【日常生活水準の出費(日常家事債務)は夫婦相互に代理権があり連帯責任がある】
1 夫婦の一方の『債務』|原則論|相互に影響しない
2 日常家事債務の夫婦の連帯責任の趣旨
3 日常家事に関する夫婦の代理権
4 日常家事債務の範囲は生活水準で決まる
5 日常家事債務|判断要素
6 日常家事債務・認定例|家賃・水光熱費・生活必需品・教育・医療
7 日常家事債務|否定事例|ギャンブル・事業・不相応な高価品
8 日常家事債務が具体化する場面|別居・離婚・破産など
1 夫婦の一方の『債務』|原則論|相互に影響しない
夫婦の一方の『債務』を,配偶者も負うかどうかが問題となることがあります。
まずは原則的な扱いをまとめます。
<夫婦の一方の『債務』|原則論>
あ 夫婦の一方の『債務』
『妻のした契約による債務』
→夫が当然に負担することにはならない
い 具体例
『蒸発した夫が残した多額の借金を妻が苦労して払う』
→原則的にこのような法的義務は生じない
原則として,契約から生じた債務は,その契約当事者が負います。
契約にタッチしていない者には効果は及びません。
2 日常家事債務の夫婦の連帯責任の趣旨
日常家事に関する債務は,例外的な扱いがあります。夫婦が連帯責任を負うのです。
<日常家事債務の夫婦の連帯責任の趣旨>
あ 趣旨
日常生活に関する契約を『妻』が行った
→通常『代金は家族が協力して払ってくれる』と期待する
い 日常家事債務
日常生活に関する契約によって生じた債務
→夫婦の連帯債務となる
『日常家事債務』と呼ぶ
※民法761条
3 日常家事に関する夫婦の代理権
日常家事に関する債務が発生する段階では,夫婦以外の第三者と契約がなされているはずです。
契約を締結することについて,夫婦は相互に代理権が認められます。
例えば,妻が夫の代わりに契約を締結することができるのです。
<日常家事に関する夫婦の代理権>
日常の家事に関する法律行為について
夫婦はお互いに代理権を有する
※最高裁昭和44年12月18日
4 日常家事債務の範囲は生活水準で決まる
以上で説明した連帯責任や代理権が適用されるのは日常家事に関するものです。
日常家事(債務)として扱われる範囲を説明します。
<日常家事債務の範囲>
あ 最高裁判例の解釈
その夫婦の住む地域,生活水準からして,日常生活を送るために通常必要であると考えられる契約
※最高裁昭和44年12月18日
い 文献上の解釈論
ア 夫婦と未成熟子からなる共同生活に通常必要とされる一切の事項
※『注釈民法9』有斐閣p105
イ 実質的に夫婦共同生活の維持に必要かどうかで判断すべき
※内田貴『民法IV 補訂版 親族・相続』東京大学出版会p42
ウ 平均的な月々の家計に支障をきたさない程度
せいぜい5万円程度までの商品購入や借金に限るべき
※二宮周平『家族法(新法学ライブラリ)』新世社p69
5 日常家事債務|判断要素
日常家事債務の該当性を判断する事情・要素についてまとめます。
次のような要素を総合的に考慮することになります。
<日常家事債務|判断要素>
・支出額
・契約(行為)の目的
・夫婦の社会的地位,職業,資産,収入
・生活する地域の慣習
・契約(行為)の種類,性質
・夫婦の内部的事情
6 日常家事債務・認定例|家賃・水光熱費・生活必需品・教育・医療
裁判例等において日常家事債務とされる具体的,典型的な費目をまとめます。
<日常家事債務|認定例>
あ 夫婦が暮らす借家の家賃
夫婦の一方が賃貸借契約を締結した
→他方も賃料・損害金債務を負担する
※札幌地裁昭和32年9月18日
※大阪地裁昭和27年9月27日
い 夫婦が暮らす家の水道光熱費,テレビ受信料
※札幌高裁平成22年11月5日
※東京高裁平成22年6月29
※千葉地裁平成22年10月28日
う 生活必需品の購入費
え 子供の教育,養育費
お 家族の医療費
か レジャー費,被服費,化粧品代(収入に比較して相応な程度)
日常家事債務の1つに夫婦が住む賃貸物件の賃料(や損害金)があります。この場合,賃貸人は(賃借人ではない)妻にも賃料を請求できます。これと関連して,賃貸人と夫が賃貸借契約を合意解除しても,妻に明渡請求できないという扱いもあります。
詳しくはこちら|賃借人による合意解除における配偶者の保護(法律婚・内縁共通)
7 日常家事債務|否定事例|ギャンブル・事業・不相応な高価品
日常家事債務として認定されなかった事例をまとめます。
<日常家事債務|否定事例>
あ ギャンブルによる借金
い 事業失敗等の仕事上の借金
う 収入に比較して不相応な高価品の購入
例=太陽熱温水器
※門司簡裁昭和61年3月28日
え 交通事故等の損害賠償
お 規模が大きい契約
例=建物の売買・抵当権設定
※札幌地裁昭和32年9月18日;例示として
8 日常家事債務が具体化する場面|別居・離婚・破産など
通常は,現実的に,夫婦は経済的に一体となっていることが多いです。
そうすると,実際には,責任を負っているのが夫婦連帯でも夫(妻)だけでも関係ないと言えましょう。
そこで,特殊な状況でないと,以上で説明した日常家事債務の連帯責任は実際に問題となることはありません。
逆に,夫婦間の日常家事債務が問題になるのは,次のような状況が典型です。
<日常家事債務が具体化する場面>
あ 夫婦仲が悪化→別居中
い 離婚後
婚姻期間中の債務の処理として問題になる場合です。
う 夫婦の一方が破産や民事再生を行った場合
本記事では,夫婦の日常家事に関する連帯責任や代理権について説明しました。
実際には,特に生活水準の判断について,個別的事情によって大きく変わってきます。
実際に日常家事の債務に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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