【内縁関係に適用される制度と適用されない制度(法律婚の優遇)】

1 内縁関係に適用される制度と適用されない制度
2 内縁関係には民法の婚姻の規定がほとんど適用される
3 内縁と法律婚の婚姻費用分担金の違い
4 内縁関係にも適用される公的な制度
5 内縁に適用されない民事上の規定・制度
6 内縁に適用されない刑事上の制度
7 内縁に適用されない訴訟法上の制度(概要)
8 内縁に適用されない公的制度
9 重婚的内縁に適用される規定と適用されない規定がある
10 内縁でも遺産承継ができる(特別縁故者の財産分与)
11 墓所・遺骨承継・葬儀の主催者は内縁者が優先される(祭祀主宰者)
12 法律婚を優遇することは不合理である

1 内縁関係に適用される制度と適用されない制度

男女が結婚(婚姻)する意思で共同生活をしていると,法律上,内縁(事実婚)として扱われることがあります。
詳しくはこちら|内縁|基本|婚姻に準じた扱い・内縁認定基準|パートナーシップ関係
内縁関係は,法律婚(婚姻)に準じた扱いがなされます。
つまり,法律婚の規定が準用されるのです。
とはいっても,すべての法律婚の規定が適用されるわけではなく,適用されるものと適用されないものがあります。
本記事では内縁に適用されるルールと適用されないルールの内容を説明します。

2 内縁関係には民法の婚姻の規定がほとんど適用される

内縁関係として認められた場合『婚姻関係に準ずる関係』として扱われます。
原則的に,婚姻(法律婚)に関する民法上の規定が適用(準用)されることになります。

<内縁に適用される民法上の規定>

あ 基本的な法律婚に準じた扱い

内縁として認められた場合
婚姻関係(法律婚)に準ずる関係(ア〜オ)として扱う
※最高裁昭和33年4月11日
ア 同居義務 ※民法752条
イ 貞操義務 違反については慰謝料の賠償責任が生じる
※民法770条1項1号
ウ 相互扶助義務 扶養義務・婚姻費用分担義務など
※民法752条,760条
『解消時』に法律婚との違いが具体化する(後記※1
エ 日常家事債務の連帯責任 ※民法761条
オ 内縁解消に伴う財産分与(共有財産制) ※民法762条,768条
詳しくはこちら|内縁関係の解消(離婚)における清算(財産分与の適用・家裁の調停・審判)

い 財産法における法律婚に準じた扱い

葬式費用の先取特権について
扶養すべき「親族」(民法309条2項)には内縁の妻も含まれると解するのが通説である
※道垣内弘人編『新注釈民法(6)物権(3)』有斐閣2019年p227

3 内縁と法律婚の婚姻費用分担金の違い

法律婚では婚姻費用分担義務があります。つまり,別居中でも夫婦間には,毎月の生活費を渡す(送金する)義務があります。
内縁関係でも,基本的な理論としては同じです。
しかし,関係が悪化して別居した時点で内縁関係が解消(終了)となります。その結果,その後の生活費を渡す義務はない状態となります。

<内縁と法律婚の婚姻費用分担金の違い(※1)

あ 内縁と法律婚での基本的な法的扱い

内縁関係は法律婚に準じて扱う
→方向性としては法律婚と内縁に違いはない

い 法律婚における婚姻費用分担金

婚姻解消までに長期間を要することが多い
→婚姻費用分担金の支払が長期間継続する
いわゆる『婚費地獄』と呼ばれる状態である
離婚時の清算金額が跳ね上がることにつながる
詳しくはこちら|結婚制度の不合理性(婚費地獄・結婚債権・貞操義務の不公平・夫婦同姓など)

う 内縁関係における婚姻費用分担金

当事者が別居すれば内縁解消となる
内縁解消後の出費(生活費)の分担義務はなくなる
→婚姻費用分担金の支払は容易に断ち切られる
いわゆる『婚費地獄』は発現しない
ただし妊娠・出産に関する費用は特別な扱いとなる
詳しくはこちら|医療費や出産費用は夫婦の分担義務がある(法律婚・内縁の婚姻費用分担金)

4 内縁関係にも適用される公的な制度

公的な制度についても,一定の範囲で,内縁関係を夫婦(配偶者)と同様に扱う規定があります。
例えば,労働基準法に基づく遺族補償については,内縁でも認められることがあります。
いわば公的機関も内縁関係を公認する傾向にあります。

<内縁関係にも適用される公的な制度>

あ 内縁に適用される公的制度

ア 厚生年金イ 国民年金ウ 健康保険(医療保険)

い 内縁に適用される規定

厚生年金保険法3条2項
国家公務員等共済組合法2条
国民年金法5条7項
労働基準法79条
船員法93条
健康保険法1条

う 遺族年金の扱い

厚生年金・国民年金の制度の中に遺族年金の制度がある
遺族年金の受給における内縁者の扱いについては判例の見解に揺れがある
詳しくはこちら|遺族年金|内縁者の受給|重婚的内縁・養子縁組・『母子/父子』差別解消

5 内縁に適用されない民事上の規定・制度

内縁は,完全に法律婚と同様に扱われるわけではありません。法律婚には適用されるが内縁関係には適用されない規定も多くあります。
まずは,民事上の規定や制度のうち,内縁には適用されないもの(法律婚専用)をまとめます。

<内縁に適用されない民事上の規定・制度>

あ 相続権(※1)

※民法900条1号
詳しくはこちら|内縁関係の死別における相続権・財産分与の適用の有無

い 夫婦同姓(苗字の変更)

※民法750条
詳しくはこちら|婚姻と離婚による苗字(姓・氏)の変化(夫婦同姓・離婚時の復氏・続称届)

う 親族関係の発生
え 未成年養子の家裁の許可の例外

詳しくはこちら|養子縁組の基本(形式的要件・効果・典型的活用例)
※民法798条

お 子の嫡出性

詳しくはこちら|非嫡出子の相続分を半分とする規定→法律婚優遇・子供差別は不合理→違憲・無効

か 子の共同親権

※民法818条3項

き 成年擬制
く 夫婦間の契約取消権

この規定自体が空文化している
詳しくはこちら|夫婦間の契約取消権の基本的事項(背景・趣旨・実害・条文削除意見)
→実質的には内縁・法律婚で違いはない

6 内縁に適用されない刑事上の制度

刑罰法規では,条文の文言から拡大する,つまり犯罪となる対象行為を増やす方向に解釈することは禁じられているのです。これを罪刑法定主義と呼びます。
そこで,刑法上の規定における親族婚姻の解釈では,内縁を含みません。

<内縁に適用されない刑事上の制度>

あ 脅迫罪の保護する範囲

『親族』に対する害悪の告知が含まれる

脅すセリフの例 脅迫罪の成否
『お前の妻を殺す』 (夫への)脅迫罪が成立する
『お前の内縁の妻を殺す』 (夫への)脅迫罪は成立しない

※刑法222条2項

い 重婚罪の成否

『(重ねて)婚姻』には内縁関係を形成することを含まない
※刑法184条
詳しくはこちら|国際結婚でも『一方が日本人』だと,一夫多妻(重婚)はできない

7 内縁に適用されない訴訟法上の制度(概要)

民事訴訟法では,特殊な事情がある場合には例外的に,証言義務が適用されないことがあります。証言拒絶権というものです。
証言拒絶権の1つとして,証人自身や証人と一定の範囲のある者が刑事訴追を受けるおそれや名誉を害される場合に認められるものがあります。この中に,証人の配偶者があります。この『配偶者』は法律婚だけが対象です。内縁(事実婚)は含まれません。
詳しくはこちら|刑事訴追のおそれ・名誉侵害による証言拒絶権(民事訴訟法196条)

8 内縁に適用されない公的制度

所得税の配偶者控除の制度は,法律婚における配偶者だけが対象となっています。

<内縁に適用されない公的制度>

あ 所得税の配偶者控除

所得金額から38万円(原則)を控除する制度
※所得税法2条1項33号,83条
※所得税法基本通達2−46

9 重婚的内縁に適用される規定と適用されない規定がある

内縁関係自体の特殊性によって,法律婚の規定が適用されるかどうかが決まることもあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|重婚的内縁関係にも適用される法律婚の規定と適用されない規定がある

10 内縁でも遺産承継ができる(特別縁故者の財産分与)

内縁の関係の2人は,相互に相続権はありません(前記)。
しかし,一定の範囲で内縁の者相互に遺産の承継が認められることもあります。
特別縁故者への相続財産分与という制度です(民法958条の3)。
詳しくはこちら|特別縁故者の基本(承継する財産の範囲・複数の者・手続外での財産承継・審理の特徴)

11 墓所・遺骨承継・葬儀の主催者は内縁者が優先される(祭祀主宰者)

内縁の一方が亡くなった時に,相続(財産承継)以外でトラブルが生じることがあります。
墓所や遺骨の引き取りや葬儀の方法・宗派の対立といったものです。
このような問題は祭祀主宰者の指定という手続で解決します。
実際には内縁の妻(夫)が優先的に指定されることが多いです。
詳しくはこちら|家庭裁判所による祭祀主宰者の指定の判断基準

12 法律婚を優遇することは不合理である

内縁は,法律婚と同じように扱われる傾向がありますが,完全ではありません。
つまり,内縁関係には適用されない法律婚の規定があるのです。
このことは,内縁を不当に不利に扱う(差別する)ことにつながっています。
法律的な理論上,このような差別は問題があります。
詳しくはこちら|内縁関係や認知しないことの不利益扱い(家族の形態への国家の介入)

本記事では,内縁関係に適用される規定や適用されない規定の内容を説明しました。
実際には,具体的な男女の関係や状況によって法的扱いが大きく異なります。
内縁などの男女関係に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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