借地明渡のすべて|専門弁護士ガイド
1 借地明渡料の相場
借地の明渡のケースでは、争点が明渡料の金額に集約されます。
なお、立退料と言うこともありますが、同じ意味です。
明渡料の金額は、実際の交渉や裁判では、多くの事情を元に算定されます。
簡略化した明渡料算定式
更新拒絶における明渡料の算定では正当事由の充足割合を差し引く
この式に登場する『更地価格』や『借地権価格』だけでも評価によって違いが生じます。
『正当事由』については、地主、借地人の個別的な事情によって判断するのでブレ(見解の相違)が生じやすいです。
また、この簡略化した式以外にも加味する事情もあります。
明渡料算定の調整的な事項
ただし、明渡料算定方法は、この算式に限られるわけではありません。
例えば交渉による明渡の場合は、さらに簡略化されることもあります。
例えば、更地価格の50%を利用する相場が定着していることもあります。
交渉における明渡料相場は、訴訟の場合よりも簡略化される
2 建物の老朽化で借地が終わる?
旧借地法では、『建物の朽廃』によって借地契約が終了とされていました。
『朽廃』というのは、簡単に言うと使用できない程老朽化が進んだという状態です。
詳しくはこちら|旧借地法における建物の朽廃による借地の終了(借地権消滅)
現在の借地借家法では、建物滅失+解約申入によって借地契約が終了することになっています。
一方、借地人が建物を修繕することは禁止されません。
詳しくはこちら|借地条件・増改築の制限(増改築禁止特約)の有効性
結局、建物の老朽化は、極端な場合でない限り、借地契約終了→明渡ということにはなりません。
とは言っても、建物が老朽化している場合は、明渡料の算定で減額される事情となります(正当事由の一環)。
3 借地の期間は何年?
借地契約では『期間』を自由に設定できるわけではありません。
最低限が決まっています。
現行の借地借家法では、初回の契約30年、最初の更新20年、次以降の更新10年、です。
通常は、この規定どおりで契約されています。
詳しくはこちら|借地借家法の借地期間の基本(法定期間は30年→20年→10年)
なお、旧借地法では、多少違う最低限が定められています。
詳しくはこちら|旧借地法における期間に関する規定と基本的解釈
4 建物買取請求権とは?
借地の明渡を複雑にするのが建物買取請求権です。
借地人が強制的に、地主に対して建物を買い取らせるという制度です。
適法な建物買取請求権に対しては、地主が拒否するということはできません。
この場合の買取代金は、建物価格+場所的利益とされます。
場所的利益の金額は、更地の10〜30%程度です。
詳しくはこちら|建物買取請求における代金算定方法・場所的利益の意味と相場
建物買取請求権が使われるのは、期間満了(更新拒絶)の時です。
地代の不払いや建物の無断増改築など、借地人の違反によって借地契約が終了する場合には建物買取請求権は認められません。
詳しくはこちら|借地契約の債務不履行解除における建物買取請求権(否定)
5 借地の明渡請求の流れ(交渉、仮処分、訴訟)
実際に、借地契約が終了する場面で、土地明渡がスムーズに進まないことが多いです。
手続全体の流れは次のようになります。
(1)仮処分
一般論ですが、土地明渡では執行妨害が生じることがあります。
妨害を事前に封じる手段が仮処分です。
占有移転禁止や処分禁止の仮処分と言います。
本来的には、執行妨害を防ぐという機能ですが、副作用として和解成立につながることもあります。
仮処分によって、訴訟や執行の妨害を防げる+和解成立のチャンスにもなる
個別的な事情によって、仮処分を行うか、行なわずに交渉や訴訟に進めるか、どちらかを選択します。
(2)明渡交渉
弁護士が代理人として明渡の交渉を行います。
明渡自体に応じないということもありますが、明渡料の設定が争点となることが多いです。
有利な事情、資料(証拠)を元に客観的な基準によって条件提示を行います。
交渉によって、明渡の合意に達した場合、合意内容を明渡合意書として調印します。
場合によっては公正証書や和解調書として、事後的な強制執行ができるようにしておきます。
実際に強制執行をしなくても任意の明渡につながります。
明渡の交渉が合意に達した場合、内容を債務名義にしておくと良い
(3)明渡請求訴訟
最終的には明渡請求訴訟を提起します。
訴訟では、正当事由の内容を審査し、更新拒絶の有効性→明渡請求が認められるかどうかを判断します。
当然明渡料の算定が実質的な重大争点となります。
明渡料は結局更地の評価額や正当事由の内容の判断と直結します。
更新拒絶における明渡料の算定では正当事由の充足割合を差し引く
明渡交渉よりも、さらに有利な事情の把握+その証拠化が結果に直結します。
実際には、審理の途中で、裁判官が和解勧告を行い、和解が成立する、ということが多いです。
ご相談者へ;訴訟;判決/和解レシオ
この場合でも、説得的な事情のピックアップ+主張+証拠提出が、裁判官が当方に有利な和解勧告をすることにつながるのです。
(4)明渡の強制執行
判決や公正証書によって明渡義務が確定しているのに、借地人が明け渡さない場合は、明渡の強制執行ができます。
家財を搬出するなど、引越し作業のようなことになります。
ただ、実務上は、執行の最初の段階の事前の警告で自主的に退去する、ということが多いです。
明渡の強制執行では家財を搬出し、一旦保管する