【『出版』の契約形態|出版権設定契約・著作権譲渡契約・許諾契約】
1 『出版』の契約形態の種類・分類|従来型
2 出版権設定契約|独占権
3 出版権設定契約|第三者効
4 出版権設定契約|サブライセンスの禁止
5 出版権設定契約|『出版義務』
6 書籍出版→映画化=2次的利用は別契約
7 書籍出版→外国版出版=『翻訳』は別契約
1 『出版』の契約形態の種類・分類|従来型
(1)『出版』契約の種類|全体像
<『出版』の契約形態の種類|分類・整理>
あ 権利(複製権)が移転する方式
ア 著作権譲渡契約イ 複製権譲渡契約
い 権利(複製権)が移転しない方式
ア 出版権設定契約イ (債権的)許諾契約
・非独占的許諾契約(単純許諾契約)
・独占的許諾契約(排他的許諾契約)
<『出版』の契約の種類の特徴・比較>
契約の種類 | 権利の『移転』 | 第三者効 | 独占 |
著作権譲渡契約 | ◯ | ◯ | ◯ |
複製権譲渡契約 | ◯(複製権のみ) | ◯ | ◯ |
出版権設定契約 | ☓ | ◯ | ◯ |
非独占的許諾契約 | ☓ | ☓ | ☓ |
独占的許諾契約 | ☓ | ☓ | ◯ |
(2)『出版』契約のそれぞれの種類の概要
<出版権設定契約>
あ 第三者効
『頒布目的の複製』をする第三者に対する『差止請求』『損害賠償請求』
※著作権法88条1項,112条~
い 独占(契約)
当然に『独占契約』となる
※80条1項
う 出版社が持つ権利
ア 設定出版権イ 複製権(専有)
え 特徴
法定項目が多い→個別的・柔軟な取り決めができない
<著作権譲渡契約>
あ 権利の移転
著作権の一部を(一定期間)出版社に『渡す』
ライターには,最低限『著作者人格権』が残る
い 主な設定項目
ア 支分権の範囲イ 譲渡の期間ウ 対価
<独占的利用許諾契約>
あ 権利の移転
『権利の移転』はない→『第三者効』はない
い 特徴
個別的・柔軟な取り決めが可能
<非独占的利用許諾契約>
あ 他社との契約重複
他の出版社との併存,が可能
例;2次出版
2 出版権設定契約|独占権
(1)独占権(原則)
<出版契約の主な内容>
あ 出版権者が付与される権利
ア 頒布目的イ 著作物を複製する
い 複製の方式
ア 原作のままイ 機械的方法or化学的方法
『機械的方法』の典型例=『印刷』
ウ 文書or図画として
う 独占権
この権利は『専有』
※著作権法80条1項
<出版権の『独占』>
あ 他社との同時取引(契約)→NG
著作者は,他の出版者に対して,『出版権の設定』を行うことができない
い 他社との『利用許諾契約』→NG
『対象著作物の複製(出版)』と実質的に同じ
※著作権法80条3項
う 著作者自らの出版→NG
(2)独占権の分断
<『書籍の形態』による『出版権』の分断>
あ 『出版権』の分断
統一的見解はないが,可能(分断する合意は有効)となる可能性が高い
理由;私的自治の原則が適用される
い 分断する例
ア 単行本イ 文庫本ウ 新書版
(3)独占権の『例外』
<出版権の『独占』の『例外』>
出版権の存続期間中に著作者が死亡 | 強行規定 |
『出版権設定後の最初の出版』実行後3年経過+著作者の個人全集や選集に収録する | 任意規定 |
※著作権法80条2項
3 出版権設定契約|第三者効
(1)違法な権利侵害に対する権利行使
<出版権侵害に対する権利行使>
あ 出版権侵害
対象著作物を『出版権者』以外が『複製』すること
※オンラインでの公表は『複製』ではないので該当しない
い 侵害者に対する請求
ア 差止請求権イ 損害賠償請求権 ※著作権法112条,114条,民法709条
(2)登録制度
<出版権設定の登録制度>
あ 登録の対象
出版権の設定・移転・変更・消滅・担保設定
い 登録先
文化庁
う 登録の効果
登録の先後の順,で優劣が決まる
※著作権法88条
出版権の登録制度は,不動産の対抗要件と同様のものです(民法177条)。
しかし,不動産のような『悪質な2重契約』はあまり考えられません。
あるとすれば,限定的な状況です。
<起こりがちな出版権登録による優劣勝負>
相続人が『先行出版契約』を知らずに,別の出版者と出版契約を締結してしまった
実際に,登録を行わない,というケースが多いです。
4 出版権設定契約|サブライセンスの禁止
(1)サブライセンスの禁止(原則)
『出版権』の設定を受けた出版社は『サブライセンス』が禁止されます。
<出版権者のサブライセンス禁止>
あ サブライセンスとして禁止される事項
出版権者が他人に対し著作物の『複製』を許諾すること
※著作権法80条3項
い 『サブライセンス』ではない『外注』
機械的な『印刷』業務の外注(下請け)は適用外(合法)
う オンデマンド印刷業務を外注(下請け)→△
一般的にAmazonなどのオンデマンド印刷業者は『受注』も行っている
『純粋な印刷業務の下請け』ではなく『一定の裁量』がある
→『下請け』ではなく『サブライセンス』と解釈されるリスクもある
(2)サブライセンスの禁止の例外
<サブライセンス禁止の例外|『別の形態』の書籍出版>
あ 『サブライセンス』だけど『絶対禁止』ではない方法
『別の形態の書籍』を出版する
例;単行本出版後→文庫本や全集の一部として出版する
い 『別の形態の書籍出版』の条件
『出版権者』の同意
う 理論的な構造
『先行出版者』が有する『出版権』を2次出版者が利用する
え サブライセンスの対価(印税)相場
売上の2%程度
(3)サブライセンスの自由度・活用効率アップのために
出版権設定契約における『サブライセンスの禁止』は重要なものです。
解釈上『強行法規』とされています。
要するに『排除する合意(条項)』があっても無効となるのです。
逆に『不便』となることもあります。
『サブライセンスの禁止』を排除したい場合は,出版権設定契約では難しいのです。
著作物利用許諾契約や著作権譲渡契約であれば,『サブライセンスの可否』を自由に設定できます。
5 出版権設定契約|『出版義務』
(1)出版義務・継続出版義務
<出版権者の出版義務・継続出版義務>
あ 出版義務
原稿受領後6か月以内に出版を行う義務
い 継続出版義務
慣行に従い継続して出版する義務
う 実質的根拠
『サブライセンス不可』とのバランス
→『唯一出版が許された者による出版が必須』という考え方
※著作権法81条1号,2号
これらのルールは『強行法規』と解釈される傾向が強いです。
『完全に排除する合意』は,強行法規違反や公序良俗違反として無効になると思われます。
(2)出版権消滅請求
<出版権消滅>
あ 前提
著作権者が出版権者に『増刷等の要求』
↓
出版権者が履行しない
い 出版権消滅請求
著作権者が出版権者に『出版権消滅』を通知(請求)する
↓
『出版権』が消滅する
※著作権法84条2項
6 書籍出版→映画化=2次的利用は別契約
<出版権と映画化の関係>
あ 法的な扱い(権利・契約)
『出版権』と『映画化すること』は別の権利
『映画化』は,2次利用→『翻案権』の対象
※著作権法27条
い 現実的な方法
出版社が映画化のプロモートをする
内容;映画関連事業者への売り込み
う 現実的な契約(法的)処理
出版契約の時点で,映画化等の『2次的利用許諾』を条項にしておく
《例》
ア 出版社が映画化に関する代理人(交渉窓口)となるイ 交渉手数料
一般的に,出版され,世に出た小説がヒットし,その後映画化に発展する,ということがあります。
ところで『出版契約』と『映画化の契約』はまったく別のものです。
映画化の契約,とは,著作権法上の『翻案』に該当します(著作権法27条)。
『2次的利用』の1つです。
実務上は『映画化のプロモート』も想定し,出版契約の中で条項をセットしておくのが一般です。
7 書籍出版→外国版出版=『翻訳』は別契約
<出版権と『外国版出版』の関係>
あ 法的な扱い(権利・契約)
『(日本語版)出版権』と『外国版出版』は別の権利
『外国語版出版』は,2次利用→『翻訳権』の対象
※著作権法27条
い 現実的な方法
出版社が外国版出版のプロモートをする
内容;外国の出版社への売り込み
う 現実的な契約(法的)処理
出版契約の時点で,外国版出版の『2次的利用許諾』を条項にしておく
《例》
ア 出版社が外国版出版に関する代理人(交渉窓口)となるイ 交渉手数料
日本で出版→ヒットした書籍が,外国での出版につながることもよくあります。
この点,外国語版の書籍の出版は,原作の『翻訳』に該当します(著作権法27条)。
著作権使用料の支払と引き換えに承諾することになります。
実務上は,日本の出版社が外国の出版社との間での,『著作権使用料等の条件交渉の窓口になる』ことがよく行われています。
当初の(日本での)出版契約の中で『外国語での出版についての交渉手数料』について明記しておくことも一般的です。
<参考情報>
電子書籍・出版の契約実務と著作権 民事法研究会