【逮捕の要件とその後の勾留の時間制限,接見交通権】

1 通常逮捕の要件は3つある
2 逃亡のおそれ罪証隠滅のおそれの判断には多くの事情が影響する
3 逮捕,起訴勾留の時間制限は厳格に決まっている
4 起訴勾留は長期化する
5 公判はごく単純な事案で3か月程度を要する
6 逮捕後の身柄拘束においては外部との連絡が制限される
7 弁護士の接見交通権は制限されない

1 通常逮捕の要件は3つある

逮捕は,身柄を拘束して,その後起訴した時の出廷を確保する,という目的があります。
逮捕自体に処罰の趣旨はありません。
一方,身柄拘束の精神的,肉体的な苛酷さから虚偽自白がなされる温床になっています。
このような弊害を排除するため,身柄拘束は最小限度にとどめ,身柄解放を原則とした運用がなされるべきです。

以下,逮捕のうち,最も一般的な「通常逮捕」の要件について説明します。
略して通逮(つうたい)と言うこともあります。

通常逮捕の要件は刑事訴訟法で規定されています。
次の3つが要件とされます。

(1)逮捕の理由

条文上は『被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある』という規定です(刑事訴訟法199条1項)。
この要件を逮捕の理由と呼んでいます。

(2)逮捕の必要性

条文上『逮捕の必要性』が要件とされています(刑事訴訟法199条2項但書)。
これ自体は抽象的ですが,次のように解釈されます。

逮捕の必要性の内容>

※刑事訴訟規則143条の3
ア 被疑者が逃亡するおそれイ 被疑者が罪証を隠滅するおそれ

実際には,この2つの要件の該当性の解釈が大きく拡がる傾向にあります(後記『2』)。

(3)軽微事件と通常逮捕

一定の軽微な類型については,逮捕のハードルが高く設定されます。

軽微事件の対象>

※刑事訴訟法199条1項但書
法定刑が30万円以下の罰金,拘留,科料のいずれかとされる罪

軽微事件の例>

過失傷害罪;刑法209条
侮辱罪;刑法231条

<高めに設定された逮捕の要件>

※いずれかに該当することが必須となる
ア 住居不定イ 捜査機関の出頭要求の拒否;刑事訴訟法198条

2 逃亡のおそれ罪証隠滅のおそれの判断には多くの事情が影響する

具体的な判断要素,判断の方向性の例をまとめます。

<判断要素の例>

・罪を認めているかどうか
・示談しているかどうか
・職業
・同居人の有無

<判断の方向性の例>

・罪の内容→重い罪→逃亡する可能性大→逮捕される方向
・前科や前歴がある→今回は罪が重くなる→逃亡する可能性大→逮捕される方向
・罪を認めない(否認)→逃亡する可能性大→逮捕される方向・示談成立→罪が軽くなる
・反省している→逃走しない→逮捕されない方向
・職場で責任ある立場にある→その地位を捨てる可能性は低い→逃亡の可能性小→逮捕されない方向
・妻子と同居している→その環境を捨てる(壊す)可能性は低い→逃亡の可能性小→逮捕されない方向

なお,実務では最近運用が変わってきており,全体的に以前よりは逮捕しない傾向になりつつあります。

3 逮捕,起訴勾留の時間制限は厳格に決まっている

逮捕された方は,いつ家に帰れるのか,と非常に不安になります。
身柄拘束については厳格に上限が規定されています。

<逮捕後の身柄拘束の時間制限>

ア 48時間以内に検察官に送致されなければ釈放されます。イ 検察官送致の後,釈放又は24時間以内(逮捕から72時間以内)に検察官が勾留を請求できます。ウ 裁判官が勾留の必要ありと判断すれば,原則10日間勾留されます。エ やむをえない事由があれば,さらに勾留が10日間延長されます。

4 起訴勾留は長期化する

身柄拘束の時間制限は,起訴になると,一気に緩やかになります。
起訴から勾留されている場合は,自動的に起訴勾留に切り替わります(刑事訴訟法60条2項)。
そして,最初の拘留期間は2か月間となります。
その後は,1か月ごとの勾留更新となることが多いです(刑事訴訟法60条2項)。

条文上,次の事項に該当する場合は起訴後の勾留更新は1回まで,となります(刑事訴訟法60条2項ただし書,89条)。
しかしこの中の『罪証隠滅のおそれ』に該当するという理由でこの回数制限が機能しないことも少なくありません。

<起訴後の勾留更新が1回に制限される条件>

※刑事訴訟法60条2項ただし書,89条
犯罪の法定刑が,死刑,無期,短期1年以上の懲役,禁錮である;89条1号
犯罪が常習であり,かつ,法定刑が長期3年以上の懲役,禁錮である;89条3号
被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある;89条4号
被告人の氏名または住居が分からない;89条6号

5 公判はごく単純な事案で3か月程度を要する

公判(刑事裁判)の所要時間は,当然,その内容によって大きく異なります。
ここでは単純な案件最小限という目安を説明します。

次のような単純な案件については,起訴から判決言渡までが3か月程度です。

<公判の所要時間が短くなる条件>

ア 事実関係に争いがないイ 情状に関する主張,立証のみであるウ 情状に関する立証の内容は,証人と書面のみである

6 逮捕後の身柄拘束においては外部との連絡が制限される

逮捕,勾留という身柄拘束の期間中は規定上は原則的に外部の方と面会手紙のやり取りができます。
ただし,通常は警察官の立ち会い,検閲がなされます。

この点,裁判所により「接見禁止」の措置が取られると,面会手紙の連絡のいずれかまたは一部が禁止になります。
また,事情によっては特定の者を対象とした面会等が禁止となることもあります。
接見禁止がなされる理由は罪証隠滅のおそれです。

7 弁護士の接見交通権は制限されない

いずれにしても,弁護士との面会,手紙の連絡は,接見禁止の対象外です。
また,面会する時も警察官の立ち会いはありません。

これは,被疑者として最大限防御の機会を確保される,という憲法,法律上の要請です(憲法37条3項)。
このように弁護士には強力な接見交通権があるのです。

条文

[刑事訴訟法]
第六十条  裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
○2  勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
○3  三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。

第八十九条  保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一  被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二  被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三  被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五  被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六  被告人の氏名又は住居が分からないとき。

第百九十八条  検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
○2  前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
○3  被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
○4  前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
○5  被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。

第百九十九条  検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2  裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
○3  検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。

[刑事訴訟規則]
(明らかに逮捕の必要がない場合)
第百四十三条の三  逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

[刑法]
(過失傷害)
第二百九条  過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
2  前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

(侮辱)
第二百三十一条  事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

[憲法]
第三十七条  すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
○2  刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
○3  刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

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