【不動産の詐害行為|抵当権・差押と詐害行為取消権の優劣|抹消承諾書の要否】
1 不動産の詐害行為|訴訟提起前に『処分禁止の仮処分』で登記にロックをかける
2 不動産の詐害行為|最初からある抵当権実行とのコンフリクト
3 不動産の詐害行為|差押と詐害行為取消の優劣|基本的理論
4 不動産の詐害行為|差押と詐害行為取消の優劣|登記手続の2つの見解
5 不動産の詐害行為|弁護士の知識が不足しがち→事故多発現場|ポジショントーク
1 不動産の詐害行為|訴訟提起前に『処分禁止の仮処分』で登記にロックをかける
不動産の譲渡は詐害行為の典型の1つです。
しかし,詐害行為取消訴訟を提起してから判決が出るまでには一定の時間があります。
『更に移転=詐害行為』をされてしまうリスクが高いです。
そこで,実務上,詐害行為取消訴訟の提起前に『保全登記』を入れておくことが多いです。
<保全登記>
あ 裁判所に『処分禁止の仮処分』を申し立てる
い 裁判所の嘱託により『保全登記』がなされる
『処分の制限の登記』の1種である
※不動産登記法3条
※民事保全法53条
う 『保全登記』以降の登記は強制的に抹消できる
詐害行為取消と抵触するものだけが抹消の対象となる
典型例=『新たな譲渡(売買・贈与)の登記』→抹消できる
※民事保全法58条
処分禁止の仮処分により,その後の妨害的な譲渡などの行為は実質的に無効化します。
実質的に登記上『ロック』をかけた状態と言えます。
2 不動産の詐害行為|最初からある抵当権実行とのコンフリクト
詐害行為と抵当権の実行がぶつかる事案もよくあります。
<差押と詐害行為取消権のコンフリクト|事案>
あ A所有名義の不動産に,抵当権設定登記(本件抵当権)
い AからBへの所有権移転登記(詐害移転)
う 『詐害移転』について債権者Cが次の申立を行った
ア 処分禁止の仮処分→保全登記イ 詐害行為取消訴訟提起→勝訴判決
う 本件抵当権に基づく差押登記(競売開始決定)
実際には『詐害行為取消訴訟の審理中』ということが多い
え 債権者Cが『詐害移転』の抹消登記を申請した
3 不動産の詐害行為|差押と詐害行為取消の優劣|基本的理論
<法律的な扱い>
あ 対抗関係(前提)
一般的な債権者は民法177条の第三者に該当しない(対抗関係に立たない)
詐害行為取消訴訟を提起した債権者,差押債権者は民法177条の第三者に該当する(対抗関係に立つ)
詳しくはこちら|債権者が民法177条の第三者に該当するか否か
い 差押と詐害行為取消の優劣
差押は抵当権に基づく
抵当権は詐害行為(詐害移転)よりも前に登記済である
↓
抵当権・差押は詐害行為よりも優先となる
う 登記手続上の問題点
連鎖的に抹消される登記の権利者の承諾書が必要である
※不動産登記法68条
詐害行為取消権の行使の結果としての(登記名義を債務者に戻す)抹消登記申請において
差押債権者(抵当権者)はこれに該当するか否か(差押債権者の承諾書が必要か否か)
この問題点については次に詳しく説明します。
4 不動産の詐害行為|差押と詐害行為取消の優劣|登記手続の2つの見解
『差押』と『詐害行為取消』の優劣は,登記手続の扱いがちょっと難しいところです。
実体法上は『抵当権が優先』→『差押もこれに乗って優先』となります。
『保全登記以降』であるという理由で『強制的に抹消』はできません(前述)。
一方で『連鎖的に抹消される登記の権利者』として『承諾書』が必要とも思えます。
しかし『連鎖的に抹消される』ではない,という見解もあります。
2つの見解があるので整理します。
<抵当権者の承諾書の要否|両方の見解>
あ 抵当権者の承諾書『必要』説
『詐害移転』の登記を抹消すると『差押登記』も職権で抹消することになる
→差押債権者=抵当権者は『登記上の利害関係人』に該当する
→承諾書が必要
※昭和35年8月4日民事甲第1976号民事局長回答
※昭和61年7月15日民三第5706号民事局第三課長回答
い 抵当権者の承諾書『不要』説
差押登記は『詐害移転』登記抹消と両立する
→『利害関係人』に該当しない
→承諾書は不要
※『増補 不動産登記先例解説総覧』テイハンp1518
※福岡地裁平成2年11月9日(傍論として)
5 不動産の詐害行為|弁護士の知識が不足しがち→事故多発現場|ポジショントーク
不動産の詐害行為で『抵当権・差押』がぶつかると,以上のように難しい理論が関係してきます。
弁護士でも『よく知らない』人が多いです。
結果的に,適切な対応ができなくて依頼者が迷惑を被った判例もあります。
詳しくはこちら|不動産の移転登記と差押の優劣の知識不足→回収不能
しかも弁護士の責任としても『知らなくても仕方ない→責任なし』と判断しています。
依頼者の利益をふみにじる判断です。
いずれにしても,不動産や登記に関しては形式的・手続的でありながら,実際の大きな利害と直結しています。
依頼する弁護士によって結果が大きく違う,ということもよく生じるのです(ポジショントーク込み)。
本記事では,不動産の売買や贈与が詐害行為であった場合,詐害行為取消権を行使した債権者と当該不動産を差し押さえた債権者の優劣について説明しました。
実際には,個別的な事情により,法的判断や最適な対応方法が違ってきます。
実際に,複数の債権者が不動産について対立する状況に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。