【国立大学の意義・法人化したが独立採算ではない】
1 国立大学の意義・役割
2 従来型国立大学の問題点
3 国立大学|平成16年に法人化された|国立大学法人の特徴
4 国立大学法人の特殊性=独立採算ではない
5 国立大学法人化|学生にとってのメリット
6 国立大学|収支の内容
現在,国立大学は法人化され『国立大学法人』となっています。
ところが『独立採算制』となっているわけではありません。
本記事では,国立大学の法制度についてまとめます。
1 国立大学の意義・役割
制度としての国立大学の意義について最初にまとめます。
<国立大学の意義>
あ 日本の学術研究と研究者養成の中心的役割を果たす
大学院の整備など
い 人材育成
学問分野のバランスに考慮しながら必要とされる人材養成を行う
う 地域の活性化や学生の進学機会の確保に貢献する
都市部だけでなく地方も含めてバランスよく配置すること
2 従来型国立大学の問題点
国立大学が法人化される前は,次のような問題点がありました。
<従来的国立大学の根本的な問題>
国立大学は文部科学省の内部組織であった
→運営の自由度が低かった
問題点の内容について具体化すると,次のように整理できます。
<従来型国立大学|運営の自由度が低いデメリット>
あ ポスト変更→総務省・財務省との調整が必要
不要になったポストを新たに必要となるポストに替える
い 学科名の変更には省令改正が必要(『あ』の具体例)
省令の規定の例;工学部に機械工学科や電気工学科を置く
う 資金の使途が詳細に拘束される
研究の途中で追加資金が必要となった場合→他の資金からの流用ができない
え 教職員が公務員
生産性・貢献度に応じた報酬の設定がしにくい
民間企業との協力がしにくい
このような問題点を解消するために『国立大学の法人化』がなされました。
3 国立大学|平成16年に法人化された|国立大学法人の特徴
法人化された国立大学=国立大学法人の特徴をまとめます。
<国立大学の法人化>
国立大学法施行 平成15年10月1日
国立大学法人の設立 平成16年4月1日
<『国立大学法人』制度の概要>
あ 『大学ごとに法人化』→自律的な運営を確保
ア 国の行政組織の一部→各大学に独立した法人格を付与イ 予算、組織等の規制は大幅に縮小し、大学の責任で決定
い 『民間的発想』のマネジメント手法を導入
ア 『役員会』制の導入によりトップマネジメントを実現イ 『経営協議会』を置き,全学的観点から資源を最大限活用した経営
う 『学外者の参画』による運営システムを制度化
ア 『学外役員制度』を導入
学外有識者・専門家を役員に招聘
イ 経営に関する事項を審議する『経営協議会』に学外者が参画ウ 学長選考を行う『学長選考会議』にも学外者が参画
え 『非公務員型』による弾力的な人事システムへの移行
ア 能力・業績に応じた給与システムを各大学の責任で導入イ 兼職等の規制を撤廃し,能力・成果を産学連携等を通じて社会に還元ウ 事務職を含め学長の任命権の下での全学的な人事を実現
お 『第三者評価』の導入による事後チェック方式に移行
ア 大学の教育研究実績を第三者機関により評価・チェックイ 第三者評価の結果を大学の資源配分に確実に反映ウ 評価結果・財務内容・教育研究等の情報を広く公表
4 国立大学法人の特殊性=独立採算ではない
一般に『独立行政法人』は『独立採算』という面で『民営化』がなされます。
この点,国立大学法人は特殊性があります。
<国立大学×独立採算制>
法人化後も独立採算制にはしない
国が引き続き必要な財政措置を行う
法人化は『財政支出の削減を目的とした民営化』とは全く異なる
5 国立大学法人化|学生にとってのメリット
法人化された国立大学=国立大学法人,を,学生のサイドから見たメリットをまとめます。
<『学生にとっての』法人化のメリット>
あ 学生のニーズを踏まえた学科・履修コース設計
各大学の判断で,学生や社会のニーズを踏まえながら弾力的な学科・履修コースの編成・設計・工夫ができる
い 学生による授業評価
定期的に学生の評価を受ける
大学は,授業評価を踏まえながら,授業内容の充実・授業のやり方の工夫をせざるを得なくなる
う 進路選択相談などの学生サービス
国立大学法人法の中に,国立大学の行うべき業務として学生サービスが明記された
大学は,学生の視点に立った運営を行うようになると期待される
※国立大学法22条1項2号
6 国立大学|収支の内容
国立大学の運営については,財政面が重要ですし,分かりやすいです。
ここで収支の情報を紹介しておきます。
<国立大学の収支の内訳|平成25年度>
あ 経常収益
費目 | 金額・億円 | % |
運営費交付金収益 | 9960 | 34.0 |
附属病院収益 | 9667 | 33.0 |
学生納付金収益 | 3391 | 11.5 |
競争的資金等 | 4183 | 14.3 |
その他 | 2102 | 7.2 |
い 経常費用
費目 | 金額・億円 | % |
教育経費 | 1810 | 6.2 |
研究経費 | 3465 | 12.0 |
診療経費 | 10654 | 36.8 |
受託研究費等 | 1838 | 6.3 |
人件費(附属病院を除く) | 9414 | 32.5 |
一般管理費 | 1805 | 6.2 |
<補足;『競争的資金等』>
補助金等収益・受託研究等収益等・寄附金収益・研究関連収益の合計額
この収支は『私立大学』の問題を考える際にも有用です。
詳しくはこちら|私立大学の運営|資金調達ルート拡張の必要性・収益事業・擬似マーケット