【借地上の建物と借地権への担保設定(担保価値相場・地主の融資承諾書)】

1 借地上の建物と借地権への担保設定(総論)
2 建物+借地権を担保とする融資の典型的状況
3 借地権の担保価値の相場
4 借地権への担保設定における金融機関の要請
5 借地権を担保とする融資の返済期間
6 担保設定における地主の協力(まとめ)
7 担保設定への地主の協力と引き換え条件の書面化
8 法的には不要な承諾料を支払う実例(概要)
9 借地権への担保設定における弁護士のサポート

1 借地上の建物と借地権への担保設定(総論)

借地人が建物と借地権を担保として金融機関の融資を受けることがあります。
法律的な理論も複雑ですし,また,金融機関の実際の運用には独特のものがあります。
本記事では,借地上の建物(と借地権)に担保を設定することについて説明します。

2 建物+借地権を担保とする融資の典型的状況

建物と借地権を担保として融資を利用する典型的な状況は,建物の工事と売却です。

<建物+借地権を担保とする融資の典型的状況>

あ 建替え・リフォーム

借地人が借地上の建物の再築やリフォームを行う

い 建物(+借地権)の売却

借地人が建物+借地権を売却する
→購入者が購入資金のために融資を利用する

3 借地権の担保価値の相場

担保価値によって,融資を受けることができるかどうか,また,融資できる金額が決まります。
借地権の担保価値は,土地の抵当権によって非常に大きな影響を受けます。
平均的・一般的な金融機関の扱いを整理します。

<借地権の担保価値の相場>

あ 土地の抵当権との優劣(概要)

土地の抵当権が先に設定されている場合
→借地権(に設定する抵当権)は劣後となる
→借地権の価値は低くなる
詳しくはこちら|土地の抵当権と借地権の優劣(対抗関係)・市場価値への影響

い 借地権の担保価値の目安
状況 担保価値 融資可能額の目安
借地権が土地抵当権に劣後 最低 借地権の担保NG
借地権が土地抵当権に優先 1000万円まで
土地に抵当権なし 『建物+借地権』の7割

※実務における目安

4 借地権への担保設定における金融機関の要請

実務では,金融機関は融資の条件として地主の融資承諾書などを求めます。

<借地権への担保設定における金融機関の要請>

あ 地主の『抵当権設定承諾書』(融資承諾書)

金融機関は通常,担保設定についての『地主の承諾書』を要求する
建物への担保設定自体には法律上地主の承諾は不要である
ただし,解除の前に金融機関に通知する条項は一定の法的効果が認められる
詳しくはこちら|地主の融資承諾書の効力(金融機関への通知なしの解除の有効性・損害賠償責任)

い 相続後に書き換えた契約書or相続の合意書

借地権が相続により承継されている
しかし賃貸借契約書の書き換えがなされていない場合
→『ア・イ』のいずれかが要求される
ア 『現在の当事者による賃貸借契約書』(契約書の書換)イ 『相続の合意書』 地主なし・相続人全員の調印のもので足りることもある

う 金融機関が要求する他の資料

状況によって『ア〜ウ』のような資料が要求される
ア 地主の『再築(建替え)の承諾書』イ 地主の印鑑証明書ウ 地主の各種承諾書の押印に『実印』を求める

以前は『地主の承諾書』なしで融資を行うケースもよくありました。
最近では,ほぼすべての銀行系金融機関が『承諾書』を融資の前提条件として要求しています。
ノンバンクでは『承諾書』不要,ということもあります。
当然,審査が緩い方が金利が高くなるなど,融資条件に反映されることになります。

5 借地権を担保とする融資の返済期間

借地権を担保とするケースでは,期間の設定には特殊性があります。
借地期間を超える返済期間は原則として設定できないのです。
地主の協力により,返済期間をもっと長くすることもできます。

<借地権を担保とする融資の返済期間>

あ 原則的な返済期間

借地契約の残存期間を最大の返済期間とする

い 例外的な長期の返済期間

地主と交渉し,『ア・イ』のような合意が成立した場合
→『あ』より長期の返済期間が実現することもある
ア 借地期間の変更(延長する)イ 更新時の新契約の期間を長めにする

6 担保設定における地主の協力(まとめ)

以上のように,借地人が融資を受ける際に,いろいろな地主の協力が必要となるのです。

<担保設定における地主の協力(まとめ)(※1)

あ 承諾書の調印

例;担保権設定・再築・増改築

い 印鑑証明書・実印の押印
う 借地期間の長期化

7 担保設定への地主の協力と引き換え条件の書面化

地主の協力を得るには,通常,対価が必要になります。
手数料や承諾料という名目で金銭を支払うことがあるのです。
個別的な融資についての協力ごとに協議することもあります。
また,一般的に承諾料を決めておいて,借地契約書に条項として規定しておくという方法もあります。

<担保設定への地主の協力と引き換え条件の書面化>

あ 協議と合意の書面化

担保設定の前に地主と借地人で『う』の内容を協議する
合意に達したら
→書面として調印することが望ましい

い 借地の開始or更新時の条項化

借地の開始or更新の際に『う』の内容を協議する方法もある
合意に達したら
→借地契約書の条項として記録にすることが望ましい

う 協議・条項の内容

ア 現在・将来の『地主の協力』の内容(前記※1イ 『ア』の引き換え条件 借地人が協力の対価を地主に支払う
例;更新料・手数料・承諾料など

8 法的には不要な承諾料を支払う実例(概要)

以上のように,法律上のルールとは関係なく,金融機関の要請から地主の協力が必要になることがあるのです。
そのため法律上は承諾料は不要というケースでも承諾料が支払われる実例もあるのです。
詳しくはこちら|増改築トラブルにより地主の融資承諾書を得られない問題(弁護士ガイド)

9 借地権への担保設定における弁護士のサポート

借地上の建物(と借地権)を担保にするには,以上の説明のように,法律的な理論と,これとは別の実務的なノウハウが必要です。
弁護士による意見書により金融機関の融資の可否や融資条件の判断が変わるということもあります。
このような形で弁護士がサポートするケースもあるのです。

本記事では,借地上の建物(+借地権)への担保設定についての基本的事項を全体的に説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で判断(結論)が違ってくることがあります。
実際に借地上の建物についての担保に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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