【『親権』の細かい内容|親権・監護権の分属|誤解が多いので条項化の際は要注意】
1 『親権』の内容は財産管理権・身上監護権など細かく分かれている
2 離婚の時に『親権』『監護権』を分ける方法もある|親権・監護権の分属
3 親権・監護権を分属させた場合『内訳』の誤解が生じやすい
4 親権・監護権を分属させた場合の『内訳』の解釈|判例
5 『監護権のない親権者』はあまり実益がない
6 親権・監護権の分属を行う場合は細かい内容を条項化しておくとベスト
1 『親権』の内容は財産管理権・身上監護権など細かく分かれている
一般的に『親権者』と言うと『子供を引き取る方の親』というイメージがあります。
しかし,法律的にはそのように単純ではありません。
実際に2人の親で『親権の内容を項目ごとに分ける』という方法もあります(後述)。
まずは『親権』の細かい内容を整理します。
<『親権』の内容>
あ 財産管理権(狭義の『親権』)
ア 子の財産管理権
具体例;各種手当の受給手続
イ 財産に関する法律行為の代理権・同意権
↑民法5条,737条,775条,787条,804条
ウ 身分行為に関する法的代理権・同意権
・15歳未満の子の養子縁組
・氏の変更
・監護権者に対する助言・指導
・未成年者の婚姻の同意;民法737条
い 身上監護権
ア 監護・教育権;民法820条イ 居所指定権;民法821条ウ 懲戒権;民法822条
・しつけをすること
エ 職業許可権;民法823条
2 離婚の時に『親権』『監護権』を分ける方法もある|親権・監護権の分属
通常は,離婚の際,単純にいずれか一方の親を『親権者』と指定します。
一方『親権者』『監護権者』の2つに分ける,という方法もあります。
『親権・監護権の分属』と呼んでいます。
<親権・監護権の分属の趣旨>
あ 利害調整・解決のための苦心
双方が親権者になることに固執している
→『分属』が,感情・精神的安定に効果がある
→合意成立につながる
※大阪高裁昭和36年7月14日
い 積極的に『公平』を図るため
できるだけ『共同親権』に近づける趣旨
※福岡家裁白河支部昭和42年6月29日
このように『親権・監護権の分属』は,いろいろな背景で利用されます。
とは言っても,実務上,使われる頻度は低いです。
3 親権・監護権を分属させた場合『内訳』の誤解が生じやすい
『親権・監護権の分属』は,使い方によっては便利です。
しかし『誤解』が生じやすいということも言えます。
<親権・監護権の分属|誤解あるある>
A:親権は絶対欲しい!
B:じゃあ譲る。ボクは監護権だけでいいや。
A:(心の声)良かった!ありがとう!これで子供と一緒にいられる。
↓
正解=子供は監護権者Bが引き取る
これはありがちな誤解です。
重要なので,正しい状態を整理しておきます。
<子供の引取×『親権・監護権の分属』>
『親権者』→子供を引き取れない
『監護権者』→子供を引き取れる
ところで,家裁の調停でも『誤解した調停』が成立することがあります。
さすがに調停委員は理解していますが『誤解していると気付かない』ということが生じるのです。
仮に誤解したまま『調停成立』や『離婚協議書に調印』してしまうと大変です。
後から『誤解だったから無効にする』ということは非常にハードルが高いのです。
4 親権・監護権を分属させた場合の『内訳』の解釈|判例
親権・監護権の分属の場合,具体的内容について意見が対立する,ということが起きやすいです。
細かい内容になると,判例・先例でも『解釈が統一的ではない』というものもあるのです。
『監護権者』が『身上監護権』をすべて持つ,というわけではないのです。
これは『ネーミングが紛らわしい』ということが強く批判されます。
いずれにしても,判例・先例における『権限の分配』について整理します。
<親権者/監護権者の権限分配>
項目 | 親権者 | 監護権者 |
子の財産管理権 | ◯ | ☓ |
財産に関する法律行為の代理権・同意権 | ◯ | ☓ |
15歳未満の子の養子縁組(※1) | ◯ | ☓ |
氏の変更(※2) | (◯) | (☓) |
監護権者に対する助言・指導 | ◯ | ☓ |
未成年者の婚姻の同意;民法737条 | ◯ | ☓ |
監護・教育権 | ☓ | ◯ |
居所指定権=子供を引き取る | ☓ | ◯ |
懲戒権 | ☓ | ◯ |
職業許可権 | ☓ | ◯ |
※東京高裁平成18年9月11日
※判例上明確に読み取れないものも含む
<補足説明>
あ 養子縁組(代諾縁組)(上記※1)
『親権者』とする先例あり
※昭和25年7月22日民事甲第2006号民事局長回答
※昭和26年1月31日民事甲第71号民事局長回答
い 氏の変更の代理(上記※2)
『監護権者』とする判例もある
※釧路家裁北見支部昭和54年3月28日
5 『監護権のない親権者』はあまり実益がない
『親権・監護権の分属』をした場合の『親権者』の権限は非常に限られています。
とにかく『子供を引き取れない』というところが大きいです。
一方『親権者』としては『養子縁組の承諾』の権限があります。
仮に相手(妻)が再婚した場合に『独断で再婚相手と子供を養子縁組させる』ことを阻止できます。
それ以外にはあまり有用な『権限』はありません。
例えば『手当受給の手続の関与』などの事務的なものくらいです。
『分属』は,前述のとおり『精神的・感情的な意味合い』が大きいと言えます。
6 親権・監護権の分属を行う場合は細かい内容を条項化しておくとベスト
『親権・監護権の分属』を合意する場合,『親権者』『監護権者』だけを単純に条項にしておくことが一般的です。
しかし,前述のように『解釈の対立』が生じることがよくあります。
そこで,和解調書・離婚協議書を作成する段階で『内訳』までを決めて,条項にしておくと良いのです。
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