【国際結婚でも『一方が日本人』だと,一夫多妻(重婚)はできない】

1 国際結婚でも『一方が日本人』だと,一夫多妻(重婚)はできない

結婚(婚姻)については、いくつかの要件・ルールがあります。この点、日本人と外国人との結婚(国際結婚)の場合には、どの国の法律を適用するのかという問題が出てきます。
本記事では、形式的・手続的なルール(婚姻の届出など)は除外して、実質的な要件だけについて説明します。

2 婚姻の実質的要件の規定の例(前提)

婚姻の実質的要件にはいくつかのものがありますが、その中に重婚の禁止があります。つまり、日本では一夫多妻や一妻多夫は禁止されているのです。

婚姻の実質的要件の規定の例(前提)

あ 婚姻年齢
い 再婚禁止期間

詳しくはこちら|女性は6か月の『再婚禁止期間』がある

う 近親婚の禁止
え 重婚の禁止(民法732条)

国によっては、重婚(一夫多妻)が認められていることもある

3 重婚が生じる(婚姻届が受理される)状況の例

ところで、一般論として、重婚の婚姻届は役所で受理されないので、重婚となってしまうことはないのが通常です。特殊な事情がある時だけ重婚が生じてしまうのです。いくつかのパターンがありますが、たとえば離婚届を偽造して役所に提出し、戸籍上独身にしたケースや、夫婦がサインした離婚届で戸籍上独身になった(ので別の者との婚姻届を出した)が、後から、一方の判断能力がないと判明して家裁が離婚を取り消したので結果的に重婚になった、というようなケースがあります。また婚姻届を出した2人のうち一方がすでに外国で婚姻していたというケースも、日本の役所でチェックしきれないで受理されてしまうことがあります。

重婚が生じる(婚姻届が受理される)状況の例

あ 前婚の解消の偽装

離婚届、死亡届を偽造して提出(届出)したケース
※水戸地判昭和33年3月29日(虚偽の離婚届・重婚罪成立)
※名古屋高判昭和36年11月8日(虚偽の離婚届・重婚罪成立)

い 役所のミス

戸籍事務担当者の不注意で二重に婚姻届を受理したケース

う 前婚の解消の解消

前婚についての離婚が後に無効とされ、あるいは取り消されたケース

え 失踪宣告の取消

前婚の配偶者についての失踪宣告が後に取り消されたケース

お 戸籍法の死亡認定後の生還

認定死亡(戸籍法89条)の前配偶者が生還したケース
※亀山継夫・河村博稿/大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第9巻 第3版』青林書院2013年p115

か 国際結婚

一方配偶者が外国で婚姻をした後、日本で婚姻をしたケース

4 一夫多妻(重婚)が問題となる事例の検討

多くの国が日本と同じように重婚(一夫多妻)を禁止していますが、禁止していない国・エリアもあります。これについて、解釈の問題が出てくるのが、重婚禁止の国の人と、重婚が認められている国の人との婚姻です。
理解しやすいように具体例を挙げます。UAE国籍の男性で、既に妻がいる者と日本人女性の婚姻を想定します。
男性にとっては重婚ですが、その国では適法です。女性にとっては、一見初婚と思えますが、この「婚姻(結婚)」自体は重婚ともいえます。日本では違法ということもできます。
このようにそれぞれの者についてバラバラに考えると、一方が適法、他方は違法となります。
一方、少なくとも日本の民法に違反する(違法)以上は、「婚姻」単位で違法という考え方もあります。つまりUAEでも違法、という解釈です。
では、どちらの解釈が採用されるのか、ということについては以下説明します。

一夫多妻(重婚)が問題となる事例の検討

あ 事案内容

男性Bの国籍=A国
A国は一夫多妻が認められている(例=アラブ首長国連邦(UAE))
男性Bは既に妻(第1夫人)がいる
女性Cの国籍=日本

い 分配適用(仮定)

男性B、女性Cそれぞれについて、適法性を考える
・男性にとっては、第2夫人との婚姻→A国では適法
・女性にとっては、唯一の夫となる男性との婚姻→日本では適法
分配適用だと仮定すると、それぞれにとって適法ということになる

う 累積的適用(判例)

男女それぞれの国で重婚の禁止に抵触しないことが必要である
この事案は重婚であるため日本法に違反する

5 双方的要件についての累積的適用

国際的な婚姻(国際結婚・渉外婚姻)について、どの国の法律を適用するか、というルールが、法の適用に関する通則法に規定されています。
婚姻の成立に関するルールは、各当事者本国法を適用する、ということになっています。重婚のルールは、婚姻が成立するかどうか、という問題なので、これに該当します。そうすると、バラバラに考えるということなので、一方の国では適法、他方の国では違法、ということになるはずです(前述)。しかし1つの「婚姻」が適法であり、かつ、違法である、というのは不合理です。そこで両方の国で適法である必要があるという考えが採用されます。専門的にいうと、双方的要件については累積的に適用するということになります。重婚ではないという婚姻の要件は双方的要件です。そこで、一方の者の本国法では違法であれば、その法律を適用するという解釈になります。

双方的要件についての累積的適用

あ 法適用通則法の条文(前提)

婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。
※法の適用に関する通則法24条1項

い 一方の本国法が実質的要件を欠く場合の効果

婚姻の実質的成立要件を欠いた場合の効果は、その要件を欠くとする当事者の本国法による。
※木棚照一著『逐条解説 国際家族法 重要判例と学説の動向』日本加除出版2017年p74

6 両方の本国法に違反する場合の効果(準拠法選択)

以上で想定した事案から離れて、両方の本国法で重婚は違法であった場合にも解釈の問題が出てきます。同じ「違法」でも、重婚は「無効」というルールと「取消ができる」というルール(日本法)があるのです。
2つの本国法で、このような「効果」が違う場合には厳しい方のルール(本国法)を適用することになります。「無効」と「取消」であれば「無効」の方が厳しいのでこちらが適用されます。

両方の本国法に違反する場合の効果(準拠法選択)

両当事者の本国法がいずれもその要件を欠くとした場合に、婚姻取消事由に当たるか、無効事由に当たるか、前者としたら、取消権の行使期間や取消しの遡及効があるかどうかなどはそれぞれの当事者の本国法によるけれども、その効果についてはより厳格な効果を定める国の法による。
※木棚照一著『逐条解説 国際家族法 重要判例と学説の動向』日本加除出版2017年p74

7 重婚に関して厳格な方の法律を適用した裁判例

実際に、2つの国の法律のうち、厳格な方の法律を採用(適用)した裁判例があります。
まず、国際結婚が重婚であったケースについて、日本の民法の「取消」ではなく、中国の民法の「無効」を採用した裁判例があります。
次に、韓国の民法の「配偶者の死後でも重婚の取消を認める」という解釈と日本の民法の「死後の婚姻取消はできない」という2つを比べて、より厳格な方は韓国の民法であるとして、これを適用した裁判例もあります。韓国の民法の解釈をした上でそれを適用したのですが、この解釈をするために、韓国の過去の裁判例(の解釈)を元にしているところが特徴的です。

重婚に関して厳格な方の法律を適用した裁判例

あ 取消と無効→無効を採用

・・・控訴人Y1と控訴人Y2の婚姻は,重婚ということになる。
ところで,既に他に配偶者がいる者がした婚姻が有効なのか無効なのか,誰がその婚姻の無効を主張し得るかといった問題は,婚姻からどのような効果が生ずるかという婚姻の効力の問題でなく,婚姻の成立に関する問題であるから,通則法24条(通則法附則2条参照)によって準拠法を判断すべきである。
したがって,各当事者の本国法が適用されるところ,控訴人Y1の本国法である日本法では,重婚は婚姻取消し事由になる(民法744条)のに対し,控訴人Y2の本国法である中国法では,当然無効になる(中華人民共和国婚姻法10条)。
このような場合,より厳格な効果を認める方の法律を適用すべきであるから,本件婚姻は当然無効になるというべきである。
※東京高決平成19年4月25日

い 死後の取消を認める韓国法の採用

・・・大韓民国民法上は、配偶者双方の死亡によつてもその婚姻により生じた親族関係のうち血族の配偶者の血族相互間の姻戚関係及び同法第七七三条、七七四条の親族関係は存続するのであるから、前述の大韓民国における姻戚関係等重視の解釈態度を考慮すると、未だ後婚の違法性が完全に治癒されたものとみることはできず、かつ本訴が後婚配偶者自身からの請求であるため婚姻の安定性の要請もさほど強調する必要がないことに照らすと、後婚配偶者たる原告は前婚当事者双方が死亡した現在に於いても尚後婚の取消を求め得るものと解するのが相当である。
しかして、本件の如く当事者双方の本国法が婚姻の成立要件欠缺について異なる効果を定めている場合には、より厳格な効果を定める法律によるべきものであるから、結局本件婚姻は大韓民国民法により取消し得るものである。
※新潟地判昭和62年9月2日

8 国際結婚の重婚と公序良俗違反(違法)

以上のような解釈論とは別の角度から、重婚が認められている国の者(外国法)と日本人の重婚を否定する解釈があります。
法適用通則法42条は、外国法を適用した結果、日本では公序良俗違反となる法的は適用しない、と規定しています。結果的に日本で重婚(一夫多妻)を肯定することは公序良俗に違反する、という考えです。この考え方により、一夫多妻制の国の国民と日本人の婚姻は重婚として禁止されることになります。
さらに、一夫多妻制の国の国民同士の重婚も日本では禁止される(違法となる)かというと、そこまでは言い切れないと思われます。

国際結婚の重婚と公序良俗違反(違法)

あ 法適用通則法(前提)

外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない
※法の適用に関する通則法42条

い 一夫多妻の否定(一般論)

一夫多妻婚が認められるイスラム国を本国とする者わが国で一夫多妻婚を行うことは、法適用通則法42条に違反するので、認められない。
※木棚照一著『逐条解説 国際家族法 重要判例と学説の動向』日本加除出版2017年p70

う 重婚が適法である国の者同士の重婚の否定(傾向)

法律上の重婚が許されないのは日本法においてのことである。
一夫多妻制を許容する文化圏では、重婚は禁止されないことは言うまでもない。
では、甲国その国民であるA男に同国民であるB女との重婚が許されるとして、A男B女が日本で生活している場合はどうだろうか。
婚姻の準拠法は各当事者の本国法であるので(通則24条1項)、形式上は可能であるように思われる。
しかし、その適用の結果が公序に反するということになれば、当該外国法は適用されない(通則42条)。
確かに、A男B女の婚姻は日本では認められにくいが、甲国で結婚したA男が二人の妻と生活すること自体を否定するのは、より難しいであろう
(たとえば、B女からA男への婚姻費用分担請求などは重婚であっても認めざるを得ないように思われる)。
※大村敦志著『民法読解 親族編』有斐閣2015年p27,28

9 重婚として禁止される具体例

結局、重婚が禁止される国の国籍である者は、国内・国外のいずれでも重婚はできない、ということになります。

重婚として禁止される具体例

あ 日本人妻+外国人妻

日本人男性が、日本人妻がいるのに、別のA国籍の女性と婚姻する
重婚として禁止される

い 複数の国の外国人妻

日本人男性が、A国籍の妻がいるのに、別のB国籍の女性と結婚する
重婚として禁止される

10 重婚の無効・取消による戸籍の訂正

前述のように、通常は重婚となる婚姻届は受理されないのですが、特殊な事情があると受理されてしまいます。受理されると戸籍に「婚姻」が記載されてしまいます。
その後、重婚であることが発覚して、それを役所に説明しても、役所レベルで戸籍を訂正(抹消)することはできません。
家庭裁判所の手続(婚姻の取消または婚姻無効の調停や訴訟)で、婚姻の効力を否定してもらう必要があります。家庭裁判所が、婚姻の無効や取消を認めた審判や判決を獲得できれば、ようやく、戸籍上の「婚姻」も訂正されることになります。正確には、「婚姻」の記載が削除されるわけではなく「婚姻取消(または無効)となった」ことが記載されるのです。

11 刑法の重婚罪の外国人への適用

日本の刑法には、「重婚罪」という罪があります。一種のセクシャルなカテゴリとして、強制性交罪と同じ「章」に規定されています。
では、国際結婚で、重婚が適法である国(エリア)の者についても日本の重婚罪が成立するのでしょうか。これについて、判例はみあたりませんが、日本人との婚姻、または、日本の方式の婚姻であれば、重婚罪が成立するという見解があります。

刑法の重婚罪の外国人への適用

あ 条文(前提)

ア 重婚罪 第百八十四条 配偶者のある者重ねて婚姻をしたときは、二年以下の懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする。
※刑法184条
イ 国民の国外犯 第三条 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
・・・
五 第百七十六条から第百八十一条まで(強制わいせつ、強制性交等、準強制わいせつ及び準強制性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等、未遂罪、強制わいせつ等致死傷)及び第百八十四条(重婚)の罪
※刑法3条5号
(184条は含まれていない)

い 外国人への適用

(重婚罪が適用されるためには)
「配偶者ある者」が外国人である場合は、我が国の婚姻制度を維持するという刑法184条の趣旨からいって、後婚が日本人とあるいは日本の方式に従って行われることを要しよう。
ただし、外国人の場合には、後婚が日本国内で行われることを要する(3条5号参照)。
外国人の本国法が重婚を許すものであってもよい。
※亀山継夫・河村博稿/大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第9巻 第3版』青林書院2013年p115

12 内縁への重婚罪の適用(否定)

近年では、法律婚(婚姻届を提出すること)を避ける、つまり事実婚や内縁という方式を選ぶ、という方も増えています。
詳しくはこちら|婚外子として子供を持つ家族(事実婚・内縁など)の普及と社会の変化
内縁とは、婚姻届を出さないけれど、現実には夫婦同然という状態のことです。内縁については、基本的に法律的な結婚(法律婚)と同様の扱いがなされています。
詳しくはこちら|内縁関係に適用される制度と適用されない制度(法律婚の優遇)
内縁は戸籍には記録されない(「婚姻」が記載されない)ので、それが重婚であったとしても家庭裁判所が取り消すということはありません。
では、重婚罪の方はどうかというと、一般的には成立しないと考えられています。
もともと内縁は婚姻届という明確なアクションがなく成立するので、(単なる)不倫との境界があいまいです。重複した内縁を犯罪とした場合、不倫が犯罪となってしまうことにつながります。刑法、つまり犯罪の規定については、特に強い人権制約なので、拡大解釈をしない、など、厳格な解釈がとられるのです。

内縁への重婚罪の適用(否定)

あ 大塚氏見解

「婚姻」の意味については、法律婚に限るとするのが通説であるが事実婚で足りるとする見解もある。
事実婚説は、法律婚に限るときは、本罪は、戸籍吏と通謀し、またはその錯誤を利用して婚姻届を受理させた場合とか、前婚の離婚届を偽造して届け出た場合などのような、きわめて稀有の場合にしか考えられないから、実際上の一夫一婦制度の侵害を広く処罰すべきだと主張するのであるが、刑法上の婚姻という用語例は、法律婚を意味するのが一般である上に(二二五条参照)、前婚を法律婚の意味に解しながら、後婚のみを事実婚でよいとするのは解釈論的に一貫性を欠く憾みがある。
また、事実婚で足りるとするときは、重婚罪の成否がきわめて不明瞭となるであろう。
通説の立場が妥当である。
※大塚仁著『刑法概説 各論 第3版増補版』有斐閣2005年p526

い 大コンメンタール

事実婚で足りるとする説もあるが、本条の趣旨に照らすと、処罰の範囲が広きに失すると思われる上、本条と225条で婚姻と結婚を使い分けている点からも法律婚を指すと解すべきである。
※亀山継夫・河村博稿/大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第9巻 第3版』青林書院2013年p114、115
※団藤重光著『刑法概要 各論 改訂版(増補)』創文社1988年p330(同趣旨)
※名古屋高判昭和36年11月8日参照

13 内縁でも不貞の慰謝料は発生する

一方で、内縁関係にある者ののどちらかが、他の異性と性的関係を持つことで不貞同様の慰謝料が生じます。
内縁の夫婦間、内縁の一方と第三者(内縁外の侵害者)のそれぞれについて、慰謝料の相場があります。
犯罪は成立しなくても、法的責任が生じない、というわけではないのです。
別項目|離婚の慰謝料相場は200〜500万円、事情によってはもっと高額化
詳しくはこちら|不貞相手の慰謝料|理論|責任制限説|破綻後・既婚と知らない→責任なし
詳しくはこちら|不貞慰謝料の金額に影響する事情(算定要素)

本記事では、国際結婚における重婚の問題を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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