【マーケットメカニズムの基本|自由経済・商品流通の最適化・供給者の新陳代謝】

1 自由主義経済|経済的自由権の保障・職業選択の自由
2 自由主義経済・市場原理主義|マーケットメカニズムの活用→公平+繁栄
3 マーケットメカニズムの機能|商品・サービス流通の最適化
4 マーケットメカニズムの機能|供給業者の淘汰=新陳代謝
5 マーケットメカニズムの機能不全|市場の失敗
6 『不完全競争』に政府が介入→『公正な競争』の実現|独占禁止法
7 事業に関する法規制→裁判所が無効にできる|違憲立法審査権
8 マーケットメカニズムの機能を止めて既得権維持=ラッダイト
9 マーケットメカニズム×法解釈→弁護士の案件処理最適化

1 自由主義経済|経済的自由権の保障・職業選択の自由

自由経済・マーケットメカニズムは,社会経済の基本方針です。
このことを,憲法との関係を踏まえて説明します。

<憲法における社会経済の基本ルール>

あ 経済活動の自由;29条
い 営業の自由;22条1項

『職業選択の自由』からの派生とされている

対立する概念である『社会主義・計画経済』について概要をまとめておきます。

<社会主義・計画経済|参考>
需要供給を国家(政府)が統制する制度
→世界全体で壮大な実証実験が行われた
→一般には,自由市場経済の合理性が認められている

2 自由主義経済・市場原理主義|マーケットメカニズムの活用→公平+繁栄

<経済活動の自由の背後にある主義>

あ 市場原理主義(Market fundamentalism)

マーケット(市場)への不要な政府の介入を排除する
マーケットメカニズム(市場原理)活用した経済運営
→国民に最大の公平と繁栄をもたらす

い 派生的な方針

ア 可能な限り民間に委ねる=小さな政府イ 政府の市場介入は最小限 社会的弱者保護・消費者保護など適切な範囲に限って介入する

3 マーケットメカニズムの機能|商品・サービス流通の最適化

市場原理・マーケットメカニズムにより社会経済の最適化が実現します。
メカニズムの内容をまとめます。

<マーケットメカニズムの機能>

あ 基本法則

商品・サービスの『需要vs供給バランス』によって『販売価格』が決まる
例え;『神の見えざる手による調整』

い 事業者・消費者の行動原則

ア 事業者(企業・個人事業主) 『利益』が最大となる判断を行う
イ 消費者 同じクオリティならば最も安いものを選ぶ

う 最適化メカニズム

事業者は商品・サービスの『クオリティ向上』『低コスト』(≒低価格)を競争する

消費者の受ける利益が最大化する
事業者の『やりがい』が最大化する

社会の得る『利益』の最大化=社会経済の「最適化」

4 マーケットメカニズムの機能|供給業者の淘汰=新陳代謝

(1)進化生物学の『自然淘汰理論』

マーケットメカニズムの作用が及ぶのは商品・サービスの販売という面だけではありません。
『供給者の淘汰』という現象も生じます。
これは,進化生物学の『自然淘汰理論』と同様のものです。

<進化生物学|自然淘汰原理>

あ 自然淘汰原理

繁殖成功度のより高い生物の子孫によって個体群が占められる現象
=DNAプール内のシェアの拡大

い 『変化への対応』という観点

変化に対応するものが生き延びる
環境に適さないDNAは滅びる

う 壊滅的被害→その後,大きな進化が生じる

詳しくはこちら|ビジネスプレイヤーの新陳代謝×地球の歴史・生物種の進化|恐竜絶滅・全球凍結

(2)社会経済における『淘汰』

この自然淘汰理論が社会経済でも生じるのです。

<社会経済における『淘汰』>

企業は利益の維持ができないと存続できない

生産性・効率性の高い企業は存続する
生産性・効率性の低い企業が退出する

(3)『淘汰』現象の例外

なお,この『理論の転用』には異説もあります。

<社会経済×『自然淘汰理論』|異説>

平成10年の金融危機の時期においては『逆転現象』が生じていた
※西村清彦ほか『市場の自然淘汰は機能しているか―1990年代の日本経済からの教訓―東洋経済新報社

これは異論というよりも,特定条件下における特殊な現象として理解されているようです。
いずれにしても,現象としては社会経済でも『淘汰』が生じていると言えましょう。

5 マーケットメカニズムの機能不全|市場の失敗

マーケットメカニズムは良い効果ばかりと思えますが,例外もあります。
マーケットメカニズムがうまく働かないケースを『市場の失敗』と呼んでいます。

<市場の失敗|代表例>

あ 独占・寡占

不完全競争により生じる

い 外部性の存在

ア 正の外部性→過少供給イ 負の外部性→過大供給 例;公害

う 情報の非対称性

『レモンの市場』現象など(※1)

え 公共財の存在

例;フリーライダー→過少供給

お 失業
か 市場の欠落
き 不確実性

→リスク回避的な供給者による過少供給

く 費用逓減産業

巨大な固定費のかかる産業→供給曲線が『右下がり』となる
典型例=電力供給業
※伊藤元重 『はじめての経済学(上)(下)』 日本経済新聞社
※田中秀臣 『日本型サラリーマンは復活する』 日本放送出版協会
※1 『レモンの市場』現象は別記事に説明あり
詳しくはこちら|業法・法規制の目的=情報の非対称性解消→サービスクオリティ確保|IT化→不要方向

『市場の失敗』のうち『独占・寡占=不完全競争』についてはいろいろな『対策』があります。
次に説明します。

6 『不完全競争』に政府が介入→『公正な競争』の実現|独占禁止法

マーケットメカニズムの機能を活かすためには『公正な競争』の実現が必要です。
しかし『市場の失敗』の1つとして『不完全競争』が生じることがあります。
これを回避・解消するために人為的な対応をすべきです。

<公正な競争の実現|人為的市場介入>

あ 公正な競争を維持する方法

不当な取引・協定などを防止・禁止する

い 具体的なルール|代表例

ア 独占禁止法イ 刑法(犯罪)

<禁止される『市場妨害行為』>

あ 協定類;ギルド系

一定の取引をしない旨の協定
→独占を確立・維持することにつながる

い カルテル・トラスト・コンツェルン

価格・商品供給量などの『協定』など
ただし『コンツェルン』は日本では平成10年に解禁された
《適法化されたコンツェルンの名称例》
『ホールディングス(HD)』
『グループ本社』
『フィナンシャル・グループ』

このように政府が市場に一定の介入をして『公正な競争』を維持しています。
具体的には独占禁止法のルールと,取り締まりなどの運用を行う公正取引委員会のことです。

7 事業に関する法規制→裁判所が無効にできる|違憲立法審査権

上記のとおり,『自由経済』とは言っても,一定の範囲で政府の介入を必要とします。
一般的なものは『政府の介入を規定する法律』『事業に関する法規制』です。
このような法律自体の『合憲性』が争われることもあります。
『違憲』である場合,裁判所が法令を無効にすることができます。
これについては別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|人権基本・違憲立法審査権|違憲審査基準|経済的自由権×目的2分論
詳しくはこちら|違憲判決・法令無効→産業化・マーケット形成=実質的立法作用|具体例

8 マーケットメカニズムの機能を止めて既得権維持=ラッダイト

マーケットメカニズムは全体最適を実現する一方『特定のクラスタに不利益』となります。
具体的には『淘汰』つまり廃業を迫られる者にとっては『脅威』でしかありません。
そこで『新テクノロジーの阻止・破壊』という事件が生じることがあります。
また,現代では『法律・行政的なルールによる新テクノロジー阻止』という動きも活発化しています。
このような動きを『ラッダイト運動』『ネオラッダイト運動』と呼んでいます。
これらについては別記事に移しました。
詳しくはこちら|マーケットの既得権者が全体最適妨害|元祖ラッダイト→ネオ・ラッダイト

9 マーケットメカニズム×法解釈→弁護士の案件処理最適化

以上のようなマーケットメカニズムが稼働しているのは,商品・サービスの取引マーケットだけではありません。
例えば労働マーケットでもマーケットメカニズムは稼働しています。
労働法を中心に,法解釈の中でも使われることがよくあります。
弁護士としてもマーケットメカニズムの理解は『案件処理の最適化』には必要なのです。

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