【債権者破産の申立は『支払不能』の疎明が必要,配当率は低い傾向】
1 債務者の財産を包括的に差し押さえるものが破産申立である
2 破産手続開始決定の要件は『支払不能,債務超過』であり,『疎明』が必要
3 債権者による破産申立→回収可能性はゼロに近いことも多い
4 主債務者が破産しても,保証人への請求は可能
5 相手が破産した場合,欠損処理ができる
1 債務者の財産を包括的に差し押さえるものが破産申立である
破産の手続は申立人によって2つに分けられます。
<破産手続の申立人の分類>
・債務者自身
いわゆる自己破産です。
・債権者(の1人)
債権者破産と言われることもあります。
いずれの方式でも,破産手続において,破産者の財産を,破産管財人が債権者に配当します。
例えば,不動産や債権であれば,売却などの方法で金銭に換えて(換価)から配当します。
このように債務者の全財産の換価→配当という機能があるのです。
債権者の立場からは,債権回収,差押のカテゴリの中の1つ,という位置付けになります。
別項目;差押の対象財産の典型例,債権者破産,差押禁止範囲
2 破産手続開始決定の要件は『支払不能,債務超過』であり,『疎明』が必要
債権者が相手(債務者)の破産を申し立てるというケースもあります。
この場合,『債務者の支払不能や債務超過』を債権者が『疎明』する必要があります。
『疎明』というのは,『証明』よりも低い立証という意味です。
まずは,破産手続開始の要件,を整理します。
(1)破産手続開始の要件の整理
<破産の手続開始の要件>
債務者 | 支払不能 | 債務超過 |
自然人 | ◯ | ☓ |
法人,信託財産 | ◯ | ◯ |
相続財産 | ☓ | ◯ |
※破産法15条1項
<『支払不能』とは>
ア 一般的かつ継続的に弁済することができない状態イ 『ア』の債務は,弁済期にあるものが対象ウ 債務者が,支払能力を欠く ※破産法2条11項
<『一般的かつ継続的に弁済することができない状態』に該当しない例>
特定の債務が弁済不能となった場合
一時的に弁済できない状態になったにすぎない場合
具体的な入金予定,融資を受けられる予定がある場合
<『支払停止』の意味>
あ 『支払停止』の内容
債務者が『資力欠乏のため債務の支払をすることができない』ことを『外部に表示』する行為
明示的,黙示的表示のいずれをも含みます。
↓
い 『支払停止』の効果
『支払不能』が推定される
※破産法15条2項
<『債務超過』とは>
負債が資産を超過している状態
<主体別の『債務超過』の具体的内容>
あ 法人
債務者が,その債務につき,その財産をもって完済することができない状態
※破産法16条1項
い 相続財産
相続財産をもって相続債権者及び受遺者に対する債務を完済することができない状態
※破産法223条
う 信託財産
受託者が,信託財産責任負担債務につき,信託財産に属する財産をもって完済することができない状態
※244条の3
(2)破産手続開始決定の要件の疎明
債権者が破産申立をする場合,相手の経済状態を立証するということになります。
そもそも支払が遅れているのだからおそらく『債務超過』だろう,というだけでは弱いです。
例えば,『財産開示手続で開示に応じなかったこと』,というのは債務超過を示す資料の1つとして使えます。
最終的に,相手方(債務者)が『支払不能・債務超過である』ということの疎明がないものとして却下される可能性があります。
これ単体で足りるということはないでしょうけど,他の事情と合わせて破産開始決定まで持っていくことはできましょう。
3 債権者による破産申立→回収可能性はゼロに近いことも多い
破産手続では,破産管財人が債務者の財産調査を行います。
この場合,財産家事手続と異なり,直接事業所に赴いたり,銀行等へ直接連絡するなど,強力に財産を取り上げてくれます。
直近で財産の不正な動き(財産逃し)があればその取り戻し(否認権の行使)も行います。
なお,破産申立を行った債権者も,これに乗じる形で債権届出をした債権者も平等に扱われます。
正確には,租税が優先されるなど,債権の性質に応じた優劣はあります。
実際には,破産者の財産が乏しく,強力な回収が高い配当率として実現することは少ないです。
配当がゼロか,ゼロに近い配当率になることも多いです。
実際に破産申立をする場合は,回収目的というよりも,けじめを付けるといったポリシー・意地といった趣旨が大きいこともありましょう。
4 主債務者が破産しても,保証人への請求は可能
主債務者が破産しても,保証人への請求は可能です。
主債務者の破産や免責は保証人に影響を及ぼしません。
むしろ,このように,主債務者に事故(支払不能)があった時にも回収するチャンスを残すために保証人が存在するのです。
保証人というのは保険とかスペアという趣旨の制度なのです。
5 相手が破産した場合,欠損処理ができる
<ポイント>
債務者が破産した場合,債権者としては税務上の欠損処理を行えることになる
ただし,保証人に注意が必要です。
(1)法人が破産→法人格消滅→回収不能確定
法人が破産すると,法人格が消滅します。
破産手続により,一定の配当が受けられる場合も配当ゼロということもあります。
いずれにしても,破産手続終了時点で,『これ以上は回収不可能』という状態になります。
税務上,欠損処理できます。
(2)個人が破産+免責→回収不能確定
個人が破産した場合は,当然,個人(権利主体)自体は消滅しません。
ただし,破産手続とセットで免責決定がなされます。
特に悪質な詐欺的行為がある場合は免責不許可となることもあります。
逆に言えば,特殊な事情がない場合=ほぼ全件,免責許可決定がなされているのが実情です。
そして,免責許可決定が確定すれば,回収不可能となります。
税務上の欠損処理ができます。
(3)保証人からの回収可能性が残っている場合は欠損処理できない
主債務者が破産したとしても,保証人への請求が可能,ということもあります。
この場合は,『回収不能確定』ではありません。
税務上の欠損処理もできません。
条文
(定義)
第二条 この法律において「破産手続」とは、次章以下(第十二章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。
2〜10(略)
11 この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態(信託財産の破産にあっては、受託者が、信託財産による支払能力を欠くために、信託財産責任負担債務(信託法 (平成十八年法律第百八号)第二条第九項 に規定する信託財産責任負担債務をいう。以下同じ。)のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態)をいう。
12〜14(略)
(破産手続開始の原因)
第十五条 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。
(法人の破産手続開始の原因)
第十六条 債務者が法人である場合に関する前条第一項の規定の適用については、同項中「支払不能」とあるのは、「支払不能又は債務超過(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいう。)」とする。
2 前項の規定は、存立中の合名会社及び合資会社には、適用しない。
(相続財産の破産手続開始の原因)
第二百二十三条 相続財産に対する第三十条第一項の規定の適用については、同項中「破産手続開始の原因となる事実があると認めるとき」とあるのは、「相続財産をもって相続債権者及び受遺者に対する債務を完済することができないと認めるとき」とする。
(信託財産の破産手続開始の原因)
第二百四十四条の三 信託財産に対する第十五条第一項の規定の適用については、同項中「支払不能」とあるのは、「支払不能又は債務超過(受託者が、信託財産責任負担債務につき、信託財産に属する財産をもって完済することができない状態をいう。)」とする。