【マンションの悪質行為|基本|対応=停止・予防・使用禁止・競売・引渡請求】
1 区分所有法の禁止行為|悪質居住者対策の基本的ルール
2 禁止行為=『区分所有者の共同の利益』に反する行為|具体例
3 悪質居住者への対応|行為停止・予防請求
4 悪質居住者への対応|使用禁止請求
5 悪質居住者への対応|区分所有権競売請求
6 悪質『賃借人』への対応|契約解除・引渡請求
7 悪質入居者への対応×権利濫用
8 悪質居住者への対応|全体のフロー
9 悪質居住者対応の効率アップ|信託を活用したアイデアもある
1 区分所有法の禁止行為|悪質居住者対策の基本的ルール
本記事では分譲マンションにおける『悪質居住者』への対応について説明します。
分譲マンションでは多数の方が居住しています。
戸建住宅とは違って,居住者同士での迷惑・トラブル,ということが,より起きやすいです。
そこで区分所有法で『禁止行為』が規定されています。
<区分所有者の禁止行為>
あ 禁止の対象者
ア 区分所有者イ 占有者 例;専有部分の賃借人
い 禁止行為
建物の管理or使用に関し『区分所有者の共同の利益』に反する行為
例示;建物の保存に有害な行為その他
※区分所有法6条1項,3項
『区分所有者』とは,分譲マンションの各戸所有者のことです。
『禁止行為』に該当した場合,その対策がいくつかあります。
最終的には競売請求により『第三者に売却する』という協力な手段も用意されています(後述)。
まずは『禁止行為』の内容について続けて説明します。
2 禁止行為=『区分所有者の共同の利益』に反する行為|具体例
区分所有法の『禁止行為』はちょっと抽象的です。
その具体例をまとめます。
<『区分所有者の共同の利益』に反する行為|具体例>
あ 建物の保存に有害な行為
専有部分内の耐力壁を撤去する
専有部分に接続してベランダ(バルコニー)を作る
ベランダを居室に変更する
い 不当な共用部分占有
ア 廊下などの共用部分に私物を置く・ごみを放置するイ 共有敷地に常時自動車・自転車を駐車させる
う 共同生活上の不当・迷惑行為
ア 野生動物の餌付けをする→共用部分が動物の糞尿で汚損するイ 専有部分でカラオケ営業→深夜まで使用する→騒音被害発生ウ マンション管理費・修繕積立金の多額の滞納(後述)エ 暴力団の組事務所としての使用(後述)
え 規約違反
ア マンション管理規約の『住居専用』の規定違反
例;専有部分を事務所・店舗として使用する
イ マンション管理規約の『ペット飼育禁止』の規定違反
→専有部分でペットを飼育する
なお,管理規約は設定・変更に関与していない者に対しても効力を持ちます。
例えば,新たに購入した者も購入前に作られた規約の適用を受けるのです。
詳しくはこちら|区分所有法の集会・総会|基本|決議要件|管理規約の効力
3 悪質居住者への対応|行為停止・予防請求
『禁止行為』は,いわゆる『悪質居住者』と呼ばれるケースです。
悪質居住者への対応方法は,区分所有法上4種類が規定されています。
最初に『行為停止・予防請求』についてまとめます。
<行為停止・予防請求>
あ 対象行為
区分所有者or占有者が『禁止行為』をしたorするおそれがある場合
『禁止行為』=区分所有法6条1項に規定される行為のこと
い 請求できる者
他の区分所有者全員or管理組合法人
う 請求内容
行為の『停止・結果除去・予防』に必要な措置を執ること
え 訴訟提起の場合
訴訟において請求する場合
→『集会の決議』が必要
決議要件=区分所有者・議決権の各過半数
※区分所有法57条,16条
4 悪質居住者への対応|使用禁止請求
悪質居住者への対応として『使用禁止請求』があります。
専有部分の使用自体を禁止する,強い手段と言えます。
<使用禁止請求>
あ 対象行為
区分所有者or占有者が『禁止行為』をしたorするおそれがある場合
い 請求の要件
次のいずれにも該当する場合
ア 共同生活上の障害が著しいイ 『行為停止・予防請求』では共同生活の維持が困難である
う 請求できる者
他の区分所有者の全員or管理組合法人
え 請求するプロセス
集会の決議+訴訟
お 決議要件
区分所有者・議決権の各4分の3以上
か 請求内容
相当の期間,専有部分の使用を禁止する
※区分所有法58条
5 悪質居住者への対応|区分所有権競売請求
(1)区分所有権競売請求
悪質居住者への対応として『使用禁止』よりもさらに強い手段が『競売請求』です。
要するに『第三者に強制的に売却する=所有権を取り上げる』という方法です。
<区分所有権競売請求>
あ 対象行為
区分所有者or占有者が『禁止行為』をしたorするおそれがある場合
い 請求の要件
次のいずれにも該当する場合
ア 共同生活上の障害が著しいイ 『使用停止・禁止』請求では,共同生活の維持が困難である
う 請求できる者
他の区分所有者の全員or管理組合法人
え 請求するプロセス
集会決議+訴訟
お 決議要件
区分所有者・議決権の各4分の3以上
か 請求内容
区分所有権・敷地利用権を競売する
き 競売における関係者排除
競売では当該区分所有者・占有者は入札できない
実質的にこれらに該当する者も入札禁止に含まれる
※区分所有法59条
(2)区分所有権競売請求×無剰余差押
一般的な競売のルールとして『無剰余差押禁止』というものがあります。
区分所有権の競売の場合には,ちょっと複雑な解釈となります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|区分所有法の競売請求×無剰余差押禁止|管理費滞納・特別扱い
6 悪質『賃借人』への対応|契約解除・引渡請求
悪質居住者が『区分所有者(オーナー)』ではなく『賃借人』というケースも多いです。
この場合は『禁止行為の違反者』と『所有者』が異なります。
『競売請求=強制的に売却する』という方法は『違反者ではない所有者に不利益』を生じます。
競売請求はできません。
そこで『引渡』だけを請求する手続が用意されています。
<引渡請求>
あ 対象行為
『占有者』が『禁止行為』をしたorするおそれがある場合
い 請求の要件
次のいずれにも該当する場合
ア 共同生活上の障害が著しいイ 『解除・引渡請求』以外の方法では共同生活の維持が困難である
う 請求できる者
区分所有者の全員or管理組合法人
え 請求するプロセス
集会決議+訴訟
お 決議要件
区分所有者・議決権の各4分の3以上
か 請求内容
次のいずれも請求できる
ア 契約解除
専有部分の使用or収益を目的とする契約の解除
例;賃貸借契約
イ 専有部分の引渡
※区分所有法60条
7 悪質入居者への対応×権利濫用
区分所有法には悪質入居者への対抗策がいくつか用意されています(前述)。
実際のこれらの手続では訴訟において『権利濫用』が争点となることが多いです。
個別的・具体的な事情から,請求すること自体が不合理であるという考え方です。
権利濫用が認められた判例については別記事で紹介しています。
詳しくはこちら|悪質行為・住居専用規定違反|事例|治療院・暴力団組事務所|権利濫用
8 悪質居住者への対応|全体のフロー
悪質居住者への対応は,区分所有法上,4つの手続が規定されています(前述)。
これらに共通する手続全体の流れをまとめます。
<『禁止行為』違反者への対応|区分所有法の手続>
あ 督促
『行為停止・予防・使用禁止・競売・引渡』の請求
内容証明郵便を用いることもある
管理組合の理事長名義or代理人弁護士名義など
↓
い 総会(集会)開催
↓
う 決議
決議要件は4分の3or過半数
決議事項により異なる(前記)
↓
え 使用禁止の仮処分申立
仮処分申立は行わないこともある
仮処分の手続の中で和解が成立することもある
↓
お 訴訟提起
↓
か 勝訴判決獲得
↓
き 任意の履行or強制執行
9 悪質居住者対応の効率アップ|信託を活用したアイデアもある
区分所有法上の『禁止行為』違反(悪質居住者)への対応は,前述のように,一定の手間・時間がかかります。
さらに決議要件は主に『4分の3』です。
ハードルが結構高いです。
このような問題を解消する『信託を活用した方法』もあります。
これは別記事で説明しています。
詳しくはこちら|マンションの悪質居住者対策|信託を活用した『住居権』スキーム