【従業員の退職金の基本(請求できるか・消滅時効・取締役兼務ケース)】
1 従業員の退職金の基本(請求できるか・消滅時効・取締役兼務ケース)
会社の従業員が退職した時に退職金が支給されることがよくあります。従業員の退職金については、請求できるのか(必ず支給されるのか)、消滅時効は何年か、取締役の場合はどうなるか、というような問題があります。本記事ではこのような退職金の基本的事項を説明します。
2 退職金の呼称→退職慰労金・退職手当などもある
退職金については、他の名称で呼ばれることもあります。たとえば退職慰労金、退職手当という用語(ネーミング)です。たとえば労働基準法では退職手当という用語が用いられています。用語にかかわらず、退職の際に雇用主から従業員に支払われる金銭であれば法的な扱いは同じです。
3 退職金の支払義務→規定あり+裁量なしならば義務あり
退職金の支払は義務、つまり退職した従業員は退職金を請求できるのでしょうか。これについては、退職慰労金規程や労働協定で決まります。退職金の支給の有無、金額について雇用主の裁量があるかどうかが重要です。
機械的・客観的な算定式で決められている場合は、雇用主としての裁量はありません。つまり、退職金は請求権として認められる(請求できる)ことになります。
逆に、退職金支給の有無、金額が雇用主の裁量とされていれば、当然、支給は義務ではない、ということになります。
会社によってどのようなルールを設定しているかは異なります。退職金の支給自体を制度として採用していない会社もあります。
4 退職金規定の典型例→就業規則+退職金規程など
実際には、退職金のルールを決めてある会社では、就業規則や賃金規程、退職慰労金規程として定めてあることが多いです。
退職金規定の典型例
あ ルールの種類の例
ア 就業規則+退職金規程
就業規則には、「退職慰労金については別途定める退職慰労金規程による」と記載する
退職金慰労規定において、具体的な退職金算定方法などを記載する
イ 労働協定
労働協定において退職金算定方法を定める
い 退職金算定方法(算定要素)の例
(ア)在職年数(イ)退職時の給与(基本給)(ウ)退職時の役職(エ)退職の理由
5 成績不良・懈怠の従業員の退職金→懲戒解雇による不支給あり
退職金のルールがあれば、退職の際に必ず退職金が支給される(請求できる)とは限りません。就業規則等の明文のルールで、懲戒解雇の場合には退職金を不支給とする等の規定があれば、この規定は有効です。
懲戒解雇となった退職者については、退職金は発生しません。
しかし、このような規定がないのであれば、会社は退職金の支払義務を免れないことになります。
なお、懈怠・成績不良などの事情があっても、懲戒未満、という場合は、ルールに基づかないで退職金をカットすることはできません。
要するに賃金の一種として、一般的な給与や残業代などと同じ扱いになるのです。
6 退職金の消滅時効→5年
退職金請求権の消滅時効については、法改正により、退職時から5年となっています(労働基準法115条)。ただし、現在は経過措置により3年となっています(令和2年改正附則2条2項)。
なお、以前は通常の給与(賃金)の消滅時効は2年とされ、退職金の消滅時効とは期間が異なっていましたが、現在では両方とも同じ5年となっています。
条文
あ 労働基準法
(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
※労働基準法115条
い 改正附則
2 新法第百十五条及び第百四十三条第三項の規定は、施行日以後に支払期日が到来する労働基準法の規定による賃金(退職手当を除く。以下この項において同じ。)の請求権の時効について適用し、施行日前に支払期日が到来した同法の規定による賃金の請求権の時効については、なお従前の例による。
※労働基準法令和2年改正附則2条2項
7 使用人兼務取締役の退職金(概要)
以上で説明したのは従業員(労働者)の退職金の扱いです。この点、取締役(などの役員)の退職金(退職慰労金)は法的扱いが大きく異なります。
この点、実際には、「取締役」ではあっても従業員(使用人)の職務も兼ねている状況がよくあります。このようなケース、つまり使用人兼務取締役といえる場合には、その退職金は、取締役としての職務に対する報酬と、従業員としての労働の対価に分けて考える必要があります。
そして、取締役の退職金(退職慰労金)の部分については、株主総会の決議または定款の定めがないと支給できません。
一方、従業員の退職金については、以上で説明したとおり、就業規則や労働協約に基づいて支給されます。労働債権として、労働基準法などで強く保護されています。
取締役の退職慰労金や使用人兼務取締役の退職金については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|取締役の退職金・弔慰金への会社法361条の適用(株主総会決議の要否)
本記事では、従業員の退職金の基本的事項について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に従業員の退職金に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
条文
[労働基準法]
(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
[会社法]
(株式会社と役員等との関係)
第三百三十条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
(取締役の報酬等)
第三百六十一条 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
2 前項第二号又は第三号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。
(監査役の報酬等)
第三百八十七条 監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
2 監査役が二人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、前項の報酬等の範囲内において、監査役の協議によって定める。
3 監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることができる。