【共有持分の買戻特約付売買×共有物分割|買戻しの対象・分割の通知】

1 共有持分×買戻特約スキームでの融資|全体
2 共有持分の買戻特約×共有物分割|買戻権の処理
3 買戻権者×共有物分割への参加
4 分割の通知|受けていない買戻権者の保護
5 買主による『全体の取得』×買戻権

1 共有持分×買戻特約スキームでの融資|全体

不動産を担保にして融資を行う方式はいくつもあります。
詳しくはこちら|担保の種類・全体像|典型担保・非典型担保|実行の要件
融資の方法(スキーム)の1つとして『買戻特約付売買』というものがあります。
詳しくはこちら|買戻特約は非典型担保として使われる|設定・登記・実行・代位行使の方法
ここで,担保にする不動産が『共有持分』という場合は,ちょっと特殊なルールがあります。
最初に『当事者別』の注意点をまとめておきます。

<共有持分×買戻特約スキームでの融資|全体>

あ 共有物分割請求をしようとする者

ア 状況 相手(共有者)の持分に『買戻』の登記が入っていた場合
イ 注意点 共有物分割自体は可能である
ただし『買戻権者』への通知が必要である
これがないと後から『無効』となるリスクがある

い 融資を受ける者(共有者)

ア 状況 共有持分を担保に,買戻特約スキームで『融資』を受ける場合
イ 注意点 登記をしておかないと『共有物分割』で担保価値が下がるリスクがある

う 融資をする者

ア 状況 共有持分を担保に,買戻特約スキームで『融資』をする場合
イ 注意点 仮に事後的に共有物分割となっても実質的な不利益はない
『換価分割』となった場合
→『全体として売却』する
→『持分のみ売却』よりも良い条件(高価)で売却できる
ただし現物分割には注意が必要である
現物分割は原則的な分割類型である
多少価値が下がる場合でも選択されるリスクはある
詳しくはこちら|現物分割の要件(消極的要件の基本的解釈・著しい価格減少の減少率基準)

2 共有持分の買戻特約×共有物分割|買戻権の処理

買戻特約付売買では,売主=買戻権者が『返済』をすれば,担保不動産を『買い戻す』ことができます。
ここで『買戻権がある』場合でも『共有物分割』は止められません。
そこで,共有持分の場合『買い戻す』前に『共有物分割』がなされてしまうことがあります。
この場合の『買戻権』の扱いをまとめます。

<共有持分の買戻特約×共有物分割|買戻権の処理>

あ 前提事情

共有持分について買戻特約付売買が行われた
共有物分割が行われた
『売主』が買戻権を行使した
→買戻しの対象は『い』のとおりとなる

い 買戻しの対象
分割類型 買戻しの対象
現物分割 買主が受けた部分
代金分割or価格賠償 代金

※民法584条
※我妻栄『債権各論中巻1 民法講義V2』岩波書店p336

本来『返済=買戻権行使』によって『担保不動産』が手元に戻ってくるはずです。
しかしストレートに『担保不動産』を戻すことはできない状態となっています。
そこで『共有物分割の結果として買主(融資した者)の手元に残ったもの』が対象となるのです。
これが買戻権者(売主)に『返還』されるのです。

3 買戻権者×共有物分割への参加

買戻権者は,共有者(共有持分権者)ではありません。
そこで,本来的な共有物分割の当事者ではありません。
しかし,買戻権者は,共有物分割が終わってしまうと大きな影響を受けます。
そこで,共有物分割の協議や訴訟に参加することが認められています。

<共有物分割への買戻権者の参加>

あ 参加制度の基本

買戻権者は共有物分割に『参加』できる
ただし,共有者自体という地位ではない

い 参加者の権限

意見を述べることができる
参加者の意見は共有者・協議を拘束しない
※民法260条1項
詳しくはこちら|共有物分割への参加の制度(参加権利者・権限・負担・通知義務・参加請求の拒否)

4 分割の通知|受けていない買戻権者の保護

買戻権者が知らない間に共有物分割が終わってしまった,という場合も生じます。
買戻権者は共有物分割に参加する機会が失われたということになります。
この点『通知を受けていない買戻権者』を保護するルールがあります。

<分割の通知|受けていない買戻権者の保護>

あ 前提事情

次の『ア・イ』のいずれにも該当する
ア 買戻権者が通知を受けていないイ 『買戻特約の登記』がある ※袖木馨『注釈民法(14)債権(5)』有斐閣p319

い 効果|買戻権者の保護

『あ』に該当する場合
→買戻権者が優先される(対抗できる)
→共有物分割は効力を失う
※民法584条ただし書き
※我妻栄『債権各論中巻1 民法講義V2』岩波書店p336
※柚木馨『新版注釈民法(14)債権(5)』有斐閣p456

う 買戻権者の追認

買戻権者が共有物分割の結果を承認(追認)することができる
→その上で『買戻し』を選択することが可能である
※大判大正10年9月21日

原則的に,共有物分割を『無効化する』ことができるのです。
ただし,共有者が分かる状態=買戻特約の登記がある,ということが前提です。
また,このルールは『買戻権者の保護』が目的です。
買戻権者さえ承諾すれば『共有物分割の結果維持』ということにすることも可能です。

5 買主による『全体の取得』×買戻権

共有物分割の類型は3つあります。
価格賠償や換価分割の結果として『買戻特約付売買の買主』が対象不動産全体を獲得することもあります。
つまり,単独所有となるという結果です。
この場合『買戻しの対象』は次のように整理できます。

<買主による『全体の取得』×買戻権>

あ 前提事情

共有持分について買戻特約付売買が行われた
共有物分割が行われた
『買主』が共有物全体を取得した
『売主』が買戻権を行使した
→買戻しの対象は『い』のとおりとなる

い 買戻しの対象
分割請求をした者 買戻しの対象
買主が自ら分割請求をした場合 『持分のみ・全体』いずれもOK
買主以外が分割請求をした場合 『全体』のみOK

※民法585条

原則的に『全体のみ』の買戻しとなります。
要するに『不動産全体の価格(として買主が負担した総額)』が準備できないと買い戻せない,という状態です。
最初に融資を受けた金額(や利息など)だけではもう戻ってこない,ということです。
ただし『買主が共有物分割請求をした』場合だけは『持分のみ』の買戻しが可能となります。
要するに当初とまったく同じ状態です。
この違いは『共有物分割請求を誰がしたか』で決まります。
『共有者間のデキレース(結託)によって,持分のみの買戻しを不能化させる』という発想もあります。
この点,法の趣旨に反するスキームについては,救済的解釈がなされることもあります。

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