【非嫡出子の相続分を半分とする規定→法律婚優遇・子供差別は不合理→違憲・無効】
1 『法律婚の保護』→非嫡出子の相続分は『半分』であった|平成7年判例=判例変更前
2 『非嫡出子』の相続分は『嫡出子と平等』になった|平成25年判例
3 法律婚優遇・子供差別の不合理性|昭和22年民法改正後の日本社会の変化
4 法律婚優遇・子供差別の不合理性|諸外国の家族・結婚制度における差別撤廃
5 法律婚優遇・子供差別の不合理性|条約における子供差別撤廃要請
6 法律婚優遇・子供差別の不合理性|公的手続における子供差別撤廃方針
7 法律婚優遇・子供差別の不合理性|過去の差別撤廃法律改正に向けた動き
8 法律婚尊重傾向・デキ婚の普及→『子供の差別』を正当化できない
9 平成7年判決の合憲判断の批判|『辛うじて合憲判断を維持』
10 平成7年判決の合憲判断の批判|法定相続は遺言がない時の『補充的』機能→批判
11 平成25年判例|基準変更の経過措置=遡及的紛争発生防止策|マフーバ措置
12 平成25年判例|遡及的紛争発生防止策=マフーバ措置の限界・批判
13 『家族の形態の多様性・価値観の多様化』を受け入れる社会=価値観の押し付けがない社会へ
1 『法律婚の保護』→非嫡出子の相続分は『半分』であった|平成7年判例=判例変更前
(1)判例変更前の『差別認容時代』
『兄弟』の中に『嫡出子』『非嫡出子』の両方がいる,ということがあります。
法定相続分は,以前は『非嫡出子は嫡出子の2分の1』というルールでした。
『子供差別規定』と呼ぶべき規定です。
今になって考えるとヒドいルールがあった古き悪しき時代でした。
<嫡出/非嫡出の法定相続分の差別=子供差別規定|平成25年判例前>
あ 改正前の民法900条4号ただし書
『非嫡出子の法定相続分』は『嫡出子の法定相続分』の2分の1とする
い 差別の理由|前提
『法律婚主義』が採用されている
→法律婚を保護・尊重する
う 嫡出子の保護
『婚姻関係にある配偶者とその子』を優遇する
え 非嫡出子の不利扱い
『嫡出子の保護』のために『非嫡出子』を『嫡出子』よりも不利に扱う
不利ではあっても一定の保護=法定相続分を与える
→法定相続分=『嫡出子の半分』という調整となった
※最高裁平成7年7月5日;判例変更されている
この規定は『非嫡出子を差別(劣後扱い)する』趣旨のものだったのです。
平成7年の最高裁はこの差別は『合憲』と判断しました。
(2)ネーミングについて
『嫡出』という用語は差別的ニュアンスがあります。
そこで『婚内子』『婚外子』と言うことが推奨されています。
本記事では法的な扱いがテーマなので,判決でも用いる『嫡出/非嫡出』を主に用います。
2 『非嫡出子』の相続分は『嫡出子と平等』になった|平成25年判例
嫡出/非嫡出子の法定相続分の差別は,平成25年に『違憲・無効』となりました。
最高裁で,平等原則(憲法24条)違反と判断されたのです。
<非嫡出子の相続分の差別→無効|平成25年判例>
あ メインの部分
非嫡出子と嫡出子の法定相続分を異なるものとする規定は無効とする
※平成22年民法改正前の民法904条ただし書
い 遡及的紛争発生防止策|マフーバ措置
過去の相続について合意・裁判等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない
※最高裁平成25年9月4日
メインの部分は,従来の判断,具体的には平成7年の最高裁判例を変更するものです。
判断を変更するにあたって『適用のタイミング』の調整についても基準を設定しました。
『新しい判断=基準がいつまで遡るか』ということです。
これらについては順に説明します。
3 法律婚優遇・子供差別の不合理性|昭和22年民法改正後の日本社会の変化
平成25年判例では,社会の変化の考慮・分析を元に判断がなされています。
子供差別規定が制定された昭和22年をモトにして現代までの社会の状況が検討されました。
この当時以前の『家族の形態』が分かる相続のルールを最初にまとめます。
<昭和20’sまで|家族の形態=家督相続時代>
あ 第1順位の相続人=第1種法定推定家督相続人
被相続人(前戸主)の直系卑属
複数いる場合→被相続人と親等が近い者
い 具体的規定
最優先=男子・年長・嫡出子
女子の『嫡出子』よりも男子の『非嫡出子』が優先
※旧民法970条
※昭和22年末に廃止
平成25年判例では昭和22年以降の,日本の社会・価値観の変化が示されています。
<子供差別|日本の社会・価値観の変化>
あ 昭和20’s|『家族の形態』の変化
戦後の経済の急速な発展→家族の形態が変わった
概念 | 昭和22年当時の状況 |
『家族』の位置付け | 『職業生活を支える最小単位』 |
『家族』の新たな形態 | 核家族=夫婦と一定年齢までの子どもを中心とする形態 |
い 現代|高齢化の進展→『相続』の意味あい変化
生存配偶者の生活の保障の必要性が高まった
→『相続財産の意義』が変化した
昭和20’s | 現代 |
『子孫の生活手段』 | 『生存配偶者の生活補償』の性格が強まった |
う 現代|婚外子割合の変化
昭和50年代前半まで | その後現在まで |
減少傾向 | 増加傾向 |
※極小点=昭和53年;0.77%
え 現代|晩婚化・非婚化・少子化
平成期に入った後においては,晩婚化,非婚化,少子化が進んだ
《増加している家族形態》
ア 中高年の未婚の子がその親と同居する世帯イ 単独世帯
お 現代の『家族の形態』『結婚観』|まとめ
ア 婚姻,家族の形態が著しく多様化しているイ 婚姻,家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいるウ 離婚件数,特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数・再婚件数が増加している ※最高裁平成25年9月4日
4 法律婚優遇・子供差別の不合理性|諸外国の家族・結婚制度における差別撤廃
昭和22年に子供差別規定が制定された時に『諸外国の状況』を反映させる意図が強くありました。
そこで逆に平成25年判例でも最新の諸外国の状況を参考にしました。
<諸外国の家族・結婚制度の変化>
あ 諸外国の状況の大きな変化
1960年代後半(昭和40年代前半)以降
多くの国で,子の権利の保護→『嫡出/非嫡出』の平等化が進んだ
=相続に関する差別を廃止する法改正がなされた
い 諸外国の法律改正具体例|平成7年以降
国 | 立法時期 | 制定された法律 |
ドイツ | 1998年(平成10年) | 非嫡出子の相続法上の平等化に関する法律 |
フランス | 2001年(平成13年) | 生存配偶者及び姦生子の権利並びに相続法の諸規定の現代化に関する法律 |
う 残存する子供差別認容国
判決日現在,日本以外で嫡出/非嫡出の相続分に差異を設けている国
欧米諸国 | ない |
他の国 | 非常に限られている |
※最高裁平成25年9月4日
5 法律婚優遇・子供差別の不合理性|条約における子供差別撤廃要請
平成25年判例までの間に『子供差別撤廃』を要請する条約やこれに基づく国連関係機関の勧告がありました。
<条約における子供差別撤廃要請>
あ 条約の批准
批准時期 | 条約 |
昭和54年 | 市民的及び政治的権利に関する国際規約 |
平成6年 | 児童の権利に関する条約 |
い 条約の内容|子供の差別関連
『児童が出生によっていかなる差別も受けない』旨の規定が設けられている
う 条約遵守に関わる組織
国際連合の関連組織
自由権規約委員会・児童の権利委員会
え 国連委員会による要請
平成5年 | 自由権規約委員会 | 包括的に差別的規定の削除を勧告 |
その後 | 2委員会 | 差別的規定に対する懸念の表明・法改正の勧告等を繰り返した |
平成22年 | 児童の権利委員会 | 差別的規定を懸念する旨の見解の公表 |
※最高裁平成25年9月4日
6 法律婚優遇・子供差別の不合理性|公的手続における子供差別撤廃方針
平成25年判例よりも前から各種公的手続で『非嫡出子の差別』の解消が進んでいました。
<公的手続における子供差別撤廃方針>
住民票 | 平成6年 | 嫡出/非嫡出のいずれも一律に『子』と記載する |
戸籍 | 平成16年 | 嫡出/非嫡出のいずれも続柄欄に『長男(長女)』などと記載(更正)する |
日本国籍取得 | 平成20年 | 嫡出/非嫡出の差別撤廃|最高裁判例 |
※最高裁平成25年9月4日
『日本国籍取得』についての差別撤廃は別記事で説明しています。
詳しくはこちら|嫡出子・嫡出推定|基本|差別的ニュアンス・再婚禁止期間・準正
7 法律婚優遇・子供差別の不合理性|過去の差別撤廃法律改正に向けた動き
日本でも子供差別規定は問題視され,法改正=撤廃の動きが過去に何度もありました。
<子供差別撤廃|過去の法律改正に向けた動き>
時期 | 子供差別撤廃方向の動き |
昭和54年 | 法務省民事局参事官室の改正案 |
平成6年 | 法務省民事局小委員会の審議の改正案 |
平成8年 | 法制審議会が法務大臣に答申した改正案 |
平成22年 | 政府により準備された改正案 |
→いずれも国会提出には至っていない
※最高裁平成25年9月4日
8 法律婚尊重傾向・デキ婚の普及→『子供の差別』を正当化できない
平成25年判例では,子供差別規定について,以上のような不合理性が指摘されました。
その一方で『子供差別規定を肯定する価値観=法律婚の尊重』についても検討されています。
(1)法律婚の尊重の確認|デキ婚が典型
平成25年判例では,『法律婚の尊重』という価値観について現状確認がなされています。
<法律婚尊重傾向の確認>
あ デキ婚の普及傾向(できちゃった結婚)
『婚姻届を提出するかどうかの判断が第1子の妊娠と深く結び付いているとみられる』
→『全体として嫡出でない子とすることを避けようとする傾向がある』
→『法律婚を尊重する意識は幅広く浸透しているとみられる』
詳しくはこちら|嫡出推定を『受けない』×出生届|救済措置・デキ婚普及・最高裁コメント
い 『非嫡出子』のシェアが低い
ア 非嫡出子の出生数(割合)が少ないイ 諸外国と比較しても非嫡出子(割合)が少ない ※最高裁平成25年9月4日
(2)『法律婚の尊重』で『子供差別』を正当化できない
『法律婚の尊重』を確認した上で『子供差別』とは結びつかない,と指摘しました。
<法律尊重傾向vs子供の差別>
あ 判断の枠組み
嫡出でない子の権利が不当に侵害されているか否かという観点から判断されるべき法的問題である
い 社会的・統計情報と法解釈の関係
法律婚を尊重する意識の浸透
非嫡出子の割合が低いこと
↓
『子供の差別』を肯定する結論に直ちに結び付くものではない
※最高裁平成25年9月4日
9 平成7年判決の合憲判断の批判|『辛うじて合憲判断を維持』
『子供差別規定』を審理した直近の最高裁判例が平成7年判例です。
そこで,平成25年判例では,平成7年判例についても考慮されています。
<平成7年判例=合憲|位置付け>
5名の裁判官が反対意見を述べた
否定的な補足意見があった
↓
子供の差別を合憲とする結論を『辛うじて維持した』ものである
※最高裁平成25年9月4日
まずは『合憲判断のレベル』が『低い・薄い』ということをハッキリさせています。
10 平成7年判決の合憲判断の批判|法定相続は遺言がない時の『補充的』機能→批判
平成7年判例では『補充的』というポイントで違憲判断を避けています。
言わば『違憲と言わないエクスキューズ』というものです。
平成25年判例はこの『逃げ・エクスキューズ』を批判・排斥しています。
<平成7年判例|『補充的』だから違憲判断を避けた>
あ 平成7年判例のコメント
法定相続は『遺言による相続分の指定などがない場合』にだけ機能する
→子供の差別の規定(法定相続)は『補充的に機能する』規定である
い 平成7年判例を批判
遺留分については『遺言による差別回避』ができない
出生時から嫡出でない子に対する『差別意識』を生じさせかねない
逆に,法定相続分を『平等とする』ことも何ら不合理ではない
う 結論|平成25年判例の判断
『補充的に機能』する規定であること
→重要性を有しない
※最高裁平成25年9月4日
平成25年判例では,以上のように,社会の状況を考慮し,平成7年判例を排斥しました。
結論として『子供差別規定』を違憲=無効,と判断したのです(前述)。
11 平成25年判例|基準変更の経過措置=遡及的紛争発生防止策|マフーバ措置
(1)経過措置|遡及的紛争防止策|マフーバ措置
この裁判の対象となっていた相続は『平成13年(に死亡した方)』のものでした。
最高裁は『平成13年の時点の社会の価値観として,差別扱いは違憲となっていた』と判断したのです。
しかし,このままでは『平成13年〜平成25年』までの相続に関する紛争が蒸し返されることになります。
そこで判決では『過去の一定範囲の遺産分割は覆さない』というコメントを付けました。
要するに『過去の相続にフタ』をしたのです。
『マフーバ措置』とでも呼ぶべき対処法です。
これは異例のことです。
<遡及的紛争発生防止策|マフーバ措置;既出>
過去の相続について合意・裁判等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない
※最高裁平成25年9月4日
12 平成25年判例|遡及的紛争発生防止策=マフーバ措置の限界・批判
マフーバ措置は,過去の相続についての見解の対立→紛争発生,を防止するものです。
合理性はあるでしょう。
しかし,却って不公平である,曖昧な扱いが生じる,との批判もあります。
<遡及的紛争発生防止策により生じる曖昧ゾーン|例>
遺産分割成立後に新たに相続人が発覚した場合
→判例上の『フタ』に該当するかどうかがハッキリしない
13 『家族の形態の多様性・価値観の多様化』を受け入れる社会=価値観の押し付けがない社会へ
(1)社会の価値観と政府の施策の関係
『子供の差別』は時代遅れです。
時代に関わらず批判・非難されるべきことです。
『差別』を法律として施行して,政府が『差別』を率先している場合ではありません。
政府は差別の排除を実現するために努力すべきなのです。
(2)平成25年判例の背景=価値観の多様化
平成25年判例は,子供の差別を違憲としました。
背景にある価値観は『非嫡出子』=『婚外子』への差別は合理性がない,というものでした。
一方で『法律婚を選ぶ人がまだ多い』ことは事実です。
<平成25年判例の背景にある価値観>
あ 社会的な現状
法律婚を選ぶカップルが多い
い 従来の政府の施策
法律婚を強制する
=法律婚を選ばない者を政府が不利に扱う
う 平成25年判例の核心部分
『あ』と『い』を区別する
=『あ』は『い』を正当化しない
他の判例でも『婚外子』を歓迎するものが続々と登場しています。
国会よりも裁判所の方が世論を先に国家運営に取り入れているという状態が続いています。
これは,国家運営のシステム上,通常のことではありません(憲法81条参照)。
今後は『婚外子』を認める社会にするため,国会による法整備が進められることが期待されます。
詳しくはこちら|婚外子として子供を持つ家族(事実婚・内縁など)の普及と社会の変化
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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