえる→回収する
差し押さえる財産の典型例=預貯金・給与
い 親権変更
不払いは,非常識かつ法律,裁判所を軽視する態度である
→この状態が延々と続けるような場合
→親権者としての妥当性を否定する事情になる
→親権者の変更が認められる可能性も出てくる
詳しくはこちら|親権者・監護権者の変更の手続(家裁の審判・子の意見の聴取)と要件
差押が直接的な金銭としての回収手段です。
それとは別に全体的な事情によっては『子供を取り返す』ことにもつながります。
7 面会交流/子供の引渡×直接強制|違い
子供を裁判所の「執行官」が直接連れて来るという方法も考えられます。
『直接強制』と言われる方法です。
<面会交流/子供の引渡×直接強制|違い>
あ 直接強制の可否|まとめ
請求内容 | イベントの繰り返し | 直接強制の可否 |
面会交流 | 定期的に行われる | できない(※1) |
子供の引渡 | 1回だけで完了する | できる(※2) |
い 解釈論|面会交流(上記※1)
多くの裁判所では,基本的に直接強制を認めていない
※大阪高裁平成14年1月15日
う 解釈論|子供の引渡
『直接強制』を認める扱いも増えている
詳しくはこちら|子供の引渡しの強制執行;直接強制,間接強制
え 解釈論|違い
1回だけの移動であれば,義務の履行を優先する
『繰り返しが想定される移動』については子供の受けるショックを優先する
『1回だけ/繰り返し』という違いが解釈の結果として現れているのです。
8 子供との接触が望ましくないと判断されると,面会交流が認められない
一方,子供との面会自体が認められない,ということもあります。
面会交流が認められない典型例は次のようなものです。
<面会交流が制限される例>
・同居の時点(以前)から子供に接する態度が良くなかった
・子供に暴力をふるう危険性がある
・子供が拒否している
・親同士の対立が激しい→面会により悪口を吹き込むなどの危険性がある
・面会を求める理由が不適切(母(または父)の現在の状況をさぐる目的など)
・面会を認めた場合に,母(または父)が危害を受ける危険性がある
・子供の情緒不安定を招来する(母(または父)の再婚など)
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