【従来方式の中間省略登記の内容と違法性(裁判例の歴史)】
1 従来方式の中間省略登記の内容と違法性
2 中間省略登記の発想(コスト削減)
3 従来方式の中間省略登記の違法性の判断の歴史
4 中間省略登記の抹消登記の請求(昭和35年判例)
5 中間省略登記を求める請求(昭和40年判例)
6 従前方式の中間省略登記の申請の却下
7 中間省略登記代替的手法・信託受益化した売買(概要)
8 登記を単純化することによるコスト削減効果(概要)
1 従来方式の中間省略登記の内容と違法性
同じ不動産について取引(売買)が繰り返されることがあります。転売のことです。
この場合に,登記を1回だけで済ませてコストを削減する発想があります。いわゆる中間省略登記です。
中間省略登記は実体と異なる内容の登記申請なので違法です。
本記事では,中間省略登記の内容(方法)と,違法と判断した裁判例を紹介します。
2 中間省略登記の発想(コスト削減)
もともと,中間省略登記は転売のケースにおいて,手間やコストの削減のために実務で生まれた手法です。真実(実体)と登記の一致を無視すれば合理的な方法です。
<中間省略登記の発想(コスト削減)>
あ 発想
不動産が,A→B→Cと,順次売却(転売)された
中間のBを省略して,A→Cと直接所有権移転登記を行いたい
このようにして手間,コストを削減したい
い コストの内容
ア 登録免許税
所有権移転登記を行う際の登録免許税
イ 不動産取得税ウ 登記手続に要するのコスト
司法書士の報酬など
3 従来方式の中間省略登記の違法性の判断の歴史
中間省略登記は,単純に実体と異なる内容の登記申請であるため違法です。
平成16年の不動産登記法の改正以前は,登記官は形式的審査権限しか持っていませんでした。そこで,実体と合致しない登記申請でも現実には通ってしまったのです。
実際に登記申請が受理されて登記が実行されていたので,適法な工夫(手法)だという誤解まで生まれていました。
本当は,過去でも今でも違法です。実際に何らかの事情で中間省略登記の違法性を裁判所が判断することになったケースでは違法という判断がなされていました。
なお,刑法上の公正証書原本不実記載等罪にあたるかどうかについては判断が分かれています。
<従来方式の中間省略登記の違法性の判断の歴史>
あ 従来方式の中間省略登記
数次の所有権移転について,登記名義人であった最初の所有権者から,中間の移転登記を省略して,最後の所有権取得者に対して直接に所有権を移転したように申請し,登記官をして,登記簿にその旨を記載させる方法
い 大正初期まで(民事)
民事上は,かつて無効とされた
その後,有効とされるに至った
※大判大正5年9月12日
う 大正初期(刑事)
刑事上は公正証書原本不実記載等罪にあたるとの判決がなされている
※大判大正8年12月23日
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の基本(条文と公正証書の意味)
え 昭和20年代(刑事)
公正証書原本不実記載等罪は成立しない扱いとなった
※東京高裁昭和27年5月27日
※東京高裁昭和56年8月25日(同趣旨)
判例は変更されたと解されている
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第3版 第8巻』青林書院2014年p187
お 昭和30〜40年頃(民事)(概要)
中間省略登記の登記としての効力や登記請求権について
限定的に認める判断がなされた(後記※1,2)
か 平成20年(行政)
現在では,中間省略登記の申請は却下されている(後記※3)
※東京高裁平成20年3月27日
4 中間省略登記の抹消登記の請求(昭和35年判例)
中間省略登記の民事的な判断が示された判例を紹介します。
まずは,すでになされた中間省略登記を抹消することが請求された判例です。中間省略登記は物権変動の過程が実体と異なる意味では不適法であるため,抹消すべきであるという考え方もあります。
しかし,最高裁は,中間者に抹消登記を求める正当な理由がない場合には抹消登記を認めないという判断を示しました。結果(現在の権利の帰属)自体については実体と一致しているので,不正とはいえすでになされた登記を維持する結果になったといえるでしょう。
<中間省略登記の抹消登記の請求(昭和35年判例・※1)>
あ 事案
ア 最初の状態
Aの所有であり,登記もそのとおりであった
イ 実体
所有権が,A→B,B→Cと順次移転した
ウ 登記
A→Cの所有権移転登記
Bの同意はなかった
エ 登記の請求
BがCに対して抹消登記を請求した
い 裁判所の判断
中間者(B)が,中間省略登記の抹消登記を求める正当な理由を欠く時は,抹消請求を認めない
※最高裁昭和35年4月21日
なお,これと同様に,登記上の物権変動は不正(虚偽)だが,権利の帰属は実体と完全に一致しているというケースについて抹消請求を否定した判例もあります。中間省略登記ではないですが,参考になります。
詳しくはこちら|物権変動は不実だが権利の帰属は正しい登記の抹消請求(昭和43年最高裁)
5 中間省略登記を求める請求(昭和40年判例)
次に,まだ移転登記がなされていない状況において,新たに中間省略登記をすることを請求することについて判断された判例を紹介します。
実体上はA→B→Cと移転したけれど,登記は何もされていない(登記上はA所有のまま)という状態でした。
最高裁は,中間省略登記の請求を全面的に否定したわけではありませんでした。AとBの同意がないことを理由に否定しました。つまり,AとBの同意を条件に中間省略登記を求めることを認めたといえます。
<中間省略登記を求める請求(昭和40年判例・※2)>
あ 事案
ア 最初の状態
Aの所有であり,登記もそのとおりであった
イ 実体
所有権が,A→B,B→Cと順次移転した
ウ 登記
Aの所有登記のままである
エ 登記の請求
CがAに対して直接Cへの所有権移転登記を請求した
い 裁判所の判断
AおよびBの同意がない限り認めない
※最高裁昭和40年9月21日
6 従前方式の中間省略登記の申請の却下
以上のように,裁判所の判断としては,中間省略登記をすること自体を限定的に(条件つきで)認めているといえます。
一方,法務局の判断は裁判所と同じというわけではありません。
中間省略の登記申請を法務局が却下したというケースにおいて,平成20年の東京高裁の裁判例は,法務局の処分を適法と判断しました。この判決により,実務の中で,中間省略登記を申請することが抑制されることになりました。
<従前方式の中間省略登記の申請の却下(※3)>
あ 中間省略登記の申請
(従来方式の)中間省略登記の申請がなされた
い 登記官による却下
登記官は申請却下した
却下事由=申請情報の内容と登記原因証明情報の内容とが合致しない
※不動産登記法25条8号
う 裁判所の判断
登記申請を却下した処分は適法である(原審を維持した)
※東京高裁平成20年3月27日
7 中間省略登記代替的手法・信託受益化した売買(概要)
前記のように,中間省略登記は,手間やコストを削減するために行われるものでした。
登記申請を簡略化してコストを下げる方法で適法なものもあります。中間省略登記代替的手法(新中間省略登記)と呼ばれる方法です。中間者への所有権移転が生じないように取引を工夫するという仕組みです。
詳しくはこちら|中間省略登記代替的手法(新中間省略登記)の内容や認める公的見解と誤解
これとは別に,不動産を信託受益権に変えて,信託受益権を売買する方法も,大きなコスト削減効果があります。
詳しくはこちら|不動産を信託受益権化した売買によるコスト削減
8 登記を単純化することによるコスト削減効果(概要)
従来方式の(違法な)中間省略登記でも,適法な中間省略登記代替的手法でもコストは下がります。
コストの中でも大きな税金の削減(節税)の効果については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|中間省略登記代替的手法による税金(コスト)削減効果
本記事では,従来方式の中間省略登記について説明しました。
実際に行うと違法になってしまうので,工夫して適法な方法をとる必要があります。
実際に登記の方法を簡略化してコストを削減することを検討されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士や司法書士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。