【株主代表訴訟|提訴の資格と手続|会社・役員の対応】
1 株主代表訴訟とは会社に変わって株主が役員に損害賠償をするもの
2 株主代表訴訟は6か月以上の持株要件がある
3 株主代表訴訟の提訴のためには,会社に対する『提訴請求』が必要
4 株主代表訴訟の原告のケア|『弁護士費用の会社負担』『損害賠償責任免除』
5 株主代表訴訟の濫用に対しては担保提供命令申立ができる
6 株主代表訴訟に備える役員賠償責任保険もある
7 株主代表訴訟の被告は会社の顧問弁護士以外に自費で依頼する必要がある
1 株主代表訴訟とは会社に変わって株主が役員に損害賠償をするもの
<株主代表訴訟とは>
株主が会社に代わって会社のために取締役の会社に対する責任を追及する訴訟
※会社法847条
取締役が違法行為をして会社に損害を与えた場合,会社は取締役個人に対して損害賠償請求が可能です。
しかし,この『損害賠償請求』をすることを決定,遂行するのは役員です。
法律上,原則的に取締役会の決議によります。
通常は,役員が自身,あるいは役員同士でかばう,責任回避の態度になる傾向があります。
そこで,『会社として』損害賠償請求を行わないことがよくあります。
このような場合に,『株主が』,損害賠償請求の提訴をできることとなっています。
これを株主代表訴訟と言います。
2 株主代表訴訟は6か月以上の持株要件がある
株主代表訴訟は,提訴できる株主に一定の要件があります。
<株主代表訴訟提訴の持株要件>
※会社法847条1項
あ 公開会社
6か月以上株式を保有している株主
この期間を短縮する=緩和する,ことは可能です。
い 非公開会社
持株期間の要件はない
3 株主代表訴訟の提訴のためには,会社に対する『提訴請求』が必要
<株主代表訴訟の提起フロー>
株主が会社に対し『役員に対し責任追及の訴訟を提起せよ』と書面で請求する
※会社法847条1項
↓
会社が60日間訴訟を提起しない
↓
株主が代表訴訟を提起できる
※会社法847条3項
(1)株主代表訴訟は補充的
会社から役員への責任追及については,本来的に会社が請求者です。
請求内容は会社から特定の役員に対し,会社が被った損害の賠償を求めるというものです。
株主は補充的に参加できる,という体裁です。
(2)株主→会社への提訴請求
そこで,役員への責任追及をしようと思う株主は,最初は,会社に対し,アクションを要請します。
会社に対し役員に対し責任追及の訴訟を提起せよと請求するのです。
この提訴の請求は書面で行う必要があります。
(3)会社が提訴しない場合に,株主の提訴ができる
その後60日以内に会社が役員を提訴しなかった場合に,時間切れとなります。
つまり,株主自身が会社に代わって提訴できるようになります。
4 株主代表訴訟の原告のケア|『弁護士費用の会社負担』『損害賠償責任免除』
(1)株主代表訴訟の原告の弁護士費用→会社負担ルール
株主代表訴訟では,訴訟のために要した『弁護士費用(報酬)』の負担が問題になります。
株主としては,『本来会社が行うべき訴訟』を『会社に代わって』遂行しているのです。
これについては,会社法上,ルールが設定されています。
<株主代表訴訟の弁護士費用の負担>
あ 要件|原告=株主の勝訴など
ア 勝訴したイ 一部勝訴したウ 勝訴的和解=役員が賠償金を支払う内容
い 効果
弁護士報酬のうち『相当な額』について株主が会社に請求できる
※会社法852条1項
※東京高裁平成12年4月27日
(2)株主代表訴訟敗訴→株主の負う『損害賠償責任』の免除
一方で,株主が敗訴した場合は『無用な訴訟だった』ことになります。
会社が『本来負わなくても良い経済的・時間的・レピュテーション上の負担を負った』と言えます。
ただしこれはあくまで『結果論』です。
『株主の保護』をしないと,株主代表訴訟への大きな心理的ハードルになってしまいます。
そこで,『株主敗訴』の場合の株主の保護ルールが設定されています。
<株主代表訴訟の結果についての株主保護>
あ 要件
原告=株主が敗訴した
い 効果
ア 原則
会社に対し『提訴』についての損害賠償責任は負わない
イ 例外
株主に『悪意』があった場合
※会社法852条2項
当然ですが,株主が意図的に『妨害・嫌がらせ』目的で,負けることを分かっていて提訴した場合は保護されません。
会社から損害賠償請求を受けることになります。
5 株主代表訴訟の濫用に対しては担保提供命令申立ができる
株主代表訴訟は手数料の低額化やその他の要件緩和により提訴が容易になっています。
仮に,妨害的な意図により提訴された場合は,裁判所が原告に金銭の担保を提供するよう要請する制度があります。
これは,被告となった役員が裁判所にその旨申立をしなくてはなりません(会社法847条7項)。
これを担保提供命令申立と言います。
株主の提訴が妨害的な意図であることが証明されると担保提供命令がなされます(会社法847条8項)。
6 株主代表訴訟に備える役員賠償責任保険もある
個々の行為について,法令順守を心がけていれば責任が追及されることはない,というのは机上の理論です。
実際に法令自体への違反がなくても,経営判断のミスとして責任が認められる例もあります。
実際の経営判断においては,後から責任を追及される可能性を感じながら,大胆に舵を切る,ということもありましょう。
株主代表訴訟提起が容易になるにつれて,役員にも委縮効果が現れている傾向を感じます。
心理的な支え,としては役員賠償責任保険は有意義です。
7 株主代表訴訟の被告は会社の顧問弁護士以外に自費で依頼する必要がある
<事例設定>
株主代表訴訟が提起された
役員Aは被告とされた
役員Aは,日頃から業務に関してよく会社の顧問弁護士Bに相談していた
そこで役員Aは弁護士Bに訴訟の対応の相談や依頼をしたいと思っている
株主代表訴訟の対立の構造は,原告=会社自体,被告=役員,というものです。
原告=会社,裏にいるのが株主,ということになります。
会社の顧問は,『原告』の顧問です。
被告から依頼を受けると『利益相反』に該当します。
被告からの受任は禁止されています(弁護士職務基本規程28条2号)。
被告の役員個人としては,会社とはそれまで係わりのなかった弁護士に依頼するしかないです。
また,当然この弁護士への依頼は被告個人としての行為です。
会社の経費は使えません。
被告個人が自腹で負担する必要があります。