【整理解雇の4要件|必要性・回避努力義務・選定/手続の合理性】

1 整理解雇の意味=解雇権濫用の法理の1つの類型

整理解雇とは、経営不振を理由として行われる人員削減のことであり、俗に言うリストラです。雇用調整の最終手段とも言えます。
整理解雇が有効かどうかは、4つの要素によって判断することになります。本記事では、整理解雇の有効性の判断基準(判断要素)を説明します。

2 解雇権濫用の法理(前提)

一般的に解雇については、解雇権濫用の法理が適用され、有効となるには一定の要件をクリアする必要があります。
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この点、整理解雇の局面では『解雇しないと経費が押さえられず、事業の存続自体が危ない』という状態にあります。当然、事業が存続して初めて雇用を継続できるという現実があります。一般的な解雇、たとえば従業員の成績不良による解雇、とは局面が大きく異なります。
そこで、整理解雇の有効性については、多くの裁判例によって、一般的な解雇の判断基準よりも具体的な判断基準が形成されています。

3 整理解雇の4要素

整理解雇の有効性の判断については、4つの要素で判断することになります。

整理解雇の4要件

あ 整理解雇の必要性
い 整理解雇の回避努力義務
う 解雇する者の選定基準・選定の合理性
え 労使交渉等の手続の合理性

※長崎地裁昭和50年12月24日;大村野上事件
※東京高裁昭和54年10月29日;東洋酸素仮処分事件

4 総合判断説=要件の緩和

(1)総合判断説

当初は、整理解雇の4要素について、4つとも満たさないと解雇は無効、という厳格な考え方が採られていました(4要件説)。
しかし、その後、時代の流れにより、事業(会社)の合理化・効率化・国際的競争力の獲得といった要請が見直されてきました。
そこで、次のように要件の解釈は緩和されてきています。
これを総合判断説、とか、4要素説、と呼んでいます。
総合判断説の内容と、緩和する考え方についてまとめておきます。

総合判断説

4つの要件について、トータルで一定の必要性・許容性が認められれば整理解雇を有効とする
※東京高裁平成15年1月29日(抜粋);平和学園高校事件
※名古屋高裁平成18年1月17日;山田紡績事件

(2)事業の競争力についての近年の考え方

整理解雇の有効性判断を緩和する(有効とする)方向性は、事業の競争力を重視する考えも影響しています。

事業の競争力についての近年の考え方

あまり厳格に従業員保護に偏ると、事業の負担が不合理に増える
→国内の競争なら同じルールで問題ない
→しかし、国際的な事業の競争力で劣る結果になる
→国内の事業が衰えると、雇用確保という当初の目的に反する結果となる

(3)事業の効率化の例

なお、事業を合理化・効率化する、ということについては、具体的には次のような事業戦略のことを想定しています。
従業員の整理、というプロセスを含むものです。

事業の効率化の例

(ア)特定の事業部門を閉鎖(イ)特定の事業(業務)をアウトソースにする

以上のように、時代の流れとともに、事業・経営の合理化・効率化という要請が高まっています。
そのような時代の変化を反映して、現在では、整理解雇の4要素について、必ずしも、4つすべてが必要条件と考えない見解を採る裁判例も増えてきています。

5 整理解雇の4要旨

(1)整理解雇の必要性

整理解雇の4要件のうち『整理解雇の必要性』について説明します。
『整理解雇の必要性』とは、雇用主の経営の危機的状況のことです。
時代の流れによって、厳格さに動きがあります。
当初は、厳格な解釈でしたが、次第に緩和されてきています。

整理解雇の必要性の解釈

あ かつて

『解雇を行わなければ企業の維持存続が危機に瀕する程度に差し迫った必要性』
※大村野上事件

い 現在

ア 『高度な経営上の必要性』で足りる ※社会福祉法人大阪暁明館事件
イ 『企業の合理的運営上やむを得ない必要に基づくもの』で足りる ※東洋酸素仮処分事件

要は、当初は、解雇をする以外には倒産を避けられないというような最後の手段であることが必要だったのです。
現在は、解雇しなくても倒産まではしないけど、より効率を良くするため、不採算部門を廃業にするということでも解雇を有効とする流れなのです。
ただし、要件を緩和したケースでは、一般的に、他の要件の判断において厳格さが要求される傾向にあります。
総合的に(トータルで)判断する、ということなのです。

(2)回避努力義務

整理解雇の4要件のうち、『整理解雇の回避努力義務』、について説明します。
『整理解雇の回避努力義務』とは、『解雇』以外の収支改善対策を実施する義務のことです。
解雇というのは極力最終手段であるべきです。
つまり、他の手段で解雇が避けられるのであれば、極力別の手段によるべきである、という考え方が採られているのです。
具体的な、収支改善のための解雇以外の手段を挙げます。

解雇の回避努力の例

・不要資産の処分
・各種経費の削減
・役員報酬の削減
・役員の削減
・外注業務を社内で遂行する
 経費が増える場合も含みます。
・機械化、システム化を実施しない
 経費が削減できない場合も含みます。
・残業規制
・賃金カット
・新規採用の中止
・一時帰休の実施(レイオフ)
・配転・出向の実施
・退職勧奨
・希望退職募集
※静岡地裁平成16年5月20日静岡フジカラー事件

これらの、解雇を回避する努力、については、すべてを行うことが必要、という意味ではありません。
ただし、容易に実行・検討可能なものは実施しておかないと、回避義務の実行が不十分、と判断される傾向にあります。
特に分かりやすい希望退職募集については、これを実施していないと回避努力不十分と判断されることが多いです。
ただし、絶対に必要、というわけではありません。
ややレアケースですが、希望退職募集をせずに行った整理解雇が有効と判断された裁判例もあります。

(3)解雇する者の選定基準・選定の合理性

整理解雇の4要件のうち『解雇する者の選定基準・選定の合理性』について説明します。
『解雇する者の選定基準・選定の合理性』とは、整理解雇の対象者を選ぶ方法自体が合理的であるかどうか、という観点です。

当然ながら、解雇される者にとっては、人生に関わる大きな問題となり得ます。
そこで、解雇対象者の選定は、公平かつ客観的であり、誰もが納得できるものであることが必要とされます。

解雇者の選定基準・選定の合理性

(ア)抽象的・主観的基準→NG(イ)客観的・主観が影響しない・全従業員を対象としている→OK

解雇者の選定する時に用いる事情(要素)にはいろいろなものがあります。

具体的な基準(項目)例

勤務地 能力 勤務状況 雇用形態 ◯(後記※1 年齢 在籍期間 適格性
※凡例
◯=選定要素として良い
☓=選定要素としてはいけない
(※1)
例=非正規雇用者の解雇が先で、その後に正規雇用者の解雇、という順序

(4)労使交渉等の手続の合理性

整理解雇の4要件のうち『労使交渉等の手続の合理性』について説明します。
これは、労働者側の意見を聞き、十分に検討する、という解雇に至るプロセスの適正さ、合理性という観点です。

解雇というのは、合意による退職とは異なり、在職を希望する従業員でも強制的に退職させる手続きです。
当然、従業員は大きな影響を受けます。
それぞれの要望や解雇されたら困る事情について、十分に雇用主側に伝えることが要請されます。
雇用主側は、解雇という重大事項なので、説明を十分に行い、従業員からの納得をできるだけ得るよう、最大限の努力をすることが要請されます。
労働組合が存在する場合は、組合と雇用主側が協議するのが通常です。
小規模・労働組合が存在しない、という場合は、労働者の代表と協議するか、個別的に労働者と協議することになりましょう。

労使交渉等の説明プロセスの具体例

あ 説明・資料開示

決算書類等の経理資料の開示、説明

い 交渉・意見交換

人員整理の時期、規模、方法等について、雇用主側と労働者側の意見交換

う 手続自体の合理性

整理解雇についてのルール(解雇協議約款など)に沿った手続き(ある場合)
最近は、労使協定などとして、解雇時の手続きがルール化されていることも多い

6 関連テーマ

(1)東京地判平成18年11月29日・東京自転車健康保険組合事件

前述のように、整理解雇の有効性を判断した裁判例は多く蓄積されています。その1つに、東京自転車健康保険組合事件があります。整理解雇の有効性判断基準を示すとともに、特殊事情により、不当解雇による慰謝料を認めています。この裁判例については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|東京地判平成18年11月29日・東京自転車健康保険組合事件(整理解雇の有効性・不当解雇による慰謝料)

(2)『正社員・正規/非正規社員』というネーミング・法的扱い

通常、企業では多くの従業員・社員の種類があります。
『正社員・正規社員・非正規社員』などです。
これらは法律上の定義があるわけではありません。
ただし、解雇の有効性など、法的な扱いに影響を生じることもあります。
これについては別に説明しています。
詳しくはこちら|『正社員・正規社員・非正規社員』ネーミング×法律上の扱い

本記事では、整理解雇の有効性について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に解雇など、職場の問題に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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