【譲渡担保権の設定方法と実行方式(処分清算方式と帰属清算方式)】

1 譲渡担保の設定方法は譲渡担保契約の締結
2 譲渡担保の法的構成は,所有権的構成・担保権的構成の2つの見解がある
3 譲渡担保の実行の際は,判例上,清算義務がある
4 譲渡担保権の実行方式は処分清算方式と帰属清算方式がある
5 明確な規定がない場合は帰属清算方式と認定されることが多い
6 借地上の建物の譲渡担保権実行と譲渡許可の裁判
7 譲渡担保権者の保全義務違反による背任罪(概要)
8 譲渡担保と公正証書原本不実記載等罪(否定・概要)

1 譲渡担保の設定方法は譲渡担保契約の締結

譲渡担保の形式>

貸金等の債権を担保するため,譲渡担保契約(設定契約)により債務者所有の動産の所有権を債権者に移転する

移転するのは所有権です。
対象物自体を債務者の手元から引き離すことは必要ありません。
正確には,対抗要件としての引渡しは必要です。
詳しくはこちら|不動産(物権)以外の対抗要件(不動産賃借権・動産・債権譲渡・株式譲渡)
ただし,占有改定(民法183条)も可能です。
詳しくはこちら|占有改定の特殊性(対抗要件としての引渡・即時取得との関係)
結局,物理的には債務者の手元に置いたまま,ということが可能です。

2 譲渡担保の法的構成は,所有権的構成・担保権的構成の2つの見解がある

譲渡担保により移転するのは,『形式的な所有権』と解釈されています。
判例理論で不正の防止が図られています。
担保目的で所有権を渡す,という本質から,『売買契約などのような純粋な所有権』とは違う扱いなのです。
さらに『形式的な所有権』の内容について,2つの解釈があります。

<譲渡担保の法的構成>

あ 所有権的構成

担保目的物の所有権は債権者に帰属する

い 担保権的構成

所有権は債務者にあり,債権者は担保権を取得するにとどまる

ただし,この解釈の違いが実際の運用・法的処理で表面化するのは破産・民事再生・会社更生などの倒産処理の場面くらいです。
というのは,実際の実行の場面では,判例理論によってルールが形成されており,法的構成による違いが結果として表れることはほとんどないのです。

3 譲渡担保の実行の際は,判例上,清算義務がある

譲渡担保権の実行方法は,競売ではありません。
『形式的に移転済みの所有権』を『確定的に取得する』という非常に簡単なものです。
仮に債権額が少ない場合,小さな借金と引き換えに高価な不動産を取り上げられるということが生じます。
そこで,判例において,譲渡所有権の実行の際は清算金の支払が必要とされています(最高裁昭和46年3月25日)。

4 譲渡担保権の実行方式は処分清算方式と帰属清算方式がある

譲渡担保権の実行の方法については,2種類があります。
当初の譲渡担保契約によって定めておきます。

<譲渡担保権の実行方式>

あ 処分清算方式

債権者が第三者に売却する方式

い 帰属清算方式

債権者自身が対象担保物件を取得する方式

5 明確な規定がない場合は帰属清算方式と認定されることが多い

譲渡担保契約の中で,実行方式,つまり,帰属清算,処分清算方式を指定していないこともあります。
この場合,当事者がどのような実行方式を想定,認識していたか,を周辺の事情から判断します。
譲渡担保契約の締結の場面では,ごく素朴に考えると,次のような想定が働きます。

<譲渡担保契約締結における当事者の発想の想定>

所有権を移転したのだから,債務不履行があった際には債権者が所有権を確定的に得る

つまり,一般的には帰属清算方式と認定されることが多いのです。

6 借地上の建物の譲渡担保権実行と譲渡許可の裁判

譲渡担保権の目的物が借地上の建物である場合は,実行の際に地主の承諾または裁判所の許可が必要になります。
裁判所の許可については,いろいろな解釈があり,実際にうまく実行できない傾向があります。
詳しくはこちら|譲渡担保権実行の際の借地権譲渡許可の申立人と申立時期や債権者代位

7 譲渡担保権者の保全義務違反による背任罪(概要)

譲渡担保権者は,形式的な所有者とはなりますが,大きな制限があります。担保物を保全する義務を負うのです。
そこで,例えば譲渡担保権者が担保不動産に抵当権を設定してしまうと,刑法上の背任罪が成立します。
詳しくはこちら|2重譲渡や2重抵当による刑事責任(横領罪・背任罪の成立)

8 譲渡担保と公正証書原本不実記載等罪(否定・概要)

譲渡担保の登記は,形式的には所有権移転(譲渡)ですが,実質(目的)は担保です。そこで,登記申請と真実が食い違うので,虚偽の申請による不実の登記(記載)にあたり,公正証書原本不実記載等罪が該当するという発想もあります。
しかし,実際に社会的に認められている方法なので,虚偽や不実ではないので公正証書原本不実記載等罪は成立しないという考え方が一般的です。
詳しくはこちら|特殊な登記と公正証書原本不実記載等罪(真実の権利者への移転・譲渡担保)

本記事では,譲渡担保権の設定や実行の方法について説明しました。
実際には,本記事の説明内容以外にも細かい規定や解釈があります。
実際に譲渡担保の設定や実行の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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