御嶽山噴火|予知体制|予知できなかった責任論→将来の発展へ
1 火山噴火の予防・警報・避難指示|気象庁と市町村の役割分担
2 平成26年御嶽山噴火において行なわれた予知・警報
3 噴火の予知の可能性|『水蒸気噴火』が予知困難の理由
4 噴火被害回避ができたのでは?|将来の『噴火予知体制』への期待
5 参考情報|火山噴火予知連絡会会長藤井氏×宇宙航空研究開発機構名誉教授水谷氏
1 火山噴火の予防・警報・避難指示|気象庁と市町村の役割分担
火山の噴火などの天災については,公的な観測→警報システム,が存在します。
平成26年の御嶽山噴火でシステム改良を社会全体で考え直す状況になっています。
最初に制度設計の基本から説明します。
<災害に対する公的観測→警報システム>
あ 気象庁の努力義務
ア 観測・警報システムの確立
気象・地震・火山現象等の観測・予報・警報・情報交換システムの確立+維持
※気象業務法3条1〜3号
イ 災害の予報・警報
災害の予報・警報を行う
予報・警報を都道府県→市町村に通知する
※気象業務法13条,15条
い 市町村の業務;『避難勧告』
災害発生のおそれがある場合・災害発生後
居住者・訪問者に対する『立退き勧告』・『立退き指示』
※災害対策基本法60条
<火山の噴火に対する公的観測→警報システム>
あ 気象庁
ア 観測
常時観測・監視対象 47の火山
『噴火警戒レベル』対象 30の火山
イ 危険性の判断
気象庁が危険性の評価により,5段階の『噴火警戒レベル』を指定する
市町村に通知される
い 市町村
『入山規制』などの具体的な規制(避難指示)を実施する
実際には気象庁の『噴火警戒レベル』と連動させる運用が多い
2 平成26年御嶽山噴火において行なわれた予知・警報
平成26年に生じた,御嶽山の噴火において行なわれた予知・警報を振り返り,まとめておきます。
<平成26年御嶽山噴火の概要>
あ 位置
長野県と岐阜県の県境に位置する
い 噴火日時
平成26年9月27日午前11時52分
う 被害その他
死者数50名以上
7年ぶりの噴火
噴火の種類=水蒸気噴火
<行なわれた予知・警報>
あ 噴火前
9月10〜11日
A型地震が発生した
しかし地殻変動は観察されなかった
↓
気象庁;『火山解説情報』を3回発表した(にとどめた)
↓
9月20日以降
A型地震がこれまでにない程度に頻度を増した
7年前の噴火時の頻度・程度を超えた
↓
噴火の5分前
地殻変動が観測された(地殻が盛り上がる傾向)
警報等の具体的行為はなされなかった
い 噴火後
午後12時36分
『噴火警戒レベル』が切り替えられた
1(平常)→3(入山規制)
(連動的に『入山規制』が実施された)
3 噴火の予知の可能性|『水蒸気噴火』が予知困難の理由
悔やまれることに,公的機関によって,『噴火の前に予報・警報』を行うことができませんでした。
この点,過去の火山噴火で『予知→避難』に成功した事例もあります。
<火山噴火の予知に成功した前例>
平成21年浅間山噴火
警戒レベル3に切り替え→13時間後に噴火
噴火の種類=マグマ噴火
ここで,予知の可能性・困難性については,『噴火の種類』が大きく影響します。
噴火に至るプロセスについて大きく3つに分類できます。
<火山噴火の種類>
『噴火』の種類 | 噴火前の地殻変動 | 噴火前の地震 | 実例 |
マグマ噴火 | 大 | 大 | 平成21年浅間山 |
マグマ水蒸気噴火 | 中 | 中 | 平成12年三宅島 |
水蒸気噴火 | 小 | 小 | 平成26年御嶽山 |
『噴火の予知』の主な判断材料は,『地殻変動』と『地震』の2つの観測データです。
『マグマ噴火』ではデータが多いので,予測・予知をしやすいのです。
一方,平成26年御嶽山の噴火は『水蒸気噴火』なので,観測データが少なかったのです。
4 噴火被害回避ができたのでは?|将来の『噴火予知体制』への期待
(1)現状の問題の整理
<火山噴火の被害防止体制についての問題点>
被害防止プロセス | 関連法律 | 現状の問題 |
観測・監視義務 | 気象業務法3条1〜3号 | リアルタイムで監視する人員が存在しない |
危険性(警報発信)の判断(気象庁) | 気象業務法13条,15条 | 専門家の判断をスピーディーに得るシステムがない |
危険性(避難勧告)の判断(市町村) | 災害対策基本法60条 | 人材不足→気象庁に頼りきり |
(2)改善可能性(=非難可能性=責任)についての見解の対立
<現状の火山噴火予知システムの評価>
責任否定方向 | 責任肯定方向 |
人員不足だから『異変の感知』は不可能 | 『異変の即時感知』を前提とした体制構築が必要 |
観測データの蓄積は遂行している | 『データをためるだけ』は『監視』ではない |
気象庁には専門家がいない+専門家との連携システムもない | 外部専門家に頻繁に見てもらう体制構築は可能 |
誤報は警報の信頼性低下につながる(狼少年現象) | 『複数の可能性』を通知すれば良かった |
誤報は観光業の収益へのダメージが大きい | 『被害を避けられない』方が客離れにつながる |
クオリティの高い予知システムが構築されていない | システム不備は長年指摘され続けている |
<参考情報>
Newton14年12月p76〜
5 参考情報|火山噴火予知連絡会会長藤井氏×宇宙航空研究開発機構名誉教授水谷氏
この問題について,ストレートな指摘がまとめっている資料を紹介・引用します。
<噴火予知システムの『非難可能性』に関するコメント>
あ 引用・参照元
Newton14年12月p76〜
い 発言者
ア 藤井敏嗣 氏
火山噴火予知連絡会(事務局=気象庁)会長
東京大学名誉教授
イ 水谷仁 氏
宇宙航空研究開発機構名誉教授
Newton編集長
う コメント内容
(Newton誌コメント;概要)
・噴火の数日前からA型地震がこれまでにないほど活発になった
・7年前の噴火時のレベルを超えた→登山規制可能だった
・噴火の数分前に登山者に警報を発することもできたのではないか
水谷氏
『警報を出しても噴火しない可能性と,まちがった警報がおよぼす影響の大きさを考慮したとしても,科学的にみちびける複数のシナリオを関係者になるべく早く通知するしくみがほしかった』
藤井氏
『しかし,すべての火山の近くに気象庁職員がいて,山の変化を監視しているわけではなく,観測データの変化だけを見ているので,すぐに異変に気づくことはむずかしいでしょう』
水谷氏
『それでは何のための火山監視体制だったのでしょうか。監視とは,異変にすぐに気づくシステムでなければならず,データをためておく装置をつくることではありません』
藤井氏(概要)
・アメリカやイタリアでは,専門家と技術者がすぐに協議できる総合的研究機関・体制が存在する
・日本にはそのような機関・体制がない
・気象庁職員が専門家にアクセスするのは,異常時に大学の研究者に相談するという状態
・研究者は常時観測しているわけではない→臨機応変な指示を出すことは難しい
水谷氏
『気象庁に火山の専門家がいないとしても専門家に観測データを頻繁に見てもらう事は可能ではないでしょうか。
また火山観測体制の不備はもう何年も前から指摘されているにもかかわらず,いっこうにその不備が是正されていないことは火山大国に住む日本人としてとても不幸なことです。
今回の噴火災害を教訓にして,ぜひ早急に噴火予知の体制を築いてもらいたいです。』
現在,このような責任問題について話題になっています。
『過去の責任追及』が究極の目的ではなく,『噴火予知のテクノロジー発展・被害回避の効率アップ』という方向性→将来に活きる,ということが重要であると思います。