【知的財産権の全体像|特許権・意匠権の基本】

1 知的財産権の全体像|著作権・特許権・意匠権・標章権を整理
2 特許権の基本|登録すればアイデア自体が保護される
3 意匠権の基本|登録すればデザインが保護される
4 知的財産権を利用する権利の種類|専用実施権・通常実施権
5 知的財産権への担保設定;資金調達
6 知的財産権への担保設定|契約書サンプル

1 知的財産権の全体像|著作権・特許権・意匠権・標章権を整理

金銭・不動産といった通常の財産以外にも,一定の『創作』が法的に権利として保護されています。
多くの種類がありますが,総称として『知的財産権』と言います。
ちょっと複雑で混同しやすいです。最初に全体をまとめます。

<知的財産権の種類|概要・整理>

あ 『知的財産』の定義

ア 人間の創造的活動により生み出されるもの 発見or解明がされた自然の法則or現象であって,産業上の利用可能性があるものを含む
イ 事業活動に用いられる商品・サービスを表示するものウ 事業活動に有用な技術上or営業上の情報 いわゆる『営業秘密』
※知的財産基本法2条1項

い 主な『知的財産権』の整理
権利の種類 保護の対象 アイデア単体 本質的保護 登録の要否
著作権 『表現』 創作一般 不要(任意)
特許権 『発明』 ◯(技術思想) 科学・技術的創作 必要(特許)
意匠権 デザイン(形状・模様・色彩) 美的創作 必要(登録)
商標権 商品・サービスのマーク 社会の信用 必要(登録)

詳しくはこちら|著作権の基本(著作権法の趣旨や保護の構造と典型的なトラブル)
詳しくはこちら|商標権|登録すればトレードマークが保護される
特許権,意匠権については後述します。

2 特許権の基本|登録すればアイデア自体が保護される

(1)特許権の基本的事項

<特許権|基本的事項>

あ 『特許権』の対象

『発明』にあたる(発明要件) + 『特許』(出願)
→『特許権』が生じる

い 『特許権』の内容=保護内容

業として特許発明の実施をする権利を独占する
※特許法68条

(2)『発明』要件

『特許権』が認められるための1つ目の要件は『発明』です。

<『発明』の定義|発明要件>

あ 自然法則を利用している
い 技術的思想である
う 創作である
え 高度である

※特許法29条1項柱書,2条1項

この『定義』については,『該当しないもの』を見ると分かりやすいです。

<『発明』にあたらない具体例>

エネルギー保存則 自然法則『自体』であり,その『利用』ではない
X線の発見 『創作』ではない
第1種・第2種永久機関 『自然法則』に反している
ゲームのルール 『人為的取り決め』であり,『自然法則』ではない
フォークボールの投球方法 『技能』ではあるが『技術的思想』ではない(再現が機械的ではない)

(3)『特許』要件

次に,特許権が認められるための2つ目の『特許』の要件をまとめます。

<『特許』の要件>

あ 産業上利用できる発明である
い 新規性
う 進歩性
え 先に出願されていない
お 公序良俗に反しない

※特許法29条1項,2項,32条

(4)『新規性・進歩性』判断のポイント

以上は抽象的な説明です。
実際に『特許権』の対象となるかどうかが問題になるのは『新規性・進歩性』です。

<新規性・進歩性の判断|骨子>

あ 大雑把な判断の方向性

『ありふれた発想』は対象外

い 判断の元になる事情

『出願当時』に公表されていた情報を元に判断する
このような情報を元に『容易に思い付くか』どうかで判断する
《例》
ア 出版されていた文献イ 公開されていたウェブサイト上の情報

3 意匠権の基本|登録すればデザインが保護される

(1)意匠権の基本的事項

<意匠権|基本的事項>

あ 『意匠権』の対象=『意匠』

『意匠』にあたる(定義) + 『登録』
→『意匠権』が生じる

い 『意匠権』の内容=保護内容

業として登録意匠・類似意匠を実施する権利を独占する
※意匠法22条

(2)『意匠』の定義

<『意匠』の定義>

あ 『意匠』の定義

製品のデザイン(外観)
《具体的内容》
ア 物品の形状・模様・色彩イ 画面デザイン(※1) ※意匠法2条1項,2項

い 『意匠』の具体例

次の製品のデザイン
《製品の例》
自動車・テレビ・スマートフォン(携帯電話)・カメラ・蛍光灯・ジュースの瓶・薬の容器・洋服・靴

(3)意匠登録の要件

<『意匠登録』の要件>

あ 工業上利用性;3条1項柱書
い 新規性;3条1項(各号)
う 創作困難性(非容易性);3条2項
え 先願意匠の一部と同一・類似の意匠でない;3条の2
お 公序良俗違反でない;5条1号
か 誤認惹起に相当しない;5条2号
き 機能確保のための形状ではない;5条3号
く 最先の出願である;先願主義;9条1項
け 1つの意匠につき1つの出願とする;7条

(4)『画面デザイン』は『メイン機能』以外のものだけ意匠権の対象となる(上記※1)

<『画面デザイン』×意匠権>

あ 除外されるもの

『メイン機能(の画面)』は除外される
※意匠法2条2項

い 意匠権の対象となる『画面デザイン』|典型例

『メイン機能』ではない『画面デザイン』の典型例
製品組み込み型の操作画面
例;家庭用ビデオカメラ・洗濯機・湯沸し器・エアコン

う 意匠権の対象とはならない『画面デザイン』|例

『情報・コンテンツの表示』自体がメイン機能という場合
例;スマホのキュレーションアプリ

4 知的財産権を利用する権利の種類|専用実施権・通常実施権

知的財産権を利用する権利は『実施権』『使用権』として規定されています。

<『実施権(使用権)』とは>

あ 実施権の内容

知的財産権の内容を利用する権利
一般に『ライセンス』と呼ぶことが多い
商標権については『使用権』と言う

い 知的財産権の内容

発明・アイデア・デザインなど

実施権には法定実施権と合意に基づく実施権があります。
一般的な『合意に基づく実施権』について,その種類を説明します。

<契約・合意に基づく実施権|種類>

あ 専用実施権(使用権)

ライセンスを受けた者だけが独占的に利用する権利を持つ
特許権者自身も排除される(実施を禁止される)
登録が効力要件である
※特許法98条1項2号,意匠法27条4項,商標法30条4項

い 独占的通常実施権(使用権)

契約・合意では『専用』だが登録をしていないもの

う (一般の)通常実施権(使用権)

『独占ではない』というところ以外は上記『あ』と同じ
登録は対抗要件である
登記をしなくても当事者間の効力は問題ない
※特許法99条1項,意匠法28条3項,商標法31条4項

実施権・使用権には,状況・場面によって別の類型(ネーミング)があります。

<実施権のバラエティ>

あ クロスライセンス

当事者が相互に『実施権を付与』しあうこと

い サブライセンス(再実施権)

ライセンスを受けた者が,さらに第三者にライセンスを付与すること

5 知的財産権への担保設定;資金調達

知的財産権も,これを担保にして融資を受ける,ということが行われています。
『換価(売却)ができる』以上は,担保としての条件を備えているのです。

<知的財産権への主な担保設定方法>

あ 質権設定
い 譲渡担保権設定

6 知的財産権への担保設定|契約書サンプル

代表的なものとして,特許権に質権を設定する契約書サンプルを示します。
意匠権,商標権などの知的財産権についても同様の契約書を用いることができます。

<特許権質権設定契約書|サンプル>

特許権質権設定契約書
A(以下『甲』という),B(以下『乙』という)は,次のとおり契約を締結する。
第1条(債務の確認)
乙は,甲に対して平成Y年M月N日付消費貸借契約証書により,次の貸金債務n円を負担していることを確認する(以下『本件債務』という)。
《本件債務の内容》
ア 弁済期(一括)イ 利 息ウ 利息支払時期エ 遅延損害金 第2条(質権の設定)
本件債務を担保するため,乙は,甲に対して次の特許権(以下『本件特許権』という)に質権を設定する(以下『本件質権』という)。
《本件特許権》
ア 発明の名称イ 特許権の登録番号 特許登録n号ウ 特許権者     (乙)エ 発明者 第3条(質権設定手続)
乙は,本契約締結後直ちに質権設定登録手続に必要な一切の書類を甲に交付する。
第4条(瑕疵担保責任)
乙は,甲に対して,本件特許につき,登録料の滞納ならびに本件質権に優先する一切の権利の設定または契約の存在しないことを確認する。
第5条(特許権侵害に対する措置)
1 乙は,本件質権の存続中に,本件特許権が侵害または侵害のおそれがあるとき,あるいは第三者によって本件特許の有効性が争われたときは,直ちにその旨を書面で甲に報告する。
2 前項の場合,乙は直ちに甲と協議の上,侵害の排除等必要な措置をとるものとする。
第6条(流質契約)
乙が本件債務を履行しなかった場合には,甲は,法定の手続によらず本件特許権を取得し,またはこれを任意売却してその代金を本件債務の弁済に充当することができる。
第7条(権利移転手続)
省略
第8条(技術指導等)
省略
第9条(合意管轄)
省略

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