【公定価格=公認カルテル|信書・書籍・タクシー・医療サービス|士業は撤廃済】
1 自由競争からの逃亡|価格協定(カルテル)の誘惑
2 カルテルへの対応策は『独占禁止法』or『新規参入』
3 既得権益はサービスクオリティよりも『法律による参入障壁』に力を入れる
4 公定価格=法律による『カルテル』を打ち破るハードルは高い
5 現存する公定価格=公認カルテルのまとめ
1 自由競争からの逃亡|価格協定(カルテル)の誘惑
(1)価格競争のメカニズム
自由競争・マーケットメカニズムは,社会の経済的な最適化が実現される基本的システムです。
詳しくはこちら|マーケットの既得権者が全体最適妨害|元祖ラッダイト→ネオ・ラッダイト
局所的には『厳しい』と思ってしまう状況があります。
<自由競争が『事業者』に与える影響>
『価格競争』になると『同業者全体』の利益が経る
比喩=『首を絞め合う』
これはマーケットメカニズムの根幹であり,当然想定される1つのプロセスです。
これに続く次のステップとして本流と亜流を整理します。
<自由競争の中での『事業者』の努力の方向性>
あ 全体最適に向かう正常なプロセス
ア クオリティアップ・コスト削減イ マーケットからのイグジット(廃業)
い ユーザーの犠牲を伴うプロセス=既得権益保護の誘惑
価格協定=カルテル
同業者同士で『価格を下げない』ことを密約すること
(2)競争から逃れようとする事業者→第2種温室効果
『価格競争』=『首を絞め合うこと』への対抗策は大昔から実践されてきました。
『同業者で価格を下げないように約束すれば良い』という発想です。
これにより『共謀者(事業者)』の利益は守られます。
もちろん,ユーザーは『競争による値下げ・クオリティアップ』というメリットを奪われます。
要するに『一般ユーザーの利益を事業者が奪う(利益移転)』ということです。
自由経済の制度の根幹を否定するものです。
ところで『カルテル』の効果は強く,悲しいスパイラルが発現します。
<カルテルの及ぼす悲しい効果;第2種温室効果スパイラル>
あ 競争回避=温室状態
カルテルにより競争が回避される
クオリティアップ・コスト削減の『努力を怠る状態が発現』する
い 第2種温室効果(※1)
新規参入事業者への対抗・抵抗力が衰弱してしまう
う リソースが『前向きから後ろ向き』にシフト
ますます『既得権益保護』への固執(リソース配分)が強まる
クオリティアップ・コスト削減への努力(リソース配分)ができなくなる
↓
え スパイラル
『あorい』に戻る
『温室に長く入っていると,外の寒さに耐えられなくなって出られなくなる』という状態です。
地球温暖化を意味する『温室効果』と区別するために『第2種』と冠しました。
話は戻って,このような行為・悲しい効果発現を抑制するメカニズムもありますので説明を続けます。
2 カルテルへの対応策は『独占禁止法』or『新規参入』
カルテルへの対応策,抑制メカニズムを整理します。
<既得権益確保=カルテル,の突破方法>
あ 法律による規制
独占禁止法による規制
い 新規参入による打開
価格協定=カルテル,に参加していない事業者の新規参入
1つは人為的なルールの設定です。
独占禁止法による『価格協定(カルテル)』です。
中学生の社会の教科書にも登場する『社会の基本ルール』です。
もう1つは新規参入というマーケットメカニズムが当然に想定する現象です。
<価格協定=カルテルの禁止>
複数企業で協議し,価格を決定すること
これにより参加企業の利益を確保する
※独占禁止法3条『不当な取引制限』
独占禁止法で『自由な値下げ競争』が保護されているのです。
独占禁止法の趣旨である『公正な競争の保護』の一環です。
3 既得権益はサービスクオリティよりも『法律による参入障壁』に力を入れる
一般論として,既得権益は全勢力(リソース)を『防御』に投入する傾向があります。
<既得権益側の根性的反撃|ネオラッダイトの蟻地獄>
あ 反撃方法
法律・解釈を『既得権益保護』に変化させる
い 具体的プロセス
選挙・政治献金(ロビー活動)
→法規の立法や通達・告示の制定・公布
う 完成された防御壁の具体例
公定価格・価格設定規制(特に『下限』)
→『値下げが違法』というすごい状態となる
このような『法規・行政解釈を使った既得権益確保策』のことを『ネオラッダイト』と呼んでいます。
詳しくはこちら|マーケットの既得権者が全体最適妨害|元祖ラッダイト→ネオ・ラッダイト
4 公定価格=法律による『カルテル』を打ち破るハードルは高い
『公定価格』は,実質的な『公認カルテル』です。
この場合,『カルテルの突破法』が機能しにくいです。
<カルテル突破法vs公認カルテル>
あ 法律による規制
独占禁止法の規制対象は『私的独占』であり『法律』は対象外
い 新規参入による打開
『公認カルテル』は合意していない新規参入者にも適用される
ただ,突破できる可能性はゼロではありません。
<ネオラッダイトを打ち破る『裁判所ルート』>
あ 裁判所による判断
裁判所が『既得権益保護の法令』が違法or違憲と判断する
→法令や処分を撤回・解消する
い 公認カルテルが違法となる典型
裁判所が『裁量権の逸脱』を認める
=不合理性の程度が激しい場合(後述)
以上の説明はマーケットメカニズムの一般論です。
次に,公定価格の具体例について説明します。
5 現存する公定価格=公認カルテルのまとめ
現行法における公定価格をまとめます。
個別的なルールの趣旨・目的はそれぞれあります。
その妥当性については,ここでは触れません。
<公定価格=公認カルテルのまとめ>
サービス・商品 | 規制 |
信書 | 公的独占 |
書籍販売 | 再販売価格維持制度 |
タクシー | 料金の上限・下限 |
医療サービス | 健康保険としての『保険料率』(※2) |
不動産仲介業 | 上限(※3) |
弁護士業 | 撤廃(平成16年) |
司法書士業 | 撤廃(平成14年) |
税理士業 | 撤廃(平成14年) |
<補足説明>
あ 医療サービスの『保険料率』(上記※2)
公的保険を利用する場合が前提である
自由診療は除く
い 不動産仲介手数料の『上限』(上記※3)
『上限』なので『公認カルテル』とは違う
ただ,現状として『上限張り付き現象』=『実質カルテル』状態
→現在,この『実質カルテル』は新規参入により解消されつつある
詳しくはこちら|不動産の仲介の免許制度とイノベーション|内見→外注|重要事項説明オンライン化
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