【医療法人|運営の構造・課税|まとめ|平成19年医療法改正対応】
1 医療法人の運営の構造|構成員は社員・理事など
2 社員は社員総会の議決権を持つ|『持分あり』と『持分なし』がある
3 社員の権利義務は出資持分の『あり/なし』で違う|現在は『なし』のみ
4 現在でも『基金制度』により『払戻』に近い設計が可能|基金拠出型医療法人
5 社員総会はオールマイティーな意思決定機関
6 役員の内容|理事・理事長・監事
7 理事(役員)の追放|解任・任期満了・解除
8 医療法人の税金|『払戻し』と『相続』による高額課税に注意
1 医療法人の運営の構造|構成員は社員・理事など
(1)医療法人は株式会社と同様にいくつかの構成員と機関により構成される
医療法人は,『社員』や『理事』などの役員によって構成されています。
株式会社と似ている部分も多いですが,医療法人特有の制度もあり,誤解が多いところです。
なお,医療法人の種類として,社団と財団があります。
実際にはほぼすべての医療法人が社団です。
そこで基本的に『医療法人社団』を前提に説明します。
(2)医療法人の構成員・機関のまとめ
医療法人の構成員・機関のうち基本的なものをまとめておきます。
実際には通常,『重複』する人物が多く存在します。
そのために分かりにくい・誤解される,ということが多いです。
<医療法人の構成員や機関のまとめ>
構成員・機関 | 権限 | 法律上の人数等 | 株式会社との対照 | 登記 | 定款 | 社員名簿 |
社員 | 社員総会に参加等 | なし | 『株主』相当 | ☓ | ☓ | ◯ |
社員総会 | 根本的な意思決定 | 年1回以上開催 | 『株主総会』相当 | ― | ― | ― |
理事 | 業務執行権限 | 3名以上 | 『取締役』相当 | ☓ | ☓ | ☓ |
理事長 | 代表権・業務の統括(総理) | 1名 | 『代表取締役』相当 | ◯ | ☓ | ☓ |
理事会 | 意思決定の機関 | 設置義務なし | 『取締役会』相当 | ― | ― | ― |
監事 | 業務・財産の監査 | 1名以上 | 『監査役』 | ☓ | ☓ | ☓ |
※医療法46条の2第1項
※医療法43条1項,組合等登記令2条2項
※『定款』について
設立当初の役員等,一定の構成員(機関)が定款に記載される場合もあります。
2 社員は社員総会の議決権を持つ|『持分あり』と『持分なし』がある
(1)『社員』は出資者である|従業員とは違う
医療法人の誕生では『出資』が重要です。
原則として『出資者』が『社員』となります(例外もあります)。
そして,『社員』が社員総会で,医療法人の重要な事項について決める,というのが基本構造です。
ここでの『社員』は法律上の用語です。
一般用語では『従業員』という意味で使われていますが,法律上の『社員』は『従業員』という意味ではありません。
(2)『社員』は『社員名簿』を見れば分かる
『社員』としての資格については定款で定めます。
また,『社員』については『社員名簿』として記録します(医療法48条の3第1項)。
一方『社員』は『登記事項』ではありません。
なお,定款では『社員としての資格』について規定します(医療法44条2項7号)。
『現在の社員』を定款に規定するわけではありません。
<『社員が誰か』を確認する方法>
社員名簿 | ◯ |
登記 | ☓ |
定款 | ☓ |
(3)『社員の出資持分』は『あり/なし』がある|平成19年以降の設立は『なし』のみ
『社員の出資持分』については,医療法の改正により,平成19年から大きくルールが変わっています。
改正前は『持分あり』が可能であり,実際にほとんどの医療法人が『持分あり』でした。
改正後に設立する医療法人は『持分なし』だけ,とされました。
なお,改正前から『持分あり』の医療法人は『持分なし』に変更することが可能です。
逆に,変更せずに『持分あり』のままにしておく,ということも認められています。
これを『経過措置型医療法人』と呼んでいます。
社員のルールについては,『出資持分あり/なし』で分類して次に説明します。
3 社員の権利義務は出資持分の『あり/なし』で違う|現在は『なし』のみ
(1)出資持分とは
<出資持分の意味>
医療法人に出資した者(社員)が,当該医療法人の資産に対し,出資額に応じて有する財産権
現実的には,脱退時の払戻請求や解散時の分配金として具体化します。
後述します。
(2)あり/なし の違い
<出資持分の『あり/なし』の違い>
― | 持分あり | 持分なし |
出資額に応じた議決権 | ☓(※1) | ☓ |
平成19年以降の設立 | ☓ | ◯ |
脱退時の払戻請求 | ◯ | ☓ |
解散時の分配金請求 | ◯ | ☓ |
利益配当 | ☓ | ☓ |
※1 社員総会の議決権について(後述)
(3)社員の持つ議決権は『1人』1議決権|『出資額』は関係ない
社員総会では重要事項を決めます。
社員総会での『議決権』は『1人』が1つの議決権,とされています(医療法48条の4第1項)。
『出資持分のあり/なし』は関係ありません。
つまり,『出資額』が多いか少ないか,ということも当然関係ない,ということです。
(4)『出資持分あり』の場合,脱退時の払戻請求・解散時の分配金請求ができる
『出資持分あり』の医療法人の場合,通常,定款において,『払戻』が規定されています。
これを,出資持分の『払戻請求権』(返還請求権)と呼んでいます。
医療法人が解散した場合の出資金の返還のことを『分配』と呼びます。
<出資持分の払戻請求権(返還請求権)>
出資持分を有する社員が,定款の定めに基づいて,医療法人に対して,自己の出資持分に相当する財産の払戻を求める権利
<一般的な定款による払戻規定>
社員資格を喪失した者は,その出資額に応じて払戻しを請求することができる
※旧厚生省の社団医療法人モデル定款第9条
『社員資格の喪失』とは,社員から脱退することです。
『社団』から『脱する』ことなので『退社』と言うこともあります。
『従業員の退職』という意味とはまったく異なりますので注意が必要です。
また,『払戻』については課税対象となります(後記『8』)。
(5)出資の払戻金は定款規定がない場合,『出資割合』で算定される
出資持分のある医療法人(経過措置型医療法人)では,社員の脱退時に『払戻金』の計算が必要となります。
この計算方法は,定款の規定によります。
定款規定がない場合の計算方法については,2つの見解がありました。
最高裁判例により,『出資割合説』に統一されています。
<出資の払戻金計算方法の見解>
あ 出資割合説
最高裁平成22年4月8日
東京高裁平成11年11月17日
東京高裁平成7年6月14日
い 出資額説
東京高裁平成20年7月31日
後に最高裁(上記『あ』)により否定されました。
ただし,定款で『払戻限度額を出資額と規定する』は有効です。
これを『出資額限度法人』と呼びます。
(6)医療法改正により平成19年以降は『出資持分なし』に統一された
平成19年以降に設立する医療法人は『出資持分なし』だけ,とされています。
具体的には,『残余財産の帰属先』が法律上限定されたのです。
<残余財産の帰属先|平成19年以降の設立>
あ 国(国庫)
定款に規定がない場合はこれ(国庫)となります。
い 地方自治体
う 公的医療機関の開設者
日本赤十字社などです。
え 他の医療法人
お 医師会
結局,『社員(出資者)』という設定は認められない,ということです。
なお,新たに作られた『基金制度』を活用すると,実質的に『払戻可能』という仕組みを作ることもできます(後記『4』)。
(7)社員への配当はできない
医療法人は『営利』目的が否定されています。
そのため,『利益の配当』が禁じられています(医療法54条)。
4 現在でも『基金制度』により『払戻』に近い設計が可能|基金拠出型医療法人
医療法人への,『通常の出資』ではなく,『基金への拠出』という制度が創設されました。
<『基金制度』の概要>
ア 『拠出者』への返還(返金)ができるイ 拠出者への返還額は『拠出額』が限度となるウ 返還には,定時社員総会の決議が必要であるエ 返還額は,貸借対照表上の純資産額が基金の総額等を超過した額を限度とするオ 返還の期限は,『当該会計年度の次の会計年度に関する定時社員総会の前日』カ 返還した場合は,代替基金を計上するキ 基金には利息を付けない
<『基金制度』導入の手続>
定款において次の事項を定める
ア 基金の拠出者の権利に関する規定イ 基金の返還の手続
『基金制度』を導入した医療法人を『基金拠出型医療法人』と呼びます。
5 社員総会はオールマイティーな意思決定機関
(1)社員総会には『定時社員総会』と『臨時社員総会』がある
社員総会は,『定時』と『臨時』の2種類があります。
基本的に,社員総会はすべての事項について決議することとされています。
実際には,一定の範囲で社員総会から理事や理事会に権限を委任する設定が多いです。
<社員総会の種類>
あ 定時社員総会
法律上は最低限,『年1回』とされています(医療法48条の3第2項)。
実務上は,ほとんどの医療法人で,定款上『年2回』の設定となっています。
・予算決定のための社員総会
・決算決定のための社員総会
い 臨時社員総会
理事長が招集できる
※医療法48条の3第3項
(2)社員総会の決議事項・定足数・決議要件
社員総会の一定のルールは法律上規定されています。
また,定款で定めることができます。
実際には,法律上の規定に近い内容を定款で定めている事例が多いです。
<社員総会の決議事項,定足数,決議要件>
あ 社員総会の決議事項
医療法人の業務全般
《例》
・理事・監事の選任
・社員の入社・除名
定款での規定が優先される
理事や理事会に委任する定款規定もよくある
《定款規定の典型例》
『理事が通常業務を処理する』
※医療法48条の3第7項
い 社員総会の定足数
総社員の過半数の出席(または定款規定)
人数として過半数が出席しないと,決議自体ができない
※医療法48条の3第9項
う 社員総会の決議要件
出席した社員の過半数,可否同数の時は議長が決する
ただし,議長が『社員』の場合→議長は除外される
定款規定がある場合は定款が優先される
議長は社員総会で選任する
※医療法48条の3第4項,10項,11項
6 役員の内容|理事・理事長・監事
(1)理事は業務執行を行う
『理事』は,株式会社における『取締役』に相当します。
『出資者=社員』が,業務を執行する『理事』を選任するというのが基本構造です。
意思決定については『理事会』が行う,という定款の事例が多いです。
これは後述します。
(2)理事長は代表権を持つ
『理事長』は,株式会社における『代表取締役』に相当します。
医療法人を『代表』し,『業務を総理』する権限があります(医療法46条の4第1項)。
理事長は,理事のうち1名を選任します。
また,医師(歯科医師)であることが条件です。
なお,都道府県の認可があれば例外も認められます(医療法46条の3第1項)。
(3)理事会
<理事会|まとめ>
あ 法的な性格
ア 理事により構成される合議体イ 医療法上の機関ではないウ 定款において設置されている実例が多い 旧厚生省・厚生労働省のモデル定款では『理事会の設置』が記載されています。
い 決議事項
法律上の規定なし
通常,定款で通常業務を対象として規定されています。
う 定足数
法律上の規定なし
え 決議要件
法律上の規定なし
法律上,意思決定は『理事の過半数』とされている
※医療法46条の4第3項
そこで定款で『決議要件』を『理事の過半数』としている実例が多い
(4)監事
『監事』は,株式会社における『監査役』に相当します。
<監事の権限・義務>
ア 業務監査イ 財産状況の監査ウ 監査報告書作成 ※医療法46条の4第7項
(5)登記と定款記載の有無
役員のうち,登記されるのは『理事長』のみです(前記『1』)。
役員については,『社員名簿』のような,『法律上義務付けられている一元的な記録』はありません。
<役員を確認する方法>
あ 『理事長』を確認する方法
登記を見れば分かる
い 『理事』『監事』
社員総会議事録のうち,『役員を選任』しているものを確認する
7 理事(役員)の追放|解任・任期満了・解除
(1)理事が追放(解消)されるパターン
複数の理事の間で『対立』が生じた場合,『理事から追放する』ということが生じます。
実質的な共同経営者間での対立や,『夫婦のトラブル(離婚)』ということもよくあります。
『追放』とは言っても,法的なルールがあります。
<理事の追放|法律的な方法論>
あ 解任
い 債務不履行解除
う 合意解除
え 任期満了
(2)解任(上記『あ』)
理事を選任(委任)した『医療法人』側から特定の理事を解消する方法です。
医療法には『解任』についての規定がありません。
定款に規定があれば,その方法で『解任』することができます。
定款に規定がない場合,民法の規定が適用されます。
<定款に規定がない場合の『理事の解任』>
あ 解任の方法
医療法人から『解任』の通知を行うだけ
い 理由
特に理由は不要
う 損害賠償
医療法人から理事に『損害賠償』を行う必要がある
通常は,残存就任期間に相当する役員報酬です。
※民法651条
(3)債務不履行解除(上記『い』)
理事側に,理事としての業務を『行わない』『行えない』という事情がある場合です。
<債務不履行解除による理事の追放(解消)>
債務不履行or履行不能→解除
※民法541条,543条
(4)合意解除(上記『う』)
医療法人と対象の理事が『理事としての委任契約終了』について合意する方法です。
トラブルの際には,条件交渉の結果『和解』によって『合意解除』に至ることがよくあります。
(5)任期満了退任(上記『え』)
理事の就任期間が満了した時に,理事としての委任(契約)が終了,となります。
逆に言えば,『再任』(重任)した時だけ,継続して『理事である状態』となるのです。
『再任しないこと』については,特に理由は必要ありません。また『補償』『損害賠償』なども不要です。
<理事の期間の規制>
任期は最長『2年』
※医療法46条の2第3項
8 医療法人の税金|『払戻し』と『相続』による高額課税に注意
(1)『払戻し』への課税|脱退時の払戻・解散時の残余財産
『持分あり』の社員が脱退(退社)した場合や医療法人が解散した場合に,社員は『出資の払戻し』を受けることができます。
この場合の課税に注意が必要です。
<出資の払戻しに対する課税>
※『出資持分あり』の医療法人のみが前提です。
あ 課税対象(『払戻し』の種類)
ア 社員の脱退(退社)時の『出資の払戻し』イ 医療法人の解散時の『残余財産の分配』
い 課税価格|みなし配当
課税価格 = 払戻しを受けた金銭・資産の価額 − 出資金額
これを『みなし配当』と言います(所得税法25条1項3号)。
う 税率
(最高)
配当所得20% + 住民税30% = 合計50%
結局,長期間の利益が蓄積され,『資産が大幅に増加』している場合,『みなし配当』が高額→最高税率として合計で50%という高率で課税される,ということになります。
注意が必要です。
(3)『出資持分の相続』→相続税課税
『出資持分あり』の医療法人の出資者(=社員)が亡くなると,『出資持分』も遺産の1つ,となります。
『出資持分』が相続人に承継されます。
そうすると,この『出資持分』に対して相続税が課税されます。
医療法人に利益が蓄積されていると,相続税評価が高額となり,相続税も高く課せられます。
(4)『みなし配当』や『出資持分の相続』による高額課税を回避する対策
『社員の脱退→みなし配当→高額課税』については,定款で『上限を出資額とする』規定を設けておけば避けられます(上記『3』)。
また,『出資持分なし』に変更(移行)しておけば,『払戻し』自体がなくなるので,当然ですが,『相続』や『みなし配当』の課税も生じなくなります。
<『払戻し』への高額課税を回避する方法>
あ 定款で『払戻額上限』を設定する
い 『出資持分なし』への変更(移行)
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