【法人格否認の法理|法人制度の原則論・形骸化・対抗関係につながる】
1 『法人代表者と個人が同一』→法人格は別|『法人制度』の原則論
2 『法人と個人が同一』×不正な場合→権利・取引自体が否定される|法人格否認の法理
3 『法人格否認』×賃貸借の対抗関係|賃貸借契約自体が否定される
4 『法人格否認』|実務上はハードルが高い
本記事では『法人格否認の法理』について説明します。
1 『法人代表者と個人が同一』→法人格は別|『法人制度』の原則論
法人の代表者は『法人』としての立場と『純粋な個人』の立場の両方があります。
これは『法人制度』の根本的な構造です。
当然想定されていることです。
実際に『対抗関係』の中に『法人/個人の両面』が登場するケースがよくあります。
<法人/個人の両面性×建物の賃借人(賃借権)の対抗関係>
あ 対抗関係
所有者 法人
賃借人=占有者 法人の代表者個人
い 原則的な優劣
先に対抗要件を備えた方が優先となる
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本
ここまでは原則論です。
特殊事情があるとこの結論が違ってきます。
2 『法人と個人が同一』×不正な場合→権利・取引自体が否定される|法人格否認の法理
一定の事情があると『法人と代表者個人をイコールとして扱う』ことがあります。
<法人格否認の法理>
あ 要件
多くの事情から,法人と個人が同一と言えるような状況である
→法人格が形骸に過ぎない
→法人格を否認(否定)する
い 判断要素|典型
ア 会社の規模イ 取締役会の構成・非活動的状況ウ 代表者個人の財産の流用の経緯 ※東京高裁昭和61年7月2日
3 『法人格否認』×賃貸借の対抗関係|賃貸借契約自体が否定される
法人格否認が適用されると『賃貸借契約の存在』自体が否定されます。仮に賃借権の対抗要件を得ていても,結論は同じです。対抗要件は,実体上権利を取得した者が得て初めて有効となる(対抗力を生じる)ものだからです(登記の実質的有効要件)。
詳しくはこちら|登記の対抗力の有効要件の全体像(形式的有効要件と実質的有効要件の内容)
<『法人格否認』×賃貸借契約>
あ 賃貸借契約の扱い
『法人格否認』に該当した場合
→賃貸人と賃借人が同一の者となる
→混同として債権・債務は生じない
※民法520条
→賃貸借契約自体が否定される
い 占有権原
『占有権原のない占有者』となる
→買主(新所有者)からの明渡請求が認められる
4 『法人格否認』|実務上はハードルが高い
このように,登記・対抗要件の判断では『法人格否認』が関わることも多いです。
実務上は『法人格否認』が適用されるのは,異常事態=特殊事情がハッキリしている場合のみです。
『違和感のある状態』自体は『法人制度』で当然想定されていることです。
多少の『変な感じ』くらいでは,法人格を否定できません。