【医科系私立大学の事業収入の特殊性・擬似市場経済の錯覚と依存】
1 医科系の私立大学の『事業収入』の特殊性
2 東京慈恵医大の収支データ
3 医科系大学の事業収入の特殊性の要因・背景
4 医科系大学の事業収入|擬似市場経済→錯覚・依存に注意
私立大学運営についての問題を別記事で説明しています。
詳しくはこちら|私立大学の運営|資金調達ルート拡張の必要性・収益事業・擬似マーケット
私立大学運営,特に『事業収入の獲得』というテーマでは『医科系大学』は非常に特殊です。
本記事では『医科系の私立大学の事業収入』について,実例を踏まえて説明します。
1 医科系の私立大学の『事業収入』の特殊性
医科系の私立大学では『事業収入』が他の大学と比べて非常に特殊です。
<医科系の私立大学の特殊性>
あ 『収入』の特殊性
ア 事業収入の割合が高い=約90%
事業収入とは『診療報酬』のことである
イ 学生納付金の割合が低い=約3%
金額の絶対値は高い
《初年度納付金》
医学科学生 | 300万円以上 |
看護学科生徒 | 100万円以上 |
い 『高等教育の無償化』の夢
実現可能性が高い
2 東京慈恵医大の収支データ
具体例として東京慈恵医大の公表データのうち重要部分を挙げておきます。
<東京慈恵医大(学校法人慈恵大学)の収入|抜粋>
費目 | 割合 |
学生生徒納入金 | 約3% |
寄附金 | 約1% |
補助金 | 約7% |
事業収入 | 約89% |
※平成21年度『消費収支計算書』
3 医科系大学の事業収入の特殊性の要因・背景
医科系大学の事業収入は,非常に特殊な事情が重なっています。
<医科系大学の特殊性の背景>
あ 収支の背景
『病院経営』という特殊性の影響が大きい
い 病院経営の特殊性
『大学病院』は,大学の本体と『外部顧客へのサービス販売』が融合している
『外部顧客へのサービス販売』の規模が著しく大きい
う 『医療サービス』マーケットの特殊性
官製経済・擬似市場経済(market-like economy)
社会保険=公的財政に支えられている
供給者=医師の『絶対数』を政策で決定(制限)している
詳しくはこちら|公定価格=公認カルテル|信書・書籍・タクシー・医療サービス|士業は撤廃済
4 医科系大学の事業収入|擬似市場経済→錯覚・依存に注意
前述のように,医科系大学の事業収入は特殊性があります。
そこで,次のような注意点が指摘できます。
<擬似市場経済による錯覚に注意>
官製経済のなかで運営がうまく行っているだけで
市場経済のなかでマネジメントできているわけではない
<医科系大学のマネジメントの方向性>
あ 基本方針
『現在の事業収入だけ』に依存する状態を解消する
=疑似市場経済の中で『運営資金の多様化』を図る
→学生納入金収入への依存度を下げることが可能となる
い 現状
医科系の大学や学部が『授業料の値下げ競争』に走っている
※日本経済新聞平成25年3月7日朝刊『私大医科系,学生確保へ値下げ合戦』