【事業場外みなし労働時間制|指揮監督なし・労働時間把握困難な業務が対象】
1 一定の業務についてはみなし労働時間制が認められる
2 事業場外みなし労働時間制の導入
3 事業場外みなし労働時間制の典型例
4 事業場外みなし労働時間制導入の注意点|適用を否定した判例
5 事業場外みなし労働時間制においても残業代の発生はあり得る
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裁量労働制では労働時間が一定時間とみなされ,残業代は支払われない
<→労働時間の把握をしない事業場外みなし労働時間制がある>←イマココ
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1 一定の業務についてはみなし労働時間制が認められる
外勤のように会社や上司が,正確な稼働時間,を把握できない場合は労働時間を把握することが難しいです。
労働時間の制限や残業代の算定などで困難や不公平となることがあります。
そこで,正確な労働時間の把握をせずに,一定のみなし労働時間を設定するという制度があります。
これを,みなし労働時間制と言います。
1日中客先回りをする営業マンのように,特定の職場(事業場)以外で労働する場合が典型例です。
この場合,「事業場外みなし労働時間制」と言います。
労働基準法に規定があります。
2 事業場外みなし労働時間制の導入
(1)適用要件
事業場外みなし労働時間制を適用して労働時間を算定するためには,以下の要件を満たさなければなりません。
<事業場外みなし労働時間制;適用要件>
あ 事業場の外での労働である
『事業上内』の労働と混在すると否定される
い 使用者の具体的な指揮監督が及ばない
従業員による裁量が小さいと否定される
う 労働時間を算定することが困難である
通信端末などで労働時間把握が容易だと否定される
仮に就業規則でみなし労働時間制を『設定』しても,この適用要件を満たさない場合は『適用されない』ことになります。
(2)みなされる労働時間の設定方法
<事業場外みなし労働時間制の労働時間設定方法>
原則 | 就業規則で定める |
所定労働時間が8時間を超過する場合 | 労使協定+労働基準監督署への届出 |
所定労働時間が8時間以内の場合でも,労使相互の理解を十分とするために労使協定を結ぶこともあります。
(3)休日労働×みなし制度
休日労働についても,通常=平日のみなし労働時間制度が類推適用される可能性があります。
この点,就業規則ではなく労使協定で定めておけば,有効となる可能性が高いでしょう。
※東京地裁平成24年7月27日;ロア・アドバタイジング事件
3 事業場外みなし労働時間制の典型例
実際に事業場外みなし労働時間制を導入する業種の例を説明します。
(1)一般的な事業場外みなし労働時間制導入例
<事業場外みなし労働時間制が適用される典型例>
あ 外回りの営業職
い 新聞記者
外回りをしている営業職や,新聞記者などは,正確な労働時間の把握が困難です。
もちろん,1日中外回りをしても,オンラインなどのタイムカードで勤務時間を管理している場合は,適用されません。
<営業職×みなし時間労働制|判例>
最高裁平成26年1月24日;阪急トラベルサポート事件(無効)
東京地裁平成21年2月16日;日本インシュアランス事件(有効)
東京地裁平成25年5月22日;ヒロセ電機事件
(2)1日の労働時間のうち,会社内,社外混在の導入例
<1日の労働時間に『会社内/外』が混在する場合>
あ 原則(所定みなし)
事業場外・事業場内の労働時間を含めて,所定労働時間労働したものとして扱う
※通達;昭和63年1月1日基発1号
い 労使協定による設定(通常みなし)
『事業場内の実労働時間+所定労働時間』を労働時間とする
※通達;昭和63年3月14日基発150号
労働時間の把握が困難という結論は1日中事業場外という場合と同じだからです。
例えば,所定労働時間が8時間で午前中は事業場内で仕事し,午後から事業場外で営業活動を行った場合を考えます。
結局,1日の労働時間の算定が困難と言えます。
そこで,その日事業場内で労働した時間を含めて全体として所定労働時間の8時間労働したものとして扱います。
(3)在宅勤務(SOHO)への導入例
事業場外と言えるためには,私的空間である必要があります。
次に『労働時間の算定が困難』と言える必要があります。
要するに『管理が不十分(=労働者の裁量が大きい)』という状況のことです。
最近流行りつつある,在宅勤務(いわゆるSOHO)について,事業場外みなし労働時間制を適用する要件を詳しくまとめると次のようになります。
<『労働時間の算定困難』の要件>
ア 業務が,起居寝食等私生活を営む自宅で行われることイ 情報通信機器が,使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないことウ 業務が,随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
ただし,従業員がスマホを持っていれば『労働時間の算定困難』が否定されるとは限りません。
『随時の連絡・指示』がなければ『労働時間の算定困難』が認められることがあります。
※東京地裁平成25年5月22日;ヒロセ電機事件
(4)ノマド・ワーク(NOMAD)への導入例
NOMAD(喫茶店・公園など)で仕事をする場合についてもみなし労働時間制に整合します。
喫茶店・公園などは,明らかに事業場ではありませんので,より事業場外みなし労働時間制に適しているでしょう。
4 事業場外みなし労働時間制導入の注意点|適用を否定した判例
(1)事業場外みなし労働時間制を導入できない例
労働時間の把握がされている,という場合は,事業場外みなし労働時間制は適用できません。
<事業場外みなし労働時間制適用対象外|判例>
あ 労働時間の把握がなされている
例;スマートフォンやノートパソコン等で会社(のサーバ)に常時アクセスしている
い 使用者の指揮監督が及んでいる
『従業員の裁量が小さい』という意味
《例》
ア 日程・業務内容が決まっているイ 日程変更時には使用者への報告・指示を受けることとされていたウ 日報による業務状況報告が求められていた
※最高裁平成26年1月24日;阪急トラベルサポート事件
あくまでも,原則=実際の労働時間で賃金を計算する,ということが前提なのです。
どうしてもこれが不可能な場合のみ,みなし労働時間制が適用できるのです。
仮に労使協定があっても前提の『要件』が満たされていないとみなし労働時間制は適用されない(無効)とされます。
(2)事業場外みなし労働時間制;間違えやすい例
労働時間の算定が可能であるのに,みなし労働時間を適用している誤った例が散見されます。
事業場外みなし労働時間制の適用対象かどうかの判断がやや曖昧な場合に誤解が生じます。
<事業場外みなし労働時間制が適用対象外;具体例>
・グループで事業場外労働をする場合で,その中に管理者(労働時間を管理する者)がいる場合。
・無線や携帯電話等で随時管理者の指示を受けながら労働に従事している場合。
・外出の前に訪問先や帰社時刻など当日の業務について具体的な指示を受け,事業場外で指示どおりに業務をこなし,その後事業場に戻る場合。
5 事業場外みなし労働時間制においても残業代の発生はあり得る
事業場外みなし労働時間制が適用されても,残業代を払わなければならない場合があります。
例えば,みなし労働時間制が適用される営業マンが帰社して,会社でも仕事をしてから帰ったという場合です。
状況によって次のように変わってきます。
<事業場外みなし労働時間制;残業代発生;具体例>
あ 設定
定時=午後5時30分
実際の帰宅時刻=午後7時
い 適用
ア 営業マンが定時前に会社に戻ってきて,社内で書類整理をして7時に帰社した
→定時以降に仕事をした時間(1時間30分)について残業となります。
イ 営業マンが定時以降(午後6時30分)に会社に戻ってきて,社内で書類整理をして7時に帰宅した
→会社で仕事をしていた30分について残業となります。
条文
[労働基準法]
第38条の2第1項
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において,労働時間を算定し難いときは,所定労働時間労働したものとみなす