【医師の行政処分|医道審議会が公表した『量刑の目安』】

1 医師の行政処分|医道審議会による『量刑の目安』
2 医道審議会の目安|共通事項|司法処分の量刑と比例させる
3 医道審議会の目安|『重い処分』/『重めの処分』
4 『目安』|医療業務+付随行為関連|医師法・看護師・薬品・薬物に関する法律違反
5 『目安』|粗暴犯・交通事犯・医療ミス・猥褻系
6 『目安』|贈収賄・詐欺・税法違反・診療報酬不正請求(受給)

1 医師の行政処分|医道審議会による『量刑の目安』

医師の行政処分の内容・量刑を実質的に『決定』しているのは医道審議会です。
当然,医道審議会の判断は非常に責任が重い→負担の大きな業務です。
そこで,公平性・透明性をより高めるために,『量刑』の基準を公表しています。
当然,個別的事情による影響が大きいので,『類型化』は,ある程度おおまかなものです。

<医道審議会による行政処分の『量刑』の目安>

『医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について』
平成24年3月4日改正
医道審議会医道分科会

この『医道審議会の目安』の内容について,次に説明を進めます。
まず,ここで示されているのは『刑事手続で処罰された』という事例が対象です。
実際の医師の行政処分の大部分は『刑事手続』の後に行なわれているのです。

2 医道審議会の目安|共通事項|司法処分の量刑と比例させる

最初に,『医道審議会の目安』の共通事項をまとめます。

<医道審議会の目安|共通事項>

司法処分の量刑を参考にする

要するに刑事裁判の判決として言い渡されて確定した『刑罰の量刑』を参考にする,というものです。
当然,刑事責任の大きさと行政処分の重さのバランスを取る=比例させる,という趣旨です。
これ自体は当然と言えるものです。

3 医道審議会の目安|『重い処分』/『重めの処分』

『医道審議会の目安』は,次に『対象行為をカテゴリ分け』して,目安を整理しています。
ただし肝心の『目安』はかなり大雑把です。
基本的に『2つのレベル』(2段階)で示されているのです。
『重い処分』と『重めの処分』です。
言葉自体が分かりにくいですが,実際の処分事例との相関関係から,次のように整理できます。

<医道審議会の目安|レベル分け>

『重い処分』 免許停止〜医業停止1年
『重めの処分』 医業停止2年〜3か月

あくまでもこの対応関係は『目安』です。
当然,個々の事例では個別的事情・特殊事情が影響してきます。
この範囲から外れることもよくあります。

4 『目安』|医療業務+付随行為関連|医師法・看護師・薬品・薬物に関する法律違反

以上を前提に,処分対象行為の類型別の『目安』を説明します。
『医道審議会の目安』とともに,過去の処分実績のうち該当する類型の情報も紹介します。

(1)医師法・歯科医師法違反

<医師法・歯科医師法違反>

あ 医道審議会の目安

重い処分

い 具体例

ア 無資格医業イ 無資格歯科医業の共犯ウ 無診察治療

<平成26年処分統計>

あ 医師法違反

ア 医業停止1年×1件イ 医業停止3か月×1件

(2)保健師助産師看護師法・その他の身分法違反

<保健師助産師看護師法・その他の身分法違反>

あ 医道審議会の目安

重い処分

い 具体例

無資格者の関係業務の共犯など

(3)薬事法違反

<薬事法違反>

あ 医道審議会の目安

重い処分

い 具体例

医薬品の無許可販売又はその共犯など

(4)違法薬物使用など

<違法薬物使用など>

あ 医道審議会の目安

重い処分

い 具体的『法律違反』

ア 麻薬及び向精神薬取締法違反イ 覚せい剤取締法違反ウ 大麻取締法違反

う 具体例

麻薬・向精神薬・覚せい剤・大麻の不法譲渡・不法譲受・不法所持・自己施用

<平成26年処分統計>

あ 覚せい剤取締法違反

ア 免許取消×1件イ 医業停止3年×2件ウ 医業停止2年×2件

い 大麻取締法違反

ア 免許取消×1件イ 医業停止1年6月×1件

う 麻薬取締法違反

ア 医業停止3年×1件

5 『目安』|粗暴犯・交通事犯・医療ミス・猥褻系

(1)粗暴犯(殺人・傷害)

<粗暴犯(殺人・傷害)>

あ 医道審議会の目安

ア 殺人・傷害致死といった悪質な事案 →重い処分
イ その他の暴行・傷害など →次の事情を考慮して判断する
《考慮事情》
・医師としての立場や知識を利用した事案かどうか
・事犯に及んだ情状など

い 具体例

殺人・殺人未遂・傷害(致死)・暴行

<平成26年処分統計>

あ 殺人

ア 免許取消×1件

い 傷害致死

イ 免許取消×1件

う 傷害

ア 医業停止2年×1件イ 医業停止1年×2件

(2)交通事犯

<交通事犯>

あ 医道審議会の目安

ア 基本的には戒告イ 救護義務を怠ったひき逃げなどの悪質な事案 →医師としての倫理が欠けていると判断される場合には,重めの処分

い 具体例

ア 業務上過失致死イ 業務上過失傷害ウ 道路交通法違反

<平成26年処分統計>

あ 危険運転致傷

ア 医業停止2年×1件

い 道交法違反

ア 医業停止9か月×1件イ 医業停止4か月×2件ウ 医業停止3か月×1件

う 自動車運転過失傷害

ア 医業停止1年×1件イ 医業停止8か月×3件ウ 医業停止6か月×1件エ 医業停止2か月×1件オ 医業停止1か月×1件

(3)医療過誤

<医療過誤>

あ 医道審議会の目安

ア 医師として通常求められる平均的注意義務が欠けている場合 →重めの処分
《平均的注意義務を欠く例》
・明らかな過失による医療過誤
・繰り返し行われた過失
イ 他の要因が存在する場合 次の事情を考慮して,処分の程度を判断する
・病院の管理体制・医療体制
・他の医療従事者における注意義務の程度
・生涯学習に努めていたかなど

い 具体例

ア 業務上過失致死イ 業務上過失傷害

<平成26年処分統計>

あ 業務上過失致死

ア 医業停止3か月×1件

い 業務上過失傷害

ア 医業停止1年×1件イ 戒告×3件

(4)猥褻行為

<猥褻行為>

あ 医道審議会の目安

診療の機会に医師としての立場を利用した場合
→重い処分

い 具体例

ア 強制猥せつイ 売春防止法違反ウ 児童福祉法違反エ 青少年育成条例違反

<平成26年処分統計>

あ 強制わいせつ

ア 免許取消×3件イ 医業停止3年×1件

い 準強制わいせつ

ア 免許取消×2件

う 青少年育成条例違反

ア 医業停止3か月×1件

え ストーカー規制法違反

ア 医業停止3年×1件

お 迷惑防止条例違反

ア 医業停止3か月×5件

6 『目安』|贈収賄・詐欺・税法違反・診療報酬不正請求(受給)

(1)贈収賄

<贈収賄>

あ 医道審議会の目安

特に医師としての地位や立場を利用した事犯など悪質と認められる場合
→重めの処分

い 具体例

ア 収賄罪イ 贈賄罪

(2)詐欺・窃盗・虚偽診断書作成

<詐欺・窃盗・虚偽診断書作成>

あ 医道審議会の目安

ア 医師としての立場を利用した虚偽診断書の作成・交付+詐欺の場合 →重い処分
イ 医師としての立場を利用した虚偽公文書作成(のみ)の場合 →重めの処分

い 具体例

ア 詐欺罪イ 詐欺幇助罪ウ 虚偽診断書作成罪

<平成26年処分統計>

あ 詐欺

ア 医業停止3年×5件イ 医業停止2年×1件

い 窃盗

ア 医業停止3か月×1件イ 医業停止1か月×1件

(3)税法違反

<税法違反>

あ 医道審議会の目安

診療収入に係る脱税など医業・歯科医業に係る事案
→重めの処分

い 具体例

ア 所得税法違反イ 法人税法違反ウ 相続税法違反

<平成26年処分統計>

あ 相続税法違反

ア 医業停止3か月×1件

(4)診療報酬の不正請求

<診療報酬の不正請求>

あ 医道審議会の目安

ア 原則 診療報酬の不正請求により保険医の取消を受けた場合
→不正の額の多寡に関わらず,一定の処分とする
イ 悪質性が高い 特に悪質性の高い事案の場合には,それを考慮した処分の程度とする
ウ 検査拒否 健康保険法等の検査を拒否して保険医の取消を受けた場合
→より重い処分

い 具体例

ア 診療報酬不正請求イ 検査拒否 (保険医等登録取消)

<平成26年処分統計>

あ 診療報酬不正請求

ア 医業停止3か月×8件

い 健康保険法に基づく検査の拒否

ア 医業停止6か月×1件

(5)その他の類型

『医道審議会の目安』はここまでですが,医師の行政処分統計のうち,以上のカテゴリに含まれないものを示しておきます。

<平成26年処分統計>

あ 名誉毀損

ア 医業停止3か月×2件

い 公務執行妨害

ア 医業停止1年×1件

う 犯人隠避

ア 戒告×1件

<平成26年処分統計>

平成26年の処分結果から集計したもの
複数が該当する場合→分類上メインの罪名だけでカウントした

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