【少額訴訟|60万円までの簡略化した訴訟|1日で審理・判決が完了】
1 請求額60万円以下では『少額訴訟』が活用できる
<『少額訴訟』が適している請求の種類>
あ アルバイト・パートの賃金不払い→請求
い 敷金返還請求
う 個人間の貸し借り
〜〜〜
このような請求については、ノーマルの訴訟を行うと、『請求額』と『コスト(時間・費用・手間)』のバランスが良くないです。
この点、手続を大幅に簡略化した『少額訴訟』という制度が適しています。
金銭の請求で『60万円まで』であれば『少額訴訟』を利用できるのです。
2 少額訴訟は審理・判決含めて1日で完了する
少額訴訟制度の特徴|基本
あ 請求額の上限=60万円
金銭以外はNG
請求額の『一部』として60万円部分で提訴→適法
い 1回の期日(1日)で審理+判決まで終了する
証拠・証人もこの日にすべて準備する必要がある
※民事訴訟法370条、371条、373条1項、374条
う 判決には必ず『仮執行宣言』が付く
確定まで待たなくても強制執行(差押)が可能となる
※民事訴訟法376条1項
え 『判決』で分割払い・支払猶予・遅延損害金カット、の設定が可能
被告の経済力(資力)から『かえって分割にした方が払われやすい』という場合
通常訴訟の『判決』では不可能
※民事訴訟法375条1項
『少額』というネーミングのとおり、請求金額の上限が60万円と非常に限定されています。
その代わりに大幅に手続が簡略化されています。
審理・判決まで含めて1日で終わるのです。
逆に言えば、主張・立証の内容が1日で終わりそうもない、という場合は、裁判所の判断で『通常訴訟に移行』されることもあります。
『少額訴訟』は、利用の仕方によっては、債権回収の実現に非常に強力なツールとなります。
一方で『かえって何もしない方が良かった』ということも生じます。
『通常移行』については特に注意が必要です。
3 少額訴訟の利用では『通常訴訟への移行』に注意が必要
少額訴訟制度の特徴|注意点
あ 通常訴訟へ移行されることがある|通常移行
ア 当事者の申立→無条件に移行するイ 裁判所の職権→不服申立はできない
審理内容が複雑、という場合
元々『スピーディーな判断』が可能、ということが前提になっている
い 被告からの『反訴』はできない
通常移行をすれば反訴可能となる
※民事訴訟法369条
う 控訴ができない
『異議申立』はできる
しかし、異議→判決、まで進むと、控訴・上告ができない
要するに、実質的な『2審制』となる
通常移行をすれば『控訴』ができる=3審制、となる
※民事訴訟法377条、378条、380条
え 既判力がある
手続は簡略化されていても『判決確定』まで行くと、後から覆せなくなる
※民事訴訟法114条
お 年間の利用回数上限=10回
『同一の簡易裁判所』という前提
民事訴訟法368条1項、民事訴訟規則223条
事業での利用を排除=個人向け、という設定
か 申立手数料(印紙)は通常訴訟と同じ料率
※民事訴訟費用等に関する法律3条、4条、別表第1第1項
少額訴訟で注意が必要なのは『通常訴訟への移行』です。
相互に、主張・立証を進めて行く、という長期的・手間が多い手続となります。
訴訟を取り下げようと思っても『被告の同意がないとできない』ということもあります(民事訴訟法261条2項)。
『想定していなかった手続を不本意に進める』=『何もしない方が良かった』ということになるのです。
被告が『反訴』『控訴』をできるようにするために『通常移行の申立』をすることもよくあります。
また裁判所が『内容が複雑』と判断して『通常移行』を決定することもあります。
申し立てた原告自身の意図に反して『通常移行』することが実際によくあります。
この可能性も含めて『手続選択』を行うべきです。
4 少額訴訟の判決用の簡略化した差押手続がある|少額債権訴訟執行
少額訴訟について簡略化されているのは、審理・判決の手続だけではありません。
強制執行、つまり差押についても簡略化された手続が用意されています。
一般的には審理・判決を簡易裁判所で行っていても、差押は地方裁判所の執行部(執行センター)で行ないます。
この点、少額訴訟の場合は、差押も『審理を行った簡易裁判所(書記官)』が担当できます。
この手続を『少額訴訟債権執行』と呼びます。
少額訴訟債権執行の特徴
あ 担当部署
判決を行った簡易裁判所(書記官)
※民事執行法167条の2
い 差押対象財産
ア 預貯金債権イ 給料債権ウ 賃料債権エ 敷金(保証金)返還請求債権
う 裁量移行
債権の特定が容易ではないなどの場合
→裁判所(書記官)の判断で地方裁判所に『移行』できる
一般的な裁判所の運用としては、上記『い』以外の債権を裁量移行の対象にしている
※民事執行法167条の12
え 通常の差押の利用も可能
少額訴訟の判決を元に、上記以外の財産を差し押さえることも、もちろん可能
その場合、通常どおり、地方裁判所に差押の申し立てをする
少額訴訟債権執行を利用できる場合は、この手続の方がスピーディーです。
ただし、『地裁への移行』がされてしまうと、かえって差押実行が遅くなるので注意が必要です。