【破産による免責|免責不許可事由・裁量免責|保証人への影響・特定債権者の除外】
1 『免責不許可事由』がなければ『免責が許可』される
2 免責不許可事由があっても免責されることが多い|裁量免責
3 『使い込み・横領行為』があっても,破産手続・免責を狙える
4 騙されて多額の借金→裁量免責となることも多い
5 ショッピング枠の現金化は違法|裁量免責となることも多い
6 以前任意整理をしていても破産・免責が認められる
7 主債務者が破産→保証人への請求は止められない
8 保証人に穴埋めとして返済→破産手続完了後は原則的にOKだが注意が必要
9 特定の債権者を除外することはできない
1 『免責不許可事由』がなければ『免責が許可』される
個人の破産手続で重要なのは『免責』です。
債務が免除されるという制度です。
この点『免責されない事情』が,破産法上規定されています。
『免責不許可事由』と呼びます。
<免責不許可事由>
ア 財産を隠したり,親しい債権者に譲渡してしまった場合(不公平となる)イ 親しい債権者に対して債務の返済をした場合(不公平となる)ウ 債務の原因が浪費やギャンブルである場合エ 債権者をだまして借入をした場合オ 破産手続において,虚偽の説明をしたり,財産を隠したり,説明を行わなかったような場合カ 前回破産で免責を受けた後7年を経過していない時
条文上,以上の『免責不許可事由』がない場合は『免責が許可される』ことになっています。
2 免責不許可事由があっても免責されることが多い|裁量免責
(1)免責不許可を避けて破産以外を選択する
『免責不許可事由』がある場合,破産申立をしても,文字通り,免責不許可となることが考えられます。
そうすると,債務は免責されず,手続が無駄になります。
そこで,任意整理や民事再生という手法を選ぶのが原則です。
(2)免責不許可事由があっても破産免責を狙える
免責不許可事由があっても,敢えて破産を申立てることもあり得ます。
個別的な事案によっては例外的に免責を得られることもあります。
裁判所の裁量により免責する制度があるのです。
『裁量免責』と呼ばれるものです。
(3)裁量免責の典型例
<裁量免責が認められる典型的な事情>
ア 違反の程度が小さいイ 債権者が特にクレームを付けているわけではないウ 申立人が他の手段で解決することが困難であるエ 自主的に返済資金を調達した
(4)裁量免責は認められることが多い
『他に救済される手段がないのに,裁量免責も得られない』ということは少ないです。
裁量免責をもらうためには,正直に事実を隠さずに申告することが大前提です
裁判所や管財人からの質問に対し,誠実に説明する義務を果たすことが重要です。
3 『使い込み・横領行為』があっても,破産手続・免責を狙える
例えば,資金不足に困って,勤務先から資金を流用してしまうケースもあります。
法的には横領罪が成立します。
このような事情がある場合,破産申立をした場合,責任追及を受けるリスクがあります。
実際に破産申立をした案件も存在します。
使い込み流用については,金額が数十万円から1000万円を超えるものまで存在しました。
結果的には,無事手続を終えて免責許可を得ております。
刑事責任に関する手続も取られずに済みました。
ポイントは,債権者に対し,正直に事情を打ち明け,謝罪したことです。
場合によっては,債権者への被害弁償を行うこともあります。
ただし,破産手続の前に,返済が行われると、破産手続で問題視されることがあります。
これ自体が『免責不許可事由』となるリスクもあります。
例えばご本人ではなく,資金に余裕のある親族の方に代わりに弁償してもらうなど,工夫か必要です。
このように,深刻な事情がある場合でも,破産手続は『最終的な救済措置』としての機能が重視されているのです。
4 騙されて多額の借金→裁量免責となることも多い
(1)騙す手口の例
返済が困難になっている方の中には,『騙されている』方も少なくありません。
何らかの騙す手口によって多額の借金を追ってしまうようなケースです
<騙されて借金ができた例>
あ パチンコ必勝法
指導者の指導どおりに操作すれば勝つと言われて,情報料や指導料を払ってしまった
い 振り込め詐欺
う 融資の紹介料詐欺
紹介料を払えば融資を受けられると言われて,紹介料を払ってしまった
(2)理論的には『免責不許可』となる
これらは,『騙されたことが落ち度』という見方もされます。
通常このようなケースでは,被害額が数十万円と高いことが多いです。
そうすると『当時の収入から比べると高すぎる出費』だということになります。
少なくとも,冷静に考えれば必要のなかった出費だと言えましょう。
結局は,『浪費』の一環とされます。
つまり,『免責不許可事由』の1つとされ,理論上は原則として免責不許可となることになります。
うかつな行為だったと言えるのです。
(3)裁量免責が認められることが多い
しかし,『何とか苦境を逃れよう』と思って取った行動であるはずです。
返済するお金を作るために行ったということがほとんどです。
破産手続において,このような事情を正直に打ち明けて説明することにより,裁量免責を得た事例は少なくありません。
本来,このような詐欺に引っ掛かる前に債務整理により合法的・クリーンに解決すると良かったのです。
ただ逆に,このような被害者になってしまった後でも遅くないです。
さらに深みに陥る前にご相談されることをお勧めします。
5 ショッピング枠の現金化は違法|裁量免責となることも多い
(1)ショッピング枠の現金化の手口
クレジットカードの『不正利用』があると,破産における免責許可の審査で問題となります。
不正利用の1つが『ショッピング枠の現金化』というものです。
<ショッピング枠の現金化の形態>
ショッピング枠ので物品購入をした形を取る
実際の商品は価値ゼロ(に近い)のもの
その代わり現金をもらえる(キャッシュバック)
キャッシング枠が上限に達して利用できなくなったタイミングで,この方法を取る例がみられます。
特に,平成22年6月から施行された貸金業法では,キャッシング枠が法律上制限されるようになりました。
それまでキャッシングを利用出来た方でも急に利用不可になる,ということが生じやすくなりました。
(2)ショッピング枠の現金化は違法・不正
クレジットカードの規約で『換金行為』が禁止されています。
もともと,『カードの立替金の支払いが未了』の時点では,商品の所有権はカード会社にあります(所有権留保)。
そこで,これを売却することは『他人から預かっている物を売却した』=『横領行為』となるのです。
とにかく換金行為は違法ですのでしてはいけません。
(3)ショッピング枠の現金化でも裁量免責となることが多い
ただし,既にしてしまった場合でも,救済措置はあります。
正直に打ち明けることにより,最終的には『裁量免責』をもらえるケースが多いです。
6 以前任意整理をしていても破産・免責が認められる
(1)任意整理→破産の場合,『計画的』と見られるリスクがある
以前『任意整理』したが,その後『破産申立をする』というケースは少なくありません。
ただし,どのような経緯で任意整理による返済がダメになったのかという説明は必要になります。
逆に言えば『最初から破産をするべきだったのではないか』,と思われるからです。
裁判所・管財人からこのような質問を受けることもあります。
というのは,仮に任意整理で特定の債権者だけ優先的に返済した形になっている場合,『不公平な返済』であると見られるリスクがあります。
不公平な返済は違法事項(免責不許可事由)とされているのです。
(2)原則的に免責は認められる
しかし,何らかの事情の変化による返済不能はあり得ます。
例えば,突発的な病気や怪我で仕事ができなくなったため,収入が途絶えた,というようなケースです。
不公平な返済とは言えないでしょう。
特殊な事情がない限り,免責不許可となることはありません。
7 主債務者が破産→保証人への請求は止められない
『免責許可』がなされれば,『債務が免除』になります。
この点『保証人』については注意が必要です。
たまに『保証人も同時に債務が免責される』と誤解している方がいらっしゃいます。
しかしこのようなことにはなりません。
まさに主債務者への請求ができなくなった時のための『予備』が『保証人』という制度なのです。
債権者の立場としては,保証人への請求は当然のことです。
法律上も『主債務者の破産』は『保証債務』に影響を及ぼしません。
なお,『保証するつもりではなかった』という事情があれば,保証人の責任が否定されることもあります。
詳しくはこちら|保証契約が否定されるリスクもある|3つの大きな類型
一方,主債務者の破産により『保証債務の時効中断』=時効完成が延びる,という効果もあります。
詳しくはこちら|債務者の破産による保証人への請求権の消滅時効への影響
8 保証人に穴埋めとして返済→破産手続完了後は原則的にOKだが注意が必要
主債務者が破産すると,保証人が支払わざるを得なくなります。
ここで,主債務者が保証人に『穴埋めとしてお金を支払って迷惑をかけないようにする』という発想もあります。
保証人へ返済する,ということは,正確には『求償債務の弁済』と言います。
これも『一部債権者への返済』として『不公平』の典型例になっています。
破産手続・免責完了後であれば,友人への返済(求償債務の履行)は理論上直接違反になるわけではありません。
この点,保証債務も免責になっている状態です。
ところで,『免責』というのは,厳密には,『債権者から請求できないけど債務者が自分から払うのは良い』という状態なのです。
『自然債務』と呼びます。
破産手続が終わった後は,不公平禁止が一部解除されるといったところでしょうか。
ただし,破産手続の『前』とか『途中』で後で一部だけ優先的に返済すると『約束』することは良くないでしょう。
『計画的な破産』とみられて免責不許可など,不利益な扱いがなされる可能性もあります。
9 特定の債権者を除外することはできない
『免責』は『払わなくて良くなる』という非常に強い効果です。
債権者の立場からすると『非常に困る』と言えます。
そこで,債務者サイドからは『特に仲が良い方(取引先)を除外したい』という発想がよくあります。
しかし,手続は厳格で,不公平は許されません。
破産というのは貸主(債権者)から債権を奪い取るという超強力な手続です。
複数の債権者を平等に扱う,ということが大前提とされているのです。
しかし,一部の債権者を除外するなど,優遇することは認められないのです。