建物賃貸借の終了・明渡のトラブル|専門弁護士ガイド
1 借家契約を終わらせるには?(正当事由・明渡)
2 明渡料の相場
3 解約予告期間とは?
4 敷金・保証金とは?
5 原状回復義務は『もと通り』ではない?
6 更新料は払う必要がある?
1 借家契約を終わらせるには?(正当事由・明渡)
借家契約(建物の賃貸借契約)を,オーナーから終わらせるのは更新拒絶です。
契約期間が満了する時に更新しないというものです。
また,契約期間が定まっていないという場合には,解約申入をすることができます。
更新拒絶や解約申入については,無条件でできるわけではありません。
正当事由が必要です。
正当事由の内容はいろいろな事情があります。
<正当事由の判断で特に重要なもの>
ア オーナーと賃借人がその建物を必要とする程度イ 明渡料
実際には,必要とする程度は曖昧なものになりがちです。
明渡料の金額と絡めて見解が対立することが多いです。
明渡料の相場
なお,特殊な事情があれば,もっと違う形で借家契約が終了します。
賃料の滞納や賃借人からの解約です。
詳しくはこちら|賃貸借契約の解除|種類・分類|催告・相当期間・信頼関係破壊理論
2 明渡料の相場
オーナーの都合により賃借人に退去を求める場合,通常は明渡料が必要となります。
明渡料の相場について,一定の基準があります。
(1)裁判所,交渉での明渡料の相場
裁判所が定める場合は,借家権価格をもとにして,正当事由の程度を差し引く,という方式を使うことが比較的多いです。
一方,交渉においては,もっとおおまかな概算を使う傾向があります。
交渉における明渡料相場は,賃料の半年〜1年分というものです。
また,営業用物件では,一定の営業補償が上乗せされます。
(2)個別的事情による調整
以上は,個別的事情を無視した,おおまかな算定方法です。
実際には,転居費用や権利金などの有無,賃料が相場より低い場合の家賃差額などによる調整もあります。
いずれにしても,計算上曖昧な部分があり,考え方によって大きく明渡料が違ってきます。
対立が生じてトラブルになることが多いです。
しっかりと算定における有利な事情をピックアップして,その資料(証拠)を集めることが,有利な解決につながります。
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の金額の基本(考慮する事情・交渉での相場)
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の具体的な算定方法(計算式)と具体例
3 解約予告期間とは?
期間の定めがない借家については解約申入ができます。
また,期間が設定されている場合でも,契約内容によっては解約申入が認められます。
このような場合,解約予告期間が必要となります。
大原則は,オーナーからは6か月,賃借人からは3か月です。
しかし,契約の条項(特約)により,短縮や延長をすることもあります。
この場合,有効となる場合と無効となる場合があります。
借地借家法と民法がちょっと複雑に絡み合っているので注意が必要です。
詳しくはこちら|期間の定めのない建物賃貸借の解約申入・解約予告期間
4 敷金・保証金とは?
通常,建物の賃貸借契約(借家契約)を締結する際,賃借人がオーナーに敷金を支払います。
敷金は,借家契約が終了し,明渡をする時に返還されます。
通常,原状回復工事や賃料の滞納分など,一定の金額が控除されます。
法的には損害を担保するものとされています。
なお,『保証金』が払われることもありますが,敷金と同じ性質であることもあります。
詳しくはこちら|借家;敷金;性格
詳しくはこちら|借家;敷金,保証金;違い
5 原状回復義務は『もと通り』ではない?
(1)原状回復義務の法律的な意味
借家契約が終了し,明渡をする場合,賃借人は原状回復義務があります。
原状回復義務については,その解釈や特約(条項)の有効性について,多くのルールがあって,ちょっと複雑です。
よく誤解されるのですが,原状回復義務とは,借りた状態に戻すという意味ではありません。
通常の経年劣化については,戻す必要はありません。
通常損耗と言います。
(2)原状回復の条項(特約)
しかし,ほとんどの賃貸借契約では原状回復について条項として定められています。
では,これで原状回復の内容がハッキリするのか,というとそうではありません。
内容によっては借主に不利という理由で,無効となります。
この有効/無効の判断については,多くの判例が蓄積されています。
最終的に,最高裁で基準が作られていますが,これもそれほど明確ではありません。
オーナー側の説明の程度や,賃借人の理解の程度によって判断されるからです。
(3)原状回復に関するトラブル
実際に,原状回復の範囲→金額,については,見解が対立することが多いです。
具体的には敷金の返還としてトラブルになるのです。
賃貸借契約の締結の際に,契約書などの読みあわせをしっかりして,それを記録にしておくと良いです。
敷金返還請求のトラブルでは,過去の記録をしっかりと集め,また,有利な判例を整理して提示することが,有利な解決につながります。
詳しくはこちら|原状回復一般論;通常損耗,特約の有効性
詳しくはこちら|具体的な項目の原状回復費用の負担;原則と特約の有効性
詳しくはこちら|敷金返還と原状回復義務;特約の有効性「まとめ」
6 更新料は払う必要がある?
建物の賃貸借では,更新の際,更新料が払われることが多いです。
これについて借主保護に反するという考えから,条項に定めてあっても無効,という考えもありました。
平成23年に,最高裁で,更新料についての判断が下されました。
結論としては,有効というものです。
ただし,個別的な事情によっては無効となる可能性もあります。
オーナー側の説明が不十分とか賃借人がしっかり理解していなかったというような場合です。
実際には今でも,更新料の有効性について対立が生じることはあります。
詳しくはこちら|建物賃貸借の更新料特約の有効性判断基準と不払いによる解除の効力