【非上場株式の評価は画一的算定方法がない|評価方法が複数ある】

1 非公開会社の株式の評価が争われるのは,遺産分割・買取請求・税金の場面
2 株式買取請求は反対株主単元未満株式について認める制度がある
3 株式の評価方式は,収益方式・純資産方式・比準方式・国税庁方式の4つがある
4 非上場株式等評価ガイドラインでは固定合意における目安がまとめられている
5 相続税での株価評価は,税額計算以外で使われるとは限らない|国税庁方式
6 相続税の株価評価は『類似業種比準方式』と『純資産方式』を使う

1 非公開会社の株式の評価が争われるのは,遺産分割・買取請求・税金の場面

会社の株式の評価額が問題となることがあります。
上場企業・店頭公開企業については,取引市場があり,実際の取引金額があるので,これが評価額として使われます。
大きな見解の違いは生じません。

しかし,非公開会社(非上場株式)の場合,評価の方法・見解によって金額が大きく異なります。
そこで,『株式の評価』自体が大きな争点となることがよくあります。

株式の評価額が問題となる主な場面>

あ 遺産分割
い 買取請求

会社法などで,一定の場合に強制的な買取を認める制度があります(後記『2』)。

う 固定合意

遺留分算定における評価額を固定する,という制度です。
これは,事業承継の準備として利用するものです。
詳しくはこちら|固定合意,除外合意により事業承継と遺留分の抵触を予防;中小企業経営承継円滑化法

え 税務

相続税や贈与税の申告では評価額を前提として税額を算定します。

2 株式買取請求は反対株主単元未満株式について認める制度がある

株式の譲渡については,一般的には売買などの『取引』です。
当事者双方が合意して初めて『売買』が成立します。
しかし,法律上,一定の場合に,例外的に,強制的な買取請求が認められています。

<買取請求の種類>

あ 反対株主の株式買取請求権

ア 株式譲渡制限を定める定款変更(会社法116条1項1号)イ 種類株式について,譲渡制限の設定や全部取得条項付とする場合(会社法116条1項2号)ウ 種類株主総会の決議を要しないと定められた種類株主に損害を及ぼす場合(会社法116条1項3号)エ 事業譲渡等(営業譲渡)(会社法469条1項)オ 吸収合併(会社法785条)カ 吸収分割(会社法797条)キ 新設合併・新設分割・株式移転(会社法806条)ク 株式交換(会社法797条) ※一定の場合に,裁判所が『価格決定』を行う制度があります(会社法172条1項,470条2項)。

い 単元未満株式買取請求権

3 株式の評価方式は,収益方式・純資産方式・比準方式・国税庁方式の4つがある

非公開会社に株式の評価方式は,大きな分類として4つがあります。

<株式評価の方式のまとめ>

あ 収益方式

ア 収益還元方式イ DCF法ウ 配当還元方式

い 純資産方式

ア 簿価純資産方式イ 時価純資産方式

う 比準方式

ア 類似会社比準方式イ 類似業種比準方式ウ 取引事例方式

え 国税庁方式

このように,評価方式が数多くあります。
そして,具体的な事例においては,いくつかの方式を組み合わせることが多いです。
ここで,この組み合わせる方式の選択,割合については,画一的な基準はありません。
見解による違いが大きく,対立・紛争となることが多い,というわけです。
ただし,公的な目安もありますので,次に説明します。

4 非上場株式等評価ガイドラインでは固定合意における目安がまとめられている

『固定合意』制度では,株式の評価がとても重要となります。
そこで,公的なガイドラインが作られています。

<経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン>

あ 作成経緯・主体

ア 検討・作成 中小企業庁長官の私的研究会『非上場株式の評価の在り方に関する委員会』
その下に設置された『非上場株式の評価の在り方に関する委員会専門委員会』
イ 策定した主体 中小企業庁

い 法的な位置付け

法的拘束力はありません。
実務上はこのガイドラインによる評価が重視されています。

う ガイドラインの概要

国税庁方式が流用される傾向が強いです。

え 参考情報

非上場株式の納税猶予の適用ポイント 上西 左大信著 ぎょうせい p108,110

5 相続税での株価評価は,税額計算以外で使われるとは限らない|国税庁方式

相続税や贈与税の税額算定における非公開会社の株式評価については,細かいルールが通達で定められています。
当然,相続税や贈与税の税額を算定する時に使われるものです。
その一方,取引における売買金額の目安として流用することもあります。
ただし,流用はあくまでも便宜的なものです。
税額算定における評価額が,取引における対価として妥当とは限りません。
実際に,相続税の株価評価とは大きくかけ離れた金額で売買がなされることが多いです。

6 相続税の株価評価は『類似業種比準方式』と『純資産方式』を使う

(1)取得株主の立場により評価方式が異なる

相続税・贈与税の算定においては,非公開会社の株式について,細かいルールがあります。
なお,税務上は,非公開会社の株式のことを『取引相場のない株式』と言います。
まずは,取得した株主が『経営支配権を持っている同族株主』に該当するかどうかによって分類します。

<取得株主の立場による評価方法の分類>

取得者が『経営支配権を持っている同族株主』かどうか 該当する 該当しない
評価方式 『原則的評価方式』(後記『(3)』) 特例的な評価方式(※1)

※1 特例的な評価方式
これは,『配当還元方式』のことです。
”配当金額2を一定の利率(10%)で還元して元本である株式の価額を評価(算定)する方法です。

(2)会社の状態によって評価方式が決まることもある

一方,会社の状態によって,別の扱いがなされます。

<特定の会社の株式の評価>

種類 株式保有特定会社 土地保有特定会社
対象の会社 資産に占める,株式や出資,の割合が一定以上の 資産に占める,土地の割合が一定以上
評価方式 (規模に関わらず)純資産価額方式 (規模に関わらず)純資産価額方式

 

(3)相続税の株価評価における原則的評価方式

原則的評価方式は,2つの方式を一定のルールで組み合わせる,というものです。

<相続税算定における株価算定で使う『方式』>

あ 類似業種比準価額方式

一定のカテゴリに分けられた業種ごとに定められた金額を採用するものです。

い 純資産価額方式

帳簿上の純資産の金額を採用するものです。

<2つの方式の組み合わせの傾向>

大会社 類似業種比準価額方式(上記方式『あ』)の比重が大きい
中会社 『大会社』と『小会社』の中間的
小会社 純資産価額方式(上記方式『い』)の比重が大きい

会社の『規模』は,次のような要素によって分類されます。

<『大・中・小』会社の分類の要素>

ア 従業員数イ 純資産価額(帳簿価格)ウ 業種

以上の算定のルールは大まかなものです。
実際に相続税・贈与税を算定する場合は,多くの細かいルール(特例等)が適用されます。
また,『取引(売買)』や『買取請求』など,税額算定以外の場面では,この算定方式が適用されるわけではありません。
個別的な案件については,専門家にご相談することをお勧めします。
もちろん,みずほ中央法律事務所では,非公開会社の株価評価についても扱っております。

<参考情報>

週刊ダイヤモンド14年9月13日号p79〜

弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

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