【建物明渡強制執行における目的外動産の処分の手続(全体)】
1 明渡の強制執行|内容=執行官が占有を解く+引き渡す
『建物の明渡』の判決を取って『強制執行』をする場面もよくあります。
よく問題になるのが『建物の中の動産』です。
戸建ての場合は建物外・敷地内(庭など)にある動産、も同様です。
何もケアしないで処分・廃棄すると法的な責任が生じることもあるのです。
詳しくはこちら|建物明渡×実力行使|基本・違法性判断|自力救済or自救行為
まずは『建物明渡の執行官の任務』から整理します。
明渡の強制執行|内容=執行官の任務
※民事執行法168条1項、5項
このことから『執行官が空家にしてくれる』という誤解が生じます。
この点、正しい扱いについて次に説明します。
2 建物明渡|強制執行の要否=占有の判断
建物の明渡の際は『強制執行が必要かどうか』が問題になることがあります。
これは『強制執行の内容』(前記)の裏返しと言えます。
建物明渡|強制執行の要否=占有の判断
あ 典型的な明渡の場面
建物賃貸借の契約終了・退去の時
い 強制執行の要否
『占有(移転)』があったと判断できるかどうか
う 強制執行が『不要』となる事情
既に賃借人から賃貸人に占有が移転している場合
→強制執行は不要
『占有』の判断はちょっと難しいところがあります。
これについては別記事で説明しています。
(別記事『占有・民事』;リンクは末尾に表示)
3 明渡の強制執行|対象・範囲=『目的外動産』は含まれない
建物明渡の強制執行を行う場合の『執行の範囲』についてまとめます。
明渡の強制執行|対象・範囲
あ 明渡の執行の範囲
ア 建物本体イ 付合物;民法242条本文ウ 従物;民法87条2号 畳・建具など
い 対象外=目的外動産
『あ』に含まれない動産など
要するに、家財などの『動産』は、明渡請求の対象外なのです。
そこで『目的外動産』と呼んでいます。
4 目的外動産の処理・具体的選択肢
『明渡の強制執行』では『目的外動産』は一定の処理ができることになっています。
『目的外』とは言っても、完全にノータッチではなく、法律上フォローされているのです。
『目的外動産』の処理方法の種類|一般論
あ 債務者が持ち出す
い 執行官保管
後日債務者に引き渡すor売却する
う 廃棄処理
え 緊急換価
お 即日売却・近接日売却
か 動産執行
債権者が別途申し立てる
5 建物明渡×『放置された』動産処理|まとめ
実際に問題になりやすいのは『債務者が放置した』という場合です。
上記の一般論のうち『債務者が放置した』場合の対応を最初にまとめておきます。
建物明渡×『放置された』動産処理|まとめ
それぞれの詳しい内容は別記事で説明しています。
(別記事『執行官保管・廃棄処分』;リンクは末尾に表示)
詳しくはこちら|目的外動産の特殊な売却手続(即時・即日・近接日売却・緊急換価)
6 目的外動産の処理|断行時に債務者が在宅している場合
明渡の強制執行(断行)の日に、債務者が在宅・立ち会う、という場合もあります。
この場合は、債務者の意向を聴取しながら勧めます。
債務者が立ち会う場合の対応
債務者の意思表示(処分行為)や行為により進める
7 目的外動産の処理|断行時に債務者が不在の場合|判断基準
特に問題になるのが『債務者が不在』という場合です。
債務者による『意思決定(処分行為)』や物理的な行為ができません。
この場合、執行の責任者である『執行官』の判断が前面に出てきます。
債務者不在時の動産処理|執行官の判断基準
あ 基本的方針決定
保管or廃棄を執行官が判断する
い 判断基準
ア 客観的な換価価値の有無イ 債務者・家族にとっての価値の有無
例;アルバム
ウ 法令により保存期間・廃棄方法が定められているか
例;商業帳簿、遺骨
う 実務上の特別扱い|『長期不在』認定
一定の基準に該当する場合は簡略的扱いがなされる
詳しくはこちら|建物明渡の強制執行|『長期不在』認定・基準|明渡実現の迅速化
要するに『売却するような価値がない』と言えるものは『廃棄』にするのです。
それ以外は原則的に、まずは執行官保管とすることが多いです。
8 目的外動産の処理×『第三者の所有する動産』→区別しない
『目的外動産』の処理の上で『第三者が所有権を主張する』という問題が生じることがあります。
この場合は『強制執行』では『無視される』ということになっています。
第三者所有の動産の扱い
あ 基本的理論
執行官には『所有権の所在』を判断する権限がない
い 執行官の対応
『債務者の所有』と同じフローで進める
第三者が『債務名義』を保有していても同様
※深沢利一 『民事執行の実務(下) 補訂版 新日本法規出版p762
う 『所有権を主張する第三者』の対応
ア 債務者を引き連れて引き取りをさせるイ 債務者から引取の代理権授与を受ける
『第三者である所有者が負担するリスク』と言えます。
<参考情報>
最高裁判所事務総局民事局監修『執行官提要』第5版 法曹会p277〜