【違法な非弁護士の法律事務の実例(不動産編)】

1 違法な非弁護士の法律事務の実例(不動産編)

弁護士以外の者が一定の法的サービスを提供すると、いわゆる非弁行為として違法となることがあります。
詳しくはこちら|非弁護士の法律事務の取扱禁止(非弁行為)の基本(弁護士法72条)
本記事では、非弁行為の実例のうち、不動産に関するケースを紹介します。

2 借地上の建物焼失後の地主・近隣住民との交渉→違法

借地上の建物が火災で消失したというケースについての裁判例を紹介します。
まず、借地人(建物所有者)と地主(賃貸人)との関係では、借地上の建物が滅失すると、その権利関係はちょっと複雑になります。
詳しくはこちら|旧借地法における建物の朽廃による借地の終了(借地権消滅)
そこで、建物を再築するのが通常ですが、地主に承諾を得て、残存期間を伸ばすということがよくあります。
さらに、このケースでは近隣への延焼も生じてしまったので、損害賠償の問題もありました。
これらの、地主・近隣住民との交渉を、不動産コンサル業者が費用をもらって引き受けてしまいました。もちろん、裁判所は、弁護士以外の者による法律事務である、と判断しました。

借地上の建物焼失後の地主・近隣住民との交渉→違法

あ 加害者の通常業務

不動産に関するコンサルティング業

い 被害者

借地人・建物所有者

う 事案

建物が火災により焼失した+周囲へ延焼した

え 依頼内容(名称)

『隣地調整実務コンサルティング』
『土地の賃貸借契約に関する隣地との権利調整及び建築アドバイス等の業務』
『底地・借地コンサルティング(費用)』

お 依頼内容(実質)

建物再築に関する地主との交渉
建物延焼の損害賠償に関する被害建物所有者との交渉

か 報酬設定

ア 着手金 測量等の費用として30万円
イ 成功報酬 隣地調整予定費用の基準を230万円とし、ここからの減額分の30パーセント

か 裁判所の判断

弁護士法72条違反に該当する
※東京地裁平成24年1月25日

3 借地収用の補償・借地承継の交渉→違法

土地の収用は公的なのだから黙っていても適正額が支払われると思ったら大間違いなのです。
詳しくはこちら|賃貸建物の明渡料の金額の基本(考慮する事情・交渉での相場)

借地収用の補償・借地承継の交渉→違法

あ 被害者

借地権者

い 依頼内容

ア 借地収用の補償金に関する東京都との交渉イ 相続税の申告・遺産分割協議書の作成ウ 借地の承継に関する地主との交渉

う 報酬設定

ア 『交渉手数料』 50万円
イ 借地収用の交渉 ・着手金 20万円
・成功報酬 200万円
ウ ビル収用の交渉 ・着手金 30万円

え 裁判所の評価

ア 契約の有効性 弁護士法72条違反に該当する
→契約は無効である;民法90条
イ 非債弁済 被害者は被告を弁護士と誤解していた
→非債弁済には該当しない

お 裁判所の判断(結論)

既払い報酬300万円について返還請求を認める
悪意の受益者として、報酬の受領日以降年5%の利息を付する
※東京地裁平成23年3月1日

4 借地人との明渡交渉・土地の購入候補者との売買交渉→違法

いわゆる土地開発のプロジェクトに関するブラック事例です。

借地人との明渡交渉・土地の購入候補者との売買交渉→違法

あ 依頼内容

依頼者所有の土地売買に関する次の交渉
・土地の借地人との間の立退交渉
・買主(候補者)との間の売買契約締結交渉

い 裁判所の判断

報酬請求→弁護士法72条違反→無効
売買締結交渉→宅建業法違反→無効
※東京地裁平成19年5月25日

5 借地人との明渡交渉→違法

借地明渡、というメジャーなプロジェクトです。
このケースでは依頼者も悪質であると判断されました。
そこで、3割は依頼者が負担する、つまり、支払済の報酬のうち、返還するのは7割だけとなりました。
さらに、不動産の所有権移転登記の抹消については、不法原因給付として否定しました。これは、裁判所は悪い者には救済の手を貸さないというルール(クリーンハンズ)です。
関連コンテンツ|男女交際における『民事的違法』;公序良俗違反、不法原因給付、慰謝料
結局、不動産の所有権は依頼者に戻ってこないことになりました。

借地人との明渡交渉→違法

あ 依頼内容

土地の更地化・借地権整理
借地権の買取・明渡交渉

い 裁判所の判断|違法性判断

弁護士法72条違反に該当する
公序良俗違反→無効

う 裁判所の判断|既払い報酬の返還請求

不法の程度=顧客は3割
→7割の返還請求を認めた

え 裁判所の判断|費用以外の清算

業務遂行の一環として中間省略登記が行われた
顧客から→加害者への移転
これは『不法原因給付』に該当する
登記抹消請求は認めない
※神戸地裁平成13年10月29日

6 農地売却・ビルの移転補償に関する交渉→合法

ここからは『建物』の明渡に関するケースを紹介します。
最初に、結論が『合法』とされたケースから行きます。
『単発』の業務だったので『弁護士法違反』ではない、という『首の皮一枚』で助かった結論です。
『反復継続の意思』は通常は容易に肯定されます。
安直にマネをすることはお勧めできません(ポジショントーク)。

農地売却・ビルの移転補償に関する交渉→合法

あ 被害者

農地・ビルの所有者

い 依頼内容

ア 農地売却のコンサルティング業務イ ビルの移転補償交渉に関わるコンサルティング業務

う 報酬設定(コンサルタント料)

農地;販売価格が3000万円以上の場合は販売価格の15%
ビル;補償額総額が7000万円以上の場合はその額の15%

え 具体的遂行業務

東京都との移転補償交渉など

お 裁判所の判断

ア 原則論 反復的に又は反復継続する意思が認められない
→弁護士法72条違反に該当しない
→既払い報酬の返還請求は認めない
イ 仮に違法の場合 仮に弁護士法72条違反だとした場合
→民法708条により既払い報酬の返還請求はできない
※東京地裁平成23年3月30日

7 ビルの賃借人との明渡交渉→違法

ビルに入っている多くの賃借人(テナント)に対する明渡交渉を、不動産売買を主に行う業者が有償で引き受けた、というケースについての最高裁判例です。明渡交渉というサービス単体で、しかも報酬(対価)がある形で引き受けていたので、有償業として法律事務を行ったと判断され、かつ、適法となるような事情(違法性阻却事由)もないことから、違法であると判断されました。

ビルの賃借人との明渡交渉→違法

あ 要点

ア 被害者 ビルの所有者
イ 依頼内容 ビルの賃借人との明渡交渉
賃貸借契約を合意解除した上で各室を明け渡させる業務
ウ 裁判所の判断 具体的状況が『法的紛議が生ずることがほぼ不可避である』ものであった
→弁護士法72条違反に該当する

い 判決(引用)

しかしながら、被告人らは、多数の賃借人が存在する本件ビルを解体するため全賃借人の立ち退きの実現を図るという業務を、報酬と立ち退き料等の経費を割合を明示することなく一括して受領し受託したものであるところ、このような業務は、賃貸借契約期間中で、現にそれぞれの業務を行っており、立ち退く意向を有していなかった賃借人らに対し、専ら賃貸人側の都合で、同契約の合意解除と明渡しの実現を図るべく交渉するというものであって、立ち退き合意の成否、立ち退きの時期、立ち退き料の額をめぐって交渉において解決しなければならない法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らかであり、弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったというべきである。
そして、被告人らは、報酬を得る目的で、業として、上記のような事件に関し、賃借人らとの間に生ずる法的紛議を解決するための法律事務の委託を受けて、前記のように賃借人らに不安や不快感を与えるような振る舞いもしながら、これを取り扱ったのであり、被告人らの行為につき弁護士法72条違反の罪の成立を認めた原判断は相当である。
※最決平成22年7月20日

なお、この判例では、法律事務にあたるという判断の中で、対立状況(紛争性)があるという指摘がなされています。そこで、法律事務の解釈をした判例としても有名になっています。
詳しくはこちら|弁護士法72条の『法律事件』の解釈(事件性必要性と不要説)

8 建物の明渡交渉→合法

不動産売買の仲介を行う宅建業者(の従業員)が、建物の明渡の交渉を行い、その結果、明渡料を支払って明渡が実現した、というケースです。結論としては、合法と判断されました。
ただし、明渡交渉法律事務にあたることは前提となっています。では合法となった理由はなにかというと、報酬を得る目的はなかったことと、事業性はなかったということです。
交渉を行った者は、交渉の対価は一切もらっていません。また、たとえば賃貸管理を行う事業者が管理業務の中身の一部として明渡の交渉をしたというわけではありません。
交渉を引き受けた理由は、明渡が実現すれば、所有者が建物の売却を依頼してくれるかもしれない、というもの、つまり、売却仲介を受注するための営業活動、という位置づけだったのです。広い意味では売却仲介の手数料と明渡交渉は対価関係があると考えれば(交渉の)報酬を得る目的があったということになります。しかし、明渡交渉を引き受けたとしても、その後、売却仲介を受注できるとは限りません。純粋に一切の対価なしで終わる可能性もそれなりに高かったのです。このような事情があったので、裁判所は報酬を得る目的はない(いわばボランティアであった)と判断したのでしょう。ボランティアである以上は、反復継続する意思が否定されることにつながりやすいです。

建物の明渡交渉→合法

あ 建物所有者による明渡の実現の希望

・・・被告Y1(当サイト注・宅建業者従業員)は、原告(当サイト注・建物所有者)から、本件建物を売却しようと思っているがBに占拠されて困っているという相談を受けた
被告Y1は、仕事を離れた個人的な付き合いの中でという気持ちから、原告から色々と事情を聞き、実際にBとも会ってみた。
その結果、本件建物の譲渡を約する書面が交わされていること、Bは既に本件建物のリフォーム工事を始めてしまっていること等が分かり、被告Y1は、自分のような素人が解決できる問題ではないと考え、こうしたトラブルに強そうな弁護士をインターネットで調べ、C弁護士を原告に紹介した。

い 交渉を代行する要求

・・・その後、C弁護士はBと連絡がとれなくなり、明渡交渉は何ら進展を見ないまま推移していたところ、原告は、同年12月終わり頃、被告Y1に対し、早く解決したいとして、被告Y1がBと直接交渉してほしいと依頼した。・・・

う 交渉の実施→明渡実現

・・・被告Y1は、原告の上記依頼に基づきBと直接会って、Bから、突然の弁護士の介入は心外であること、退去の条件としては、手付倍返しの100万円に加え、譲渡代金の分割金として支払済みの21万円(7万円×3回分)及び実施済のリフォームの支出等に係る解決金100万円の計221万円の支払を求めること、この金額を1円でも欠けたら退去しないこと等の考えを聞いた
被告Y1がBの考えを原告に伝えると、原告はそれでいいから早期に解決してもらいたいという意向を告げ、これを受けて、被告Y1は、同月21日、原告から預かった121万円と法務局から取り戻した供託金100万円の計221万円をBに交付し、任意の退去を得ることに成功した

え 交渉を実施した目的

・・・被告Y1は、Bの占有問題が解決した後に本件建物の売却を被告Y2社の営業につなげたいという思惑はあったが、Bの退去交渉に関する報酬は、被告Y1個人としても被告Y2社としても全く得ていなかった

お 裁判所の判断

ア 有償性・事業性→否定 原告は、被告Y1によるBに対する退去交渉は弁護士法72条に違反する違法な行為であると主張するが、上記1(1)~(6)の認定事実に照らし、同法所定の「報酬を得る目的」及び「業とする」の要件の充足を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
イ 違法性・損害発生→否定 そもそも、上記認定事実によれば、被告Y1は原告からの依頼に基づいて当該依頼の趣旨に従った事務を行っていること、Bに対する本件建物の売買契約は、引渡し及び分割金の一部の支払を既に終えており、手付倍返しによる解除は困難と考えられる事案であることが認められるのであって、不法行為法上の違法性、損害の発生についても、これを認めることはできない
※東京地判平成26年6月13日

9 不動産引渡命令の申立の代行→違法

競売物件での明渡では『不動産引渡命令』という簡略化手続を利用できます。
詳しくはこちら|競売の買受人は引渡命令申立ができる
簡略化されているところから、弁護士以外が『代行(代理)』してしまったケースです。
『引き受けた者』が違法となるのは当然として、不動産引渡命令自体が却下となってしまいました。
その後の明渡が一気に難しくなってしまいました。

不動産引渡命令の申立の代行→違法

あ 加害者

当事者(会社)の従業員ではない、別会社所属の者

い 依頼内容

不動産引渡命令の申立

う 裁判所の判断

弁護士法72条違反、民事執行法13条違反である
→不動産引渡命令を取り消し、申立自体を却下した
※東京高裁平成21年10月15日

10 競売不動産の占有者との明渡交渉→違法

競売に伴う明渡について、今度は交渉を引き受けたケースです。

競売不動産の占有者との明渡交渉→違法

あ 加害者の通常業務

不動産競売物件の記録を提供するなどの業務
会員となった顧客に対して情報を提供する

い 依頼内容

不動産の占有者との間の明渡に関する和解交渉など

う 裁判所の判断

弁護士法72条違反に該当する
→公序良俗違反→無効
→報酬請求を否定した
※東京高裁平成19年4月26日

本記事では、不動産に関する何らかのサービスが非弁行為として違法となるかどうかを判断した裁判例を紹介しました。
実際には、個別的な事案によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産についてのいろいろなアクションに関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【不動産売買・賃貸の仲介手数料(報酬額)の上限の例外】
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