【著作権者=創作者の判定は難しい|著作者の刻印|XEVIOUSに学ぶ】
1 最初に創作した者=著作権者の判定は難しい
2 『著作者の刻印』が,オリジナリティ=著作権者の証拠となる
3 namcoのXEVIOUS開発現場における『著作者の刻印』
4 『著作者の刻印』手法=創作者を示す痕跡を残す|copyright表記
5 XEVIOUSにおける『著作者の刻印』実装例
6 XEVIOUS×著作権|付随的|ナスカの地上絵・『ソル』という名称
7 参考情報
1 最初に創作した者=著作権者の判定は難しい
『誰が著作権者か』ということが問題になることがあります。
『創作した』と主張する者が複数現れる,という状況です。
要するに『最初に創作した者』が『著作権者』となっているのです。
詳しくはこちら|『著作物』の定義(基本・創作性の判断基準)
この点,複数の者が『最初に創作した』と主張する場合『本当に最初の者』を判定するのは難しいです。
『オリジナル』と『模倣』=複製権侵害,が見た目は酷似・同一,ということになるからです。
『プログラム』についてはコピー・ペーストが容易なので,特に『オリジナルの判断が困難』と言えます。
そこで『創作年月日の登録』は『プログラム』限定で行えることになっています(著作権法76条の2)。
しかし,これを公的な登録以外で実現する方法も編み出されていますので,これを紹介します。
2 『著作者の刻印』が,オリジナリティ=著作権者の証拠となる
創作活動をする者は『オリジナルである=著作権者』ということを分かるようにしておく,と良いでしょう。
『著作者の刻印』というような工夫です。
これにより,後から模倣品について『オリジナルだ』と主張されることを防止できるようになります。
3 namcoのXEVIOUS開発現場における『著作者の刻印』
(1)法律専門家ではなくプログラム開発現場で誕生した
プログラムの著作物について,開発現場の工夫で『著作者の刻印』を実現した実例があります。
その後に登場した『模倣品』との紛争において『著作者の刻印』によって『オリジナリティ』が証明できました。
時代を先取りした,プログラマーの工夫によって『模倣対策』として『著作者の刻印』が生み出されたのです。
プログラム中の注釈(Rem文)として,悪ふざけ・ジョークとしての言葉を盛り込む,という例はそれ以前よりありました。
しかし『表示データや表示させる仕組み』をプログラムに盛り込む,という例はそれまでありませんでした。
(2)隠れキャラ(ソル・スペシャルフラッグ)・隠しコマンドの火付け役
なお,XEVIOUSにおいては,この『盛り込む』手法として『隠れキャラ』や『隠しコマンド』も取り入れました。
当時は画期的であり,その後の多くのゲームで採用されています。
『隠れキャラ』や『隠しコマンド』の火付け役となったのです。
(3)業務命令違反のリスクを超えた
隠れキャラについては,当時,開発の責任者から『採用しない』という方向性が示されていました。
しかし,プログラマーの希望から『機能を消去しない』ままとしていました。
これが開発責任者に発覚し,プログラマーは『バグだ(ミスで消去できていない)』と苦しい説明をしました。
労働法における『業務命令違反』として問題になるはずの状況です。
しかし,最終的には,社内のテストプレーヤーから多くの賛同を集めました。
その結果,開発責任者としても『認めざるをえない』状態となりました。
結局,法律問題にならずに済んだのです。
それどころか『プレイするたびに謎が深まる!』というキャッチコピーとして『隠れキャラ・隠しコマンド』を『売り出す』ことになりました。
<namcoの会社名|注意>
現在では『株式会社バンダイナムコゲームス』となっている
4 『著作者の刻印』手法=創作者を示す痕跡を残す|copyright表記
(1)『著作者の刻印』
『著作者の刻印』の具体的手法は次のようにまとめられます。
<複製権侵害対策『著作者の刻印』|手法>
容易に消去できない,著作者を示す『痕跡』を残す
あ 残すべき『痕跡』|刻印
ア 創作した個人・会社が特定できる情報イ 創作時期を示す情報 例;『namco』『Copyright 1982』などの文字列
い 『残す』方法(痕跡・刻印)
容易に消去できない方法
《ポイント》
模倣者が気付きにくい
→削除することを怠る
(2)copyrightの表記|確定的な効果はない
『copyright』の表記をよく見かけます。
これについては法的に明確な規定があるわけではありません。
<copyrightの表記の意義>
あ 表記の例
ア (C)マーク(Cを◯で囲んだもの)イ 『Copyright (C) 2015 *** All rights reserved』
い 法的な意味|『無方式主義』
法的な確定的効果はない
特許権などと違い,著作権は登録・表記などの形式は必要ではない
『無方式主義』と呼ばれる
う 典型的な使用シーン
ア ゲーム(プログラム・プロダクト画面)イ ホームページウ 書籍
(C)マークについては,条約上に規定があります。
<万国著作権条約|Cマーク>
著作権について『方式主義』を採用する加盟国の『共通様式』を規定している
共通様式=(C)の記号・著作権者の名・最初の発行の年の記載
しかし,日本を含めてほとんどの加盟国は『無方式主義』を採用しています。
結果的に『共通様式の表記』は法的な意味はほとんどありません。
前述のとおり『著作者を認定する事情の1つ』という位置付け,ということになります。
5 XEVIOUSにおける『著作者の刻印』実装例
(1)XEVIOUSにおける『著作者の刻印』
この手法について,XEVIOUSにおける具体例を挙げて説明します。
<XEVIOUSにおける『著作者刻印』実装例>
あ 森の中に『namco』の文字列|データ
地上の模様(森)の中に『namco』という文字を表示させた
『エリア7』の最後の部分=『エリア8』が始まる少し手前
《工夫ポイント》
ア 周囲の『森』と文字列の色が同系色→迷彩効果→見付けにくいイ 当該シーンで,プレイヤーが『敵機からの攻撃回避』に専念する設計
『テラジ』が大量に『遅いスパリオ』を放つ
→プレイヤーが長時間逃げまわることに専念する
ウ 当該シーンの多少手前で『ミス』すると当該シーンがスキップされる
『エリア7』の3分の2以上通過後のミス→『エリア8』から始まる=『namco』見えない
『エリア8』の3分の2経過前のミス→『エリア8』の最初から始まる=『namco』見えない
い 特定の操作で『DEAD COPY』が表示される
プログラムを変更した場合に,特定の操作により『不正』であることを表示する機構
特定の操作=『トリガー』が巧妙に思い付かない方法であった
《トリガーの内容(次の両方)》
ア 特定の場所にブラスター(対地ミサイル)を撃ちこむイ タイトル画面に『namco』の文字列が存在しない
(2)XEVIOUS正規品vs模倣品
XEVIOUSの開発後,予想どおり,模倣品が登場しました。
模倣品作成者も,『著作者の刻印』に気付けば,当然削除します。
登場した2種類の模倣作品における『結果』をまとめます。
<XEVIOUSの『著作者刻印』成功例>
模倣作品 | 森のなかの『namco』 | ブラスター命中による『DEAD_COPY』 |
XEVIOS(Uを抜かした) | 解除(削除)された | 解除(削除)できず |
BATTLES | 解除(削除)できず | 解除(削除)された |
結果的に,2つの模倣品ともに,2つの『刻印』のうち,片方の抹消は成功しましたが,もう片方は抹消に成功できませんでした。
結局,『オリジナリティ証明による模倣品(複製権侵害)であることの認定』が可能となったのです。
(3)『敵が逃げる』というXEVIOUSのコンセプトは『模倣者』も含む
<XEVIOUSのコンセプト>
あ 革新的なコンセプト
『敵が逃げる』というもの
↑『敵も意思を持っている』
い それ以前のシューティングゲームの『常識』
敵は基本的に止まっている・定位置がある
↑あたかも『撃たれるために存在する』『的としての存在』
例;スペース・インベーダー,ギャラクシアン・ギャラガ
このように,当時のXEVIOUSの『敵が意思を持っていて,逃げる』ということは画期的なものでした。
このコンセプトには『模倣者という敵が逃げる』ということも含まれていたのかもしれません。
謎が深まる思いです。
6 XEVIOUS×著作権|付随的|ナスカの地上絵・『ソル』という名称
(1)ナスカの地上絵の描写は著作権侵害にならない
XEVIOUSでは,背景(地上)に,『地上絵』が登場します。
ペルー共和国のナスカの地上絵に類するものです。
ナスカの地上絵は,地上の石をどかすことによって,上空から『色の違い』として見えるというものです。
一般的には『絵』として著作物となり,無断の複製は違法となります。
この点,ナスカの地上絵は創作者が特定できていません。
また,放射性炭素年代測定(C14)により,約1500年前に創作されたことが分かっています。
創作者不明・期間制限を大幅に超過している,という理由から『著作権の対象』とは言えません。
ゲームの背景として使用しても『著作権違反』の問題は生じません。
(2)『ソル』『ソルバルウ』と通貨単位『ソル』の一致は法律問題を生じない
XEVIOUSのキャラクターとして『ソル』という文字列が登場します。
<XEVIOUSのキャラクターの例>
ソル | 研究施設・隠れキャラ |
ソルバルウ | プレイヤーの自機;『太陽の鳥』の意味 |
一方,ペルー共和国の通貨単位は『ヌエボ・ソル』です。
名称が通貨単位と重複しています。
この点,通貨単位は『芸術』などには該当しません。
そこで『著作権』の対象にはなりません。
結果的に法的な問題は生じません。
7 参考情報
以上の内容に関する参考情報をまとめておきます。
<参考情報>
あ THEナムコブック(書籍)
成沢大輔『THEナムコブック』JICC出版局1991年