【対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本】

1 対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本
2 対抗要件の種類(概要)
3 対抗関係に立つ『第三者』の範囲(概要)
4 『対抗関係』の意味
5 対抗関係となるかならないかの具体例(概要)
6 2重譲渡(売買)における対抗関係の具体例
7 建物の賃借人(賃借権)の対抗関係の例
8 競売などの対抗要件獲得時点
9 登記を行う義務はない(概要)
10 対抗関係の論理的説明(概要)
11 登記の有効要件(概要)
12 背信的悪意者の対抗力の否定(概要)
13 不動産登記の推定力(概要)
14 2重譲渡・2重抵当の刑事責任(概要)

1 対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本

不動産を始めとして,多くの財産・権利について,対抗要件という制度があります。
権利を持つ者が重複する(複数いる)という状況で権利の帰属を決めるためのルールです。対抗要件にはいろいろなものがありますが,実際に使われるのは不動産登記です。
本記事では,対抗要件(登記)の制度の基本的事項を説明します。

2 対抗要件の種類(概要)

対抗要件のうちよく登場するのは不動産登記ですが,それ以外の権利についても対抗要件があります。対抗要件の種類については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|対抗要件の種類のまとめ(いろいろな権利の対抗要件)

3 対抗関係に立つ『第三者』の範囲(概要)

民法177条のルールを簡単にいうと,物権を取得しても登記を得ないと物権取得を主張できないということになります。しかしそれは第三者との関係だけなので,取引などの当事者にはこのルールは適用されません。さらに,解釈として正当の理由がある者(第三者)との関係だけでしかこのルールは適用されません。
要するに,民法177条の『第三者』には一定の制限があるのです(通説的見解を前提とします)。

<対抗関係に立つ『第三者』の範囲(概要)>

あ 条文

不動産に関する物権の得喪及び変更は,不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ,第三者に対抗することができない。
※民法177条

い 『第三者』の範囲(解釈)

『第三者』とは,『ア・イ』のいずれにも該当する者である
ア 当事者もしくはその包括承継人以外の者イ 登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者 ※大連判明治41年12月15日
詳しくはこちら|民法177条の適用範囲(『第三者』の範囲・登記すべき物権変動)の基本

4 『対抗関係』の意味

前記の『第三者』に対して物権変動を主張するためには登記が必要ということになります。このように登記が必要な状態のことを,対抗の問題とか,対抗関係(にある)といいます。

<『対抗関係』の意味>

物権変動をめぐる紛争について,登記がなければ当該物権変動を『第三者』に対抗することができないという結論を承認するかどうかという問題が,『対抗の問題』である。
この結論を承認した場合,この紛争は『対抗問題』である,あるいは,紛争当事者は『対抗関係にある』,といわれる
※舟橋諄一ほか編『新版 注釈民法(6)物権(1)補訂版』有斐閣2009年p502

5 対抗関係となるかならないかの具体例(概要)

具体的にどのような関係に立つ者が対抗関係になるのか,つまり,民法177条の『第三者』に該当するかどうか,という判断は複雑になることもあります。いろいろな状況についての対抗関係になるかどうかという判断については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|対抗関係(登記欠缺の正当な利益を有する第三者)にあたるかの判断の具体例

6 2重譲渡(売買)における対抗関係の具体例

対抗関係となる状況の典型例は2重譲渡です。この場合にどのように対抗要件(登記)が使われるのか,について具体例で示します。
結果的に登記を得た方が所有権を得られることになります。

<2重譲渡(売買)における対抗関係の具体例>

あ 2重譲渡(売買)の例

第1売買 A→B
第2売買 A→C

い 対抗関係

BとCは対抗関係にある

う 優劣の判断

B・Cのうち,先に『売買登記(所有権移転登記)』を得た方が所有権を得る
※民法177条

7 建物の賃借人(賃借権)の対抗関係の例

対抗関係が生じるのは『別の取引(種類)』ということもあります。
典型的なのは『売買と賃貸借』です。

<建物の賃借人(賃借権)の対抗関係の例>

あ 対抗関係
当事者 対抗要件
建物の譲受人(買主) 売買登記
建物の賃借人 賃借権登記or引渡
い 優劣

先に『対抗要件』を備えた方が優先となる

仮に『賃借権登記or引渡』が先,という場合は,賃借権が優先となります。
その結果,買主は『所有権』を得ることは問題ないですが『賃貸借が存在したまま』となります。
要するに『賃貸人』という立場も承継する,ということになります。
建物賃借権の対抗要件の内容は別記事で説明しています(リンクは末尾記載)。

8 競売などの対抗要件獲得時点

対抗関係の判断は『対抗要件の順序』で結論が決まります(前述)。
『対抗要件を得たタイミング』が非常に重要なのです。
一般的な売買の場合『対抗要件を得た時期』は『売買による所有権移転登記』がなされた時点,です。
これは単純ですが,ちょっと間違えやすいものもあります。

<競売などの対抗要件獲得時点>

あ 対抗要件獲得時点のまとめ
通常の売買による取得 売買の登記の時点
担保権実行に基づく競売による取得 『抵当権設定登記』の時点
一般的な差押に基づく競売による取得 『差押登記』の時点
破産管財人による競売・任意売却による取得 『破産手続開始決定』の時点(※1)
賃貸借契約による賃借権取得(後記『6』) 『賃借権登記(or代替対抗要件)』の時点
い 注記

※1 『破産開始決定』の時点,について
『破産開始決定』の『登記』ではなく『決定された日時』となる
※破産法47,48,49条
※『大コンメンタール破産法』青林書院p192

9 登記を行う義務はない(概要)

対抗要件は,あくまでも権利を持つ者が保護される制度です。
登記などの対抗要件の制度を利用するかどうかは法律上は自由です。
もちろん,現時点では不動産の所有権の公示として,常識的には登記は必須と言えます。
なお『登記』の中でも直接的な『対抗要件』ではないものもあります。
例えば不動産の表示登記法人登記です。
これらについては法律上,一定期限までに記を行う義務があります。
詳しくはこちら|不動産登記申請の基本|申請義務・所要時間・登録免許税

10 対抗関係の論理的説明(概要)

登記を得ないと物権変動を主張できないルール自体は簡単ですが,なぜそうなるのか,という論理的な説明は意外と複雑です。このルール(対抗関係)の論理的説明の説のバリエーションについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|対抗関係の論理的説明の種類(不完全物権変動説など)

11 登記の有効要件(概要)

以上のように登記によって優劣を決めるというのは登記が有効であることが前提です。特殊な事情があると,登記が無効となります。つまり,登記による対抗力が認められないということです。その場合は,登記を得ても確定的な権利(所有権など)を得られないことになります。
登記の有効要件については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|登記の対抗力の有効要件の全体像(形式的有効要件と実質的有効要件の内容)

12 背信的悪意者の対抗力の否定(概要)

以上のように,対抗関係に立つ者同士は,対抗要件(登記)を得た方が優先されるという単純なルールが適用されます。
しかし,特殊な事情があると,例外的に登記を得ていても対抗力が否定されることがあります。背信的悪意者を排除する理論です。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|登記を得た者の主観による対抗力への影響(背信的悪意者排除理論)

13 不動産登記の推定力(概要)

以上のように,不動産登記があると対抗力が得られるというのが非常に重大な法的効果です。これとは別に,不動産登記があることによって権利の存在が推定されるという効果も生じます。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産登記の推定力(法的位置づけや推定の範囲の見解のバラエティ)

14 2重譲渡・2重抵当の刑事責任(概要)

以上は,2重に権利を譲渡したり,担保権を設定した場合の民事的な扱いの説明でした。
一方,このような行為は刑法上,横領罪や背任罪に該当することがあります。
詳しくはこちら|2重譲渡や2重抵当による刑事責任(横領罪・背任罪の成立)
しかし,登記申請が虚偽という扱いにはならないので,公正証書原本不実記載等罪は成立しません。
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の成立を認めなかった判例の集約

本記事では,対抗要件の基本的な機能・理論を説明しました。
実際の対立状態については,他の細かい規定や解釈によって結論が異なります。
実際の権利の対立の問題に直面されている方は,本記事の内容だけで判断せず,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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